笑顔
君はよく笑う。
「なんでいつも笑っているの?」
僕は好奇心で聞いてみた。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれたね」
君は笑いながら答えてくれた。
「私、昔っからドジでマヌケでさ、いろんなことがうまくいかなかったの。それでね、いろいろ試してみたんだ。勉強を頑張ってみたり、積極的になってみたり、それはもう、いろいろ試してみたの。そしたら、”笑顔”が一番うまくいったの。笑顔でいると、たいていのことはうまく行く様になった」
笑っている君が話す過去には、どうやら笑顔はなかったようだと、僕は思った。
「それで、気が付いたらいつも笑顔でいるようになってさ。心が笑顔じゃないときでも、顔だけは無理矢理笑顔を作って、うまいこと世を渡ってきたわけだよ。そしたらさ、笑顔が顔に張り付いて、とれなくなっちたのさ!」
君の笑顔は、必死の努力の結晶だと、僕は初めて知った。それと同時に、君は心の中で泣くことも怒ることもあるのだろうと思った。
僕は、君の泣き顔も怒り顔も見たいと思った。もっとはやく君に会うことができていれば、それをみることができたのかもしれない。そう思うと、どうしようもない後悔が胸を襲ったりもした。
「えへへ、さて問題です。私の心は今、笑っているでしょうか? それとも……」
でも僕は、君の顔に”張り付いた笑顔”が、一番好きだから
「どっちでもいい。君は心を他人に見せる気はないんでしょ? 親にも好きなヒトにも、絶対に見せることなく生きて死ぬ気なんでしょ?」
「うん、その通り。正解。それはある意味正解だよ。よくぞ正解にたどり着いた、エライぞ~!」
君の笑顔に出会えて、本当に良かった。
「君はただ、笑っていればいい。僕は、そう思うよ」
”君がただ笑っているだけでいい、そんな環境を僕がつくるから”
声には出さなかったけど、僕は心の中でこう思った。そして、僕は飛び切りの笑顔でこの気持ちを隠した。
この日以来
僕は、”君自身”じゃなくて”君の顔に張り付いた笑顔”を愛することを決めた。
君が必死に隠してきた”心”じゃなくて、心の前に立ちはだかる”偽りの笑顔”を愛すると決めた。
そういう愛があっても、いいのではないだろうか?
青春の真っただ中、幼い僕の愛は、その結論に達した。