平和な森の日常
タリムの民は風読みの民に似てるけど…。
やっぱり違う民族見たいです。
「平和だなぁ。」
ぼんやりと窓の外をみる。
濡れそぼる木々の向こうは人影も見えない。
もうすぐ、なにかがあるらしくここからでないように言われている。
ウッディな家はグーレラーシャの石造りの中庭のある平屋と違う。
いつか通信機の配信で見たケレス森国のエルフの家みたいです。
かわいい木のサイトテーブルにおいてあるブーメランに目をやった。
鍛練をしないとなまると思い手に取る。
素振りでもしようか。
故郷のグーレラーシャ傭兵国は日差しが強くてここより暑い。
雨も降るけど、こんなに続けて降ることはない。
「なにしてる!?」
セリックさんが扉をバタンと勢いよく開けて驚いたようにさけんだ。
「鍛練ですけど?」
そういいながらブーメランの端を持って振り回す。
外が晴れなら飛ばして鍛練したいところだけど…さすがに戦場以外で濡れたくない…雨避けの魔法覚えておけばよかった。
「なんでそんな無理をするんだ!オレの嫁さんになるんだからいいんだよ!」
セリックさんが近づいてきて腕を伸ばした。
うでにさわられる前につかんでねじりあげそうになったので自分の胸にセリックさんの腕をだきこんだ。
「セーフ…本当に戦場が抜けない。」
私は自分の反応を押さえ込んでホッとため息をついた。
「ナリディア…。」
セリックさんの声が上からしたので見上げる。
不味い、恩人を怒らせた?
「すみません、すぐにはなします。」
腕を離そうとしたところでセリックさんが前に回り込んだので思わず持ってた腕を軸に壁側に飛ばしちゃったよ…ま、不味すぎる。
「うっ!」
ガタガタとすごい音がしてセリックさんが呻いた。
タンスに背中をぶつけたみたいです
緑の羽根が少し部屋を舞う。
「すみません!」
私はあわててセリックさんのところにいった。
「ナリディア…そんなにオレが嫌いなのか?」
セリックさんが背中に手を回そうとしながら言った。
翼が邪魔でよく撫でられないみたいです。
すぐに近づいて背中を服の間から見ると少し赤くなってた。
「嫌いじゃないですよ、リフル。」
私は回復魔法『リフル』を唱えた。
応急処置でも本当に最低限の魔法だけど、このくらいの打撲なら治るよね。
「ナリディアちゃんは魔法使いなのかい?」
アルダさんがセドリスさん…アルダさんの旦那さんが顔出した、よっぽどうるさかったらしい。
「たしなみ程度です。」
傭兵学校では応急処置のいっかんとして回復魔法を教える、私はこの上のリフリアくらいまではつかえるけど…それ以上は無理かな。
「息子、情けないぞ。」
セドリスさんがそういいながら腕組みした。
「嫌いじゃないなら好きなんだよな。」
セリックさんがそういいながら近づいてきた。
「好きですよ。」
助けてもらったし。
「じゃあ、オレと。」
セリックさんがいいかけた。
「皆さんみんな好きです、こんな正体不明な傭兵の面倒をみていただいて感謝しています。」
私は急いで言った。
生命以外の危機を感じたからだ。
「うれしいねぇ。」
アルダさんがニコニコした。
「みんなかよ。」
セリックさんががっくりした。
「それで、痛みはひいたのか?」
セドリスさんがそういってセリックさんの背中をおもいっきりまくった。
「父さん!ナリディアの前でやめてくれよ!痛くねぇよ。」
セリックさんが叫んで服を戻した。
「ほー、すごいな……よし、セリック、頑張れ。」
セドリスさんがおもいっきりセリックさんの背中を叩いた。
「いてーよ、父さん。」
セリックさんがそういって背中を撫でようとするけどやっぱり撫でられないみたいなので撫でてあげた。
「私も応援しようかね…義娘いい響きだね。」
アルダさんがうっとりとした表情で言った。
「娘か…しばらくお母さんともあってないな。」
私は故郷で王宮分館管理官をしているお母さんを思い出した。
「そうだよね、うちには家族がいるんだよね。」
アルダさんがしゅんとなった。
「大事にしてやれ、息子、ところでオレたちは明日から隠る、お前は他人に取られないようにしっかり面倒を見ろよ。」
セドリスさんがアルダさんの手を握って言った。
明日から隠る?
どうして隠るんですか?それは儀式かなんか?
「ナリディアもオレと…。」
セリックさんがいいかけた。
「では、お邪魔ですよね、明日から野宿させていただきます。」
幸いテントの入った荷物も落とさなかったようだし。
携帯食料も残ってるし…最悪狩りでもすれば…。
「雨なんだよ、ここにいていいんだよ。」
アルダさんが慌てていった。
動揺しているのか空色の翼がパタパタと動いた。
「邪魔ではない。」
セドリスさんが言った。
本当に良いのかな?
「オレも一人じゃ寂しいしな。」
セリックさんが明るく笑った。
ああ、雨なのに晴れた空のようだよ。
ここは平和だ…。
本当にここにいていいのかわからなくなる。
私はそっとブーメランを撫でた。
戦場感覚が抜ける日がくるといいと思いながら。