太陽が隠れた日。
エレドがゆっくりと地面に倒れる。
狩り仲間たちの緊張感が解かれたのがわかった。
「大きなエレドだな。」
解体しながらラス兄ちゃんが笑った。
「うん、そうだね。」
フラッソがニコニコした。
今度のジャンプでサリムの島にいくのが楽しみらしい。
彼女に贈り物を買いたいんだそうだ。
「オレもナリディアになんか買ってこようかな?」
あの黒髪に似合う髪飾りか?いやそれは…ミカねえちゃんに飾り紐を頼むことにして…別のものを…。
「そういえば、ナリディアさんとはどうになったんだ?」
ラス兄ちゃんが笑って聞いた。
「仲良くしてるよ。」
オレはニヤリとした。
あの筋肉がついた引き締まった身体を思う存分抱き締めたい。
「お前も番持ちか…オレが歳をとるはずだな。」
一番年上でチームリーダーのダンさんがそういいながらまわりを見回した。
血の匂いによってきた猛獣に警戒するためだ。
狩り仲間は親子で組まない。
それは血脈を途切れさせないためなんだ。
まあ、村の仲間は家族同然だけどね。
「まだ、番になってないんですよ。」
オレは少し落ち込んだ。
なんで…なんでダメなんだナリディア。
「………おい、それは不味くないか?」
ラス兄ちゃんが作業の手を止めた。
「不味いといえば不味いよな。」
ダンさんがこのヘタレと言う目で見た。
「まあ、狩りに出る前はまだ大丈夫だったから。」
オレはエレドに目を向けながら言った。
「セリック…お前も苦労するね。」
フラッソが勢いよく背中を叩いた。
「血で汚れるじゃないか!」
オレは顔をしかめた。
「彼女に洗ってもらうか材料買って新しくつくってもらえよ。」
フラッソがニヤニヤした。
「お前も汚してやる。」
オレは血で汚れた手を掲げた。
「いや、遠慮するよ。」
フラッソがたじろいだので絡み付いた。
やめろ~よせ~。
とフラッソが暴れてラス兄ちゃんとダンさんが苦笑しているまあ、そこそこ平和な狩りのあと…。
早くかえってナリディアに会いたいぜ。
とその時まではのんきに思ってたんだ。
「セリック、やめろ。」
突然厳しい表情のラス兄ちゃんに止められた。
「え?どうしたんですか?」
オレはフラッソから離れてそのまま低く構えた
モンパでも襲って来たのだろうか?
鋭い眼差しでどこかをラス兄ちゃんとダンさんがみていてる。
そこにいたのは大きな牙のモンパではなかった。
ラス兄ちゃんの視線の先にはくっきりと紫色の細い煙が空にたちにぼっていた。
連絡の狼煙が上がるなんて何があったんだ?
「狼煙だな…なにがあった?」
ラス兄ちゃんが厳しい顔をした。
まさかミカ姉ちゃんに何か?
「ああ、おまえにだセリック。」
ダンさんも煙を読みながら言った。
「え?いったいなにが?」
オレに狼煙なんて初めてだ。
狼煙は複雑で読むのも熟練しないと難しい。
そう思いながら狼煙を読んでみる。
あれは…ナリか?
「ラス、こりゃ不味いな。」
ダンさんが厳しい顔で腕組みした。
「そうですね、セリック…落ち着いて聞いてくれ。」
ラス兄ちゃんが妙に静かに言った。
そのまま言葉を続ける。
「ナリディアさんが倒れた。」
ラス兄ちゃんが言った声がどこか遠くに聞こえた。
ナリディアが…倒れた?
出発前のナリディアの顔浮かんだ。
不安そうな…でも少し笑うんだ。
「おい、セリック大丈夫か?」
ダンさんがオレを心配そうにのぞきこんだ。
ナリディア…ナリディア…ナリディア…。
今…行くから、逝かないでくれ!
