例えばこういう告白の仕方
真っ白いキャンパスを見つめるがまったく筆が進まない。
選択授業には音楽も習字もあったというのになぜに美術をとった。
まぁ俺の類まれない才能で人を驚かしては駄目だろうと言う事で音楽は却下。習字はもともと習っていたから取らなかった。で残ったのが美術。
でも美術って必ず提出が義務付けられているから絶対不利だと思う。習字もだけどまた違うと思うんだよな。
「誠のキャンパス。真っ白だねぇ」
幼馴染の髪の毛が顔にかかり、シャンプーの香りで頭が麻痺しそうになる。
彼女は俺の肩にあごを乗せていた。
「麻美は書けてるのかよ」
心の中で平常心という看板を掲げ少し肩をずらした。
「当たり前でしょ」
彼女は背筋を伸ばし自分の席にあるキャンバスを指差す。――真っ白だ。
「油を売らずにさっさと書けよ」
麻美は「まかせなさい」と言って友人の元に戻っていった。
隣を見ると内村が熱心に英語をキャンパスに書いている。
「お前、なにやってるの?」
「芸術は爆発だ!」
「どこぞの天才か!」
「素早い、突っ込みありがとう」
会話していても彼はこちらを向くことなくツラツラと書いている。
彼の作品を良く見ると……。
「お前、次の授業が漢字テストだったら漢字を書いたのか?」
「当たり前だろ。好きなもん書いて良いって言ってるんだから、こういうのもありだろ」
ふふんと得意げに笑う。しかし、本当にそれでいいのか?
俺の雰囲気で察したのか「今井は真面目だねぇ」と外国ドラマでよく見るそぶりをしてきた。
「真面目のマの字から生まれてきたからね」
「さすがマコト君!」
ひたすら書き取りをしている内村のそばを離れ他の人のキャンパスも覗いてみたが、筆が進んでいない人も多い。
なんでも好きなものを書きなさいという投げたような課題だ。なかなかテーマを決めるのも時間がかかる。
そろそろ手をつけなければ、後々しわ寄せがくるよな。
なにか適当なものでも書くかと鉛筆を握り直した時、「橘っていいよな」と幼馴染の名前が後ろから聞こえた。
「そう?」
「俺、もろタイプなんだよな。美術とってよかったよ。違うクラスでも選択科目なら同じクラスになるしな」
耳を傾けてしまう。へぇー、もてるではないですか麻美さん。
本人を見る。シャープな顔立ち、意思の強そうな目。うん、女王様のような態度。
よし、君もMの仲間入りですねと勝手に決め付けて満足した。
気を取り直してキャンパスに向かう。――が一向に筆が進まない。
「今井。書くものないなら俺と一緒に英単語書けばいいじゃないか」
「お誘いはありがたいが、どうも中庭が俺を呼んでいるようだ」
「はいはい。睡眠も川もみんな呼んでるぞ」
――中庭で転がる。空を見上げると青くて気持ちがいい。
「空でも書きますかぁ」と独り言。
「いいねー」
独り言のつもりが返事が返ってきたので視線をずらす。
「これはこれは、麻美さん」
先ほどの男の話を思い出し少し不愉快になる。
「何かあった?」
と笑いながら隣に座ってきた。
「いいや。麻美は何書いてるの?」
「すごく好きなのを書いていたんだけど、題材が行方不明になってね――マコトは空を書くの?」
空を指さして言う。
「今、手抜きだと思ったろ」
「そうかな? 内村君の英単語よりましじゃない?」
内村と同類に並べられるのか? それって空に失礼だと思うぞ。
「あいつが言うには、それも芸術だって」
「いい加減よね。でもそれって覚えやすそうではあるけどね」
「確かにな」
「よいしょ」その掛け声でキャンパスを膝の上においた。
「何? ここで書くの? 題材行方不明なら一緒に探そうか?」
俺の質問に麻美はにっこりと笑う。
「あのさ、私の芸術に付き合わない?」
いつもと違う雰囲気なので、思わず頷きそうになった。
「どうした?」
「行方不明の題材」そう彼女に指を指されて、目を白黒させているのが自分でもわかる。麻美は余裕の笑みを浮かべて俺の前にいる。そして「――深い意味はない。とは言えないかな」と続けた。
いったい何を言っているんだろう。
いや、本当は分かっている。それは随分前から俺がよく知っている事だ。
「固まらないでよ。まぁ、考えてみてよ」
麻美は軽快に笑う。いつもと変わらない麻美の笑顔を見て少し落ち着いたように感じるが、相変わらず心臓の音は俺の耳元でバクバクと音を立てていた。
「……なにを考えるんだ?」
麻美の目を見て聞き返す。
「深い意味?」
彼女の顔が近づいてくる。いや、俺が近づいてるのか……。
「――その意味、一緒に考える?」
――end