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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

笑ってはいけない王道学園

作者: マメ

瓶底メガネの王道ルック君をぶったぎる話です。


※王道ルック…もじゃもじゃの鬘に瓶底メガネ


サイトのリクエスト小説でした。

 

ここはいわゆる王道学園。


当たり前のように転入生が現れ、当たり前のように生徒会の皆様を落として行った。

一番ご執心なのは会長様と副会長様だ。


ちなみに例に漏れる事なく会長は俺様攻めで、副会長は腹黒敬語攻めだ。

なぜそれが当たり前なのかと言うと、うちの姉が腐女子で、BL小説によくある光景と教えられたから。


俺が中学受験でここを選んだ時、姉はやけにハイテンションで部屋をゴロゴロ転がって悶えていた。はっきり言って気持ち悪かった。


その時に大量のBL本を読まされ、勉強させられたのだ。


「あんたは平凡だから大丈夫だと思うけど、最近は平凡受けも流行ってるから気をつけなさい。妄想と現実は別だからね!あんたがホモになったら複雑だから」


と、よく分からない言葉を贈られた。姉は現実的だった。


入学してみると小説の通りで、本当にあるんだなあとびっくりするよりも関心してしまった。


そして今日になっていきなり、友人が食堂イベントなるものを見たいと言い出したのだ。なんだこいつも腐男子だったのか。


友人によれば、


「そろそろ正体をバラす時期」


なんだそうだ。

よく分からないけど、面白そうなので行ってみることにした。







生徒会の皆様の席がよく見える場所を選び、タッチパネルを操作してメニューを選ぶ。初めてこれを見たとき友人はものすごく感動していたが、俺は中等部から慣れているので何とも思わなかった。