「ラス兄ちゃん!ダンさん!オレはすぐ帰る!」
あわてて鳥型に変化する。
「お、おお、行ってこい、こっちは心配しなくていいぞ。」
ダンがオレの目をみて言った。
「わかった、無理するなよ。」
ラス兄ちゃんが言った。
がんばれよとフラッソに背中をたたかれる。
すぐに離脱を許してくれた仲間たちに感謝しながら
オレはとばせる限りとばした。
一人で飛ぶ空は孤独で嫌な想像ばかりしてしまう。
「ナリディア!」
人型をとるのももどかしくオレは家に鳥型のまま飛び込もうとして入り口の天井にぶつかった。
「セリック君、落ち着いてください。」
ユーグさんの声がしてやっと鳥型なのに気がついた。
人型に戻って部屋にかけこんだ。
部屋には母さんとユーグさんがいた。
そして…ベッドには黒い長い髪…。
ナリディアが寝ていた。
「ナリディア~死ぬな~。」
オレはナリディアにかけよって抱き締めた。
「セリック君、落ち着いて。」
ユーグさんがそういいながらオレを引きはなそうとする。
「セリック…?」
ナリディアが薄目を開けた。
「ナリディア!」
オレはナリディアをより強く抱き締めようとして引き離された。
「セリック君、今は大丈夫だよ。」
ユーグさんの落ち着いた声が耳元でした。
「セリック、落ち着いとくれ、だいたいあんたが早くナリちゃんに雫を飲ませればよかったんだよ!」
母さんが興奮していった。
「アルダさんも落ち着いて。」
ユーグさんが困った声を出した。
落ち着いてられるか!
オレの番が死にそうなんだぞ!
「ナリディア~。」
オレは暴れた。
ユーグさんが邪魔をするのがもどかしい。
「セリック…私、セリックと最後に会えて幸せだった。」
ナリディアがかすかにほほえんで目を閉じた。
「ナリディア、ナリディア。」
オレは振り切った。
「セリック君、助ける方法はあるよ。」
ユーグさんがオレを押さえながら静かに言った。
「どんなことでもする、ナリディアを助けてくれ!」
オレは振り替えってユーグさんをすがる目で見た。
「ミカがただびとの事はしってるね…二回目だからやり方はわかっているよ。」
ユーグさんがそういいながら雫をかかげた。
「それは…オレの?」
サリムの民ユーグさんに雫はない。
ミカ姉ちゃんがどうにかかわるのかはよくわからないけど。
「君はナリディアさんを一生愛する覚悟はありますか?」
ユーグさんが真剣な眼差しでオレを見た。
ごくりと唾を飲み込んでオレは答えた。
「ナリディアはオレの命だ、絶対に一生離さない!」
オレは宣言した。
「そう…では、これを…ナリディアさんに飲ませてあげてください。」
ユーグさんが雫をオレに渡した。
オレは雫を口に含んだ。
そのままナリディアに口づけて口腔内に送り込んだ。
「セリック…だめ…将来のお嫁さんに…。」
ナリディアが青い目を薄く開けて呟いた。
「オレの嫁はおまえだけだ。」
オレはそうささやいてサイドテーブルの水を口に含んで再び口付ける。
水が…雫がナリディアの喉を通ったのがわかった。
「セリック…。」
ナリディアの目尻から一筋の涙が光って落ちた。
それをなめとる。
規則的な寝息がしだした。
気配に気がついて見上げるとユーグさんと母さんが見てた、微妙に視線をずらされた。
「甘いね…私も昔はね。」
母さんが少し赤くなりながら言った。
ユーグさんがすぐにベッドに近づいてナリディアの脈を見ながら様子を見る。
「脈も不整脈はないし呼吸も落ち着いてるみたいだね…様子を見よう。」
ユーグさんが優しく微笑んだ。
それを見ながらオレのナリディアにさわるなと思ったのは心が狭いだろうか?
ナリディア…愛している。
だから早くよくなってくれ。
そしていつまでも一緒にいよう…。
異世界にかえらないでくれ…。




