勉強のない日
昨日は中々寝付けなかったせいか、少しぼんやり
している。夢を見たような気もするが、おそらく
また前世の夢だろう。はっきりとは思い出せないが。
もそもそとベッドから這い出し、クローゼットから
服を選ぶ。淡い水色のシンプルなワンピース。
母が選ぶ服は、淡い色が多い。
着替えて母に挨拶、クェイルの世話、父の過剰
スキンシップ、朝食までが朝のいつもの日常だ。
次の勉強の日はあさって、ルーン先生の植物学。
森と生きるエルフにとって大切な知識や魔法を学ぶ。
一番好きな勉強の日だ。
シーヤの部屋の窓にはリャンの花の鉢植えがあるが、
これはルーン先生の宿題で育てている。
種から魔力を流して成長させ、どのくらい時間が
かかったか観察日記を提出する。
勉強のない今日は魔力操作の自主鍛錬をする。
ふだんは家で体内魔力の循環などを行うが、
今日は地下練習場へ行くことにした。
地下練習場は塔の地下にある。買い出しで両親は
里の外へ行くというので一緒に塔へ向かった。
父と母の間で、3人で手をつないで歩く。
もう小さな子どもではないが、エルフの父にとっては
13歳など小さな子と変わらないのかもしれない。
「今日は何を買ってくるの?」
里からの転移陣にとっては国境はないも等しい。
好きな国に新鮮で良い物を買いに行ける。
人間もこのネットワークはエルフからの恩恵なので、
強く出れないのだ。
どの国の商人も輸送に転移陣を応用したものを
使っているので、きちんと適正価格で取引してくれる。
「そうねえ。服や布を多めに買ってくるわ。
昨日のブルピグの毛皮と牙をギルドで換金してから、
実家に肉をおすそ分けしてくる予定よ。
今、娘が孫をつれて遊びに来てるはずだから
喜ぶと思うわ。」
母の両親はもうずいぶん前に亡くなったらしいが、
弟一家が住んでいるらしい。
里の外に出られないから会ったことはないが、
買い出しのたびに顔を出している母から話だけは
聞いている。
エルフの伴侶になり寿命の延びた母の年齢は70代。
孫は私と同じくらいの年らしい。
「そろそろ森の果物の時期だから、たくさん砂糖を
買ってこないと。シーヤの好きなジャムやケーキが
いつでも作れるようにね。」
「うわあ、楽しみ。帰りは遅くなる?」
「それほどでもないよ。昼の鐘を過ぎるが午後に
戻るよ。戻ったら練習場に迎えに行くよ。」
塔について里の外へ行く陣に両親が立つ。
父が魔力で陣に干渉し、母の実家のある町まで
転移する。
二人を見送り、同じフロアの別の陣に乗って
地下に降りた。