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森の、中。  作者: ゆらゆらさん
第1章 エルフの故郷(さと)
12/19

恋しくて

夕食を終え、父がギルを追い返した。母と並んで

後片付けをする。


「ギルはあなたが産まれる前はあんなふうじゃ

なかった気がするんだけどね・・・

やっぱり前世まえの影響なのかしら?」


父と出会う前から冒険者をしていてギルに面識が

あった母は、ギルにとって対象外だったためか

紳士に見えていたらしい。

その頃は鬼畜行為してなかったみたいだし、

何度かパーティーを組んでいたそうだ。


その縁で父と出会い、その場でプロポーズを

受けたらしい。里の外で暮らしていて、子供を

あきらめかけた頃私がおなかに宿ったそうだ。


母は美人だが、外見でいえば父より年上に見える。

父には以前にも人の伴侶がいたことがあったが、

その時は子供ができなかったそうだ。


魔力感知で女の子とわかった途端すぐ里に戻ったらしい。

早い時期に運命が見つかることの多い女の子は

伴侶を持てば100歳を待たず親元を離れてしまう。

できるだけ長く一緒にいたい親心か・・・


洗い物を終え入浴をする。両親は一緒に入るが、

私は記憶が戻ったころから一人で入っている。

シャンプーはないが石鹸と香油はある。

過去の転生者達に感謝。


風魔法で髪の水分を飛ばし、ベッドに入る。

横になって眼を閉じる。思い浮かぶのは夫の顔、

子供の顔。

こうやって思いふける日も、以前よりは減った気がする。


エルフが伴侶を運命と呼ぶのなら、私にとって

夫は運命だった。

決して美形ではない。安心させる穏やかな顔。

ややひげが濃くて、ほおずりすると、痛い。

お腹だって出て来てたし、結婚して17年、

すっかりふつうのおじさんだった夫。


やさしく名前を呼び、一緒に過ごす。お酒が弱くて、

まっすぐ家に帰ってくる。

毎日夕食は家族そろって、夫と入浴し、

同じベッドで眠る。

寒い夜は抱き寄せて冷えた手足を温めてくれた。

先に寝ていても、部屋に入ると寝ぼけながら

布団をあけて手をひろげる夫。


もう大きい子どもたちは個室だ。

トイレに行ったついでに見回って、けとばした

布団を直す。大きくなっても小さな頃と変わらない。


受験生の息子はおふくろと呼び方を変えてきて、

むず痒かった。

中学生になった娘は、口がへらず、言い合いや

掛け合いも楽しかった。

断片的にしか思い出せないのに、蘇るのは

楽しかった幸せな記憶ばかり。


この世界で成長するにつれ以前より思い出す時間も

減っている。だが今日のような夕食時のにぎやかさは、

前世の夕食時を思い出させる。おかずの取り合いで、

兄妹げんかする子どもを叱ったことも。


今の家族はアードエリーだ。

彼らにとっては私は大切な子どもなのだ。

私にとってのあの子たちのように。私に前世まえ

無理に忘れようとしなくていいと、言ってくれた

優しい二人。


彼らの前ではなるべく子どものようにふるまいたい。

子供には子供らしくいてほしい、複雑な

親としての気持ちがわかるから。


それでも・・・思い出の中の夫が、子供たちが、

こんなにも恋しい。


15になる年、運命との魔力共鳴が起きたら・・・

この想いはどうなってしまうのだろうか。

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