王子、いつもの朝
王族が生まれるとき、必ずどこかで同じ顔、同じ体型をもつものが生まれる。
それは決して偶然などではなく、偉大なる全能神が王の血を守るために生み出したものらしい。
王族の身代わりとするために。
王家の血に災厄が降りかからぬように。
王族が誕生した日、同じ日に生まれた赤子はすべて王宮に集められ、同じ顔をもつ赤子はその場で王宮に引き取られる。
身代わり人は『ミシュラ』と呼ばれ、親元には『ミシュラ』を作り出したものとして莫大な報奨金が贈られる代わりに、二度とその子どもと会うことは許されない。
そして、『ミシュラ』は王族が死んだ時、共に埋められる。
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「おはようございます」
肩より少し長い金髪、鮮やかな緑眼。
部屋を出た途端、飽きるほどに見慣れた姿があった。
「っ……ラーシュ…お前か…」
声を上げそうになった喉を必死に抑え、落ち着いた声を意識する。
「め、めずらしいじゃないか。お前が僕の寝室までくるなんて」
「毎朝お迎えに参らせていただいております、ラスナ殿下」
「………っ、おおお前は地味すぎて空気のようだからな!気がつかなかったんだ!」
「……………」
ラスナの後ろから続いて出てきた数人のメイドが、顔を見合わせる気配がする。
それも、そうだ。
ラスナの前にいるのは彼の『ミシュラ』。
姿形は瓜二つであり、容姿に関しての暴言はすべて跳ね返ってくる。
「失礼いたしました。殿下の『ミシュラ』が私ごときに務まるものでもありませんが、己の力のなす限りお役に立てればと存じます」
ラスナの身代わり人であるラーシュは同じ顔を微笑ませ、もう一度頭を下げた。
その落ち着いた振る舞いは、本物の王子にしか見えない。
本物の王子である、ラスナよりも。
「…………」
「では、本日のご予定ですが――――」
「……っき、聞きたくない!」
「かしこまりました。では、本日のご予定は私が御身の代わりに出席させていただきます」
「ぼ………僕、が行く……」
「かしこまりました。では私はおそばで控えさせていただきます」
「絶対、前には出てくるなよ…!」
「……仰せのままに、殿下」
こうして、いつも通りの朝が始まった。