一家団欒
「父さま、ブルピグは?」
狩ったというが手ぶらの父。
「家に置いてきたよ。エリーが解体してる。
今日は獲れたてだから、新鮮な魔臓も食べられるぞ!」
ブルピグは魔獣だ。怖い顔の大きい猪みたいな感じ。
豚肉の味をもっと濃厚にしたような旨味がある。
乱獲のせいで最近は手に入りづらい。
本来は5日ほど熟成させたほうが旨いのだが、
ブルピグの魔臓は獲れたてしか食べられない。
魔臓とは、魔獣の内臓の一部で、魔力の元となる
魔素を作る。
魔獣と動物の違いはこの魔臓があるかないかだ。
魔臓のある魔獣は魔素の濃い土地で動物が
変化したものという説もある。
シーヤの家で飼っているクェイルも魔獣だ。
魔鳥というべきか。
魔臓は魔獣によって場所や形は決まっていない。
クェイルは鶏に似た形の黄色の鶏冠が
魔臓の役割をしている。
燻製にしたものは酒を嗜むエルフの珍味である。
エルフのように魔力の強い存在には、魔臓が大変
美味しく感じる。
また、子どものエルフには魔力成長を促す効果がある。
ブルピグのように強い魔獣の魔臓は魔素が濃く、
人間には食べ過ぎると毒になるので、母はあまり
食べることができない。
「独り占めしていいぞ?ちょっとだけもらえれば。
シーヤの為に獲ってきたんだ。」
「そんなに食べられないよ。父さま、ありがとう」
久しぶりのご馳走に足取りも軽く、二人で手を
繋いで歩く。その手を突然引ったくるように
ギルが割り込んできた。
「私も久々に兄者の家にお邪魔させてもらおう。」
「家族団欒の邪魔だ。帰れ。お前の分の魔臓はない。」
変態が魅惑の笑みを向けてきた。
「いいよー。シーヤにあーん、ってして
食べさせてもらうしー。」
絶対にしません。したこともありません。
強奪されたことは何度かありますが。
手を振り払って父の手を繋ぎなおした。
父の顔がしまりのない顔に。美形なのに。
頭を撫でてくれた。
「エリーが待っている。帰ろう。」
変態は置いといて帰りましょう!
家に近づくとよい匂いが漂ってくる。香ばしい匂い。
ブルピグの魔臓は少しクセがあるので、
小さく切って串焼きし、ミソダレを塗ってさらに
焼く。モツ煮のようにもする。
ミソがあるのだ。過去の転生者が作ったらしい。
名前もまんまミソ。麦みそでつぶつぶな感じ。
コルを使って作ってるらしい。
生姜はないからハーブで煮込んだスパイシーな
モツ煮になる。
よくモツ煮作ったなあ・・・
お酒を飲まない主人の好物だった。
こっちのは大根ないからカブっぽいのが入ってるけど。
「おかえりなさい!すぐ食べられるわよ。
お腹すいたでしょ?」
母が笑顔で迎えてくれた。
家じゅうにミソの香ばしい匂いが漂っている。
「おおお!いい匂い!豚串!豚串!モツ煮!!」
ギルのテンションがMAXだ。落ち着け変態。
今は伴侶がおらず一人で暮らしているギルは、
我が家の夕食に時々乱入する。
母が私の為に作るなじみ深い調味料を使った食事は、
少しアレンジされてはいるが前世を思い出す
懐かしき味なのだ。
お祈りのあとみんなで食卓を囲んで料理を堪能した。
ミソ焼きの肉はかじると脂がじゅわって溢れる。
ミソが旨味を倍増させ、ご飯が恋しくなる。
米は見つかっているが、細長いアジア圏の米って
感じ。日本のお米とはちがうので、あえて麦を
炊いてもらっている。
米の入ってない麦飯。ミソに意外と合っていける。
魔臓のモツ煮にするのは臭みのある部分だ。
煮込む前に蒸留酒で洗って、茹でこぼして臭みを
とっている。
串焼きでは食べられないがハーブとミソで臭みは
そんなにない。ピリっとスパイシーでパンに
はさんでもイケる。
父と母は肉の串をかいがいしく取り分け合っている。
ラブラブだ。
父の隣、私の向かいに座ったギルがずっと、
あーんして待っている。
妖艶なはずの顔は子供のようだ。
アホの子っぽい・・・無視してモツ煮を黙々と
食べた。
両親の冷たい視線もなんのその。
身を乗り出して、モツ煮の乗ったスプーンを
持った私の手を持って、セルフあーんをしようと
して隣に座った父に阻止されてる。
これもいつもの光景だ。
「帰れ!ギル!」
「つれないなー、兄上ー、いずれは父上って呼ばせて?」
「ふざけすぎだ!お前は運命だったとしても伴侶にはさせん!」
「そんなー。」
あまりの騒々しさに耐え切れなくなってギルの頭を
ひっぱたいた。
「食事中は静かに食べる!行儀が悪い!
あと人のを狙って自分のを残さない!
もったいないでしょ!」
私の中のオカンが発動した。