「これだから金持ちは嫌なんだ」と友人がぼやいていた。


注文したものが運ばれてきて、もぐもぐと食べていると、周りがざわざわと騒がしくなった。


「来るね」


「来るな」


二人で慌てて両耳を塞ぐ。こうしないと耳がおかしくなるからだ。


「「キャーー!!」」


塞いだ瞬間、食堂が揺れた。生徒会の皆様が現れたのだ。


ぞろぞろと歩いてくる中、会計だけが周りに手を振っている。さながらアイドルのファンサービスのようだった。


「生徒会の皆様が来たよ!」


「会長様ー!今日も素敵です!」


お決まりのようなセリフについつい笑いそうになってしまう。こういうのは誰が言うとか決めてるんだろうか。


そして会長の後ろにちょこんといたのは転入生だった。



転入生はもじゃもじゃの鬘をかぶり、瓶底眼鏡を掛けている。あだ名も黒まりもと呼ばれていた。


ここまで鉄板だと本当におかしくなる。最初に考えたのは誰なんだろう。なんでみんな笑わないんだろう。


「あの転入生、平凡のクセにまた生徒会の皆様のそばにいて!迷惑なのが分からないの!?」


「相応しくないんだよ!」


いわゆるチワワと呼ばれる可憐な少年達が転入生に向かって野次を飛ばす。たぶん一年だろう。

ちなみになんでチワワなのかは知らない。


こいつらもあと一年したら成長期で見た目も変わるのかなー。


うっすらと化粧をしていて綺麗にネイルなどもしているが、似合わなくなったらどうするんだろう。その時を見てみたい。


「なあ」


「何?」


「なんでみんな笑わないんだろな」


思った事を口にしてみると、友人が飲んでいた水を吹いた。


「おいおい、本当に気づいてないのか?隣のテーブルを見てみろよ」


「え?…あ」


隣のテーブルには運動部の体育会系の奴らがいて、身体を震わせながら笑いをこらえていた。よく見ると他のチワワじゃない奴らはみんなそんな感じだ。


「な?常識的な奴らはみんないつも我慢してんだよ。ありえねえもんこんなの。騒いでんのはチワワ達と熱狂的なファンだけだ」


「へえ…」


「やっぱこういうのは脇役ポジションに限るな。良かったな俺たち平凡で。巻き込まれたらアウトだろうし」


「ああ、そうだなあ…」


あんなのに巻き込まれたら平和な学園生活が崩壊してしまうだろう。平凡に産んでくれた母親に感謝した。


「な、何すんのさ!」


話しているうちに何かがあったらしい。いきなり食堂にチワワ達の声が響いた。

生徒会の皆様の方を見てみると、王道くん(友人命名)がチワワ達に向かって何かを叫んでいる。声が大きいので自然と耳に入ってきた。


「お前らがいるから!こいつらには友達ができないんだ!俺に指図するな!迷惑だ!」


「な…迷惑かけてるのはあんたの方でしょう!?平凡のクセに生徒会の皆様につきまとって!あんたなんか相応しくないんだから!」


「なんだと!?」


チワワ達が王道くんに食ってかかるが、どこをどう見ればつきまとってるように見えるんだろう。生徒会の皆様も嫌な顔はしていないし、笑って話してたような気がするんだけど。


まあ、最近の生徒会は仕事をしていないと聞いているから、それが王道くんのせいならダメだと思うけど。



「なあ、聞いていいか?」


「何?」


「あれ、コント?誰か脚本書いてんの? 」


そう言って友人を見ると、食べていた味噌汁を吹き出していた。ああ、テーブルが汚くなってしまった。


「汚えな」


「だってコントとか…確かにそうだけど…ぶはっ」


友人はツボに入ってしまったようで、ひいひい言いながら腹を抱えて笑っていた。

その間にもコントは続いていく。


「なんだよ平凡て!平凡じゃなかったら認めるのか!?」


「そうだよ!生徒会の皆様に相応しいくらいの器量じゃなきゃ認めない!」


チワワ達すごいな。

美形しか許さないなんて社会に出たら通用しないぞ。卒業したら挫折するだろうな。可哀想に。


ぼんやりと考えていたら、友人が口元に人差し指を当て、俺に黙るように促してきた。


「しっ…黙って!おい、来るぞ…」


「何…?」


見ると王道くんが鬘を掴んだ所だった。


「分かった!俺が平凡だからダメだって言うなら…これならどうだ!」


勢いよく鬘を外して床に叩きつけたと思ったら、瓶底メガネも外してしまった。


「な、なんだって…!?」


チワワ達が驚いている。


なんと王道くんはブロンドの髪の美形だった。あの顔立ちは欧米系のハーフだろうか。色が白いので、可愛らしく整った顔に唇の赤が栄えている。


「おお…なんというお約束通り…」


「俺、これ見れただけで高校生活にいっぺんの悔いなし!」


「大袈裟だろ…」


「いいや、BLイベント見れただけでお腹いっぱいだわ」


友人は目を輝かせて王道くんを見つめている。周りを見ると、運動部の奴らがぼそぼそと話していた。


「ほらな、やっぱり鬘じゃないか」


「あのメガネもわざとらしくて、すれ違うたびに笑いをこらえるの必死だったぜ」


なるほど。やっぱりみんな気づいてたらしい。あんな不自然な格好が地だったら絶対に近づきたくないもんな。


あ、会長と副会長が動いた。


「なあ、お前…そういう顔してたんだな」


「どうして言ってくれなかったんです?」


会長が王道くんに話しかけると、副会長も被せるように声を出した。


それを聞いた王道くんは、どうだと言わんばかりに胸を張っている。


「へへ、おじさんに変装しろって言われてたんだ。お前は可愛いから危ないって。最初から素顔晒したら危険だろ?」


「そんな…こんな美形だなんて…かなわない…」



チワワ達はがっくりとうなだれている。王道くんの美貌に自信を無くしたようだった。


「な?だから俺はお前らに相応しいんだ!これからもよろしくな!」


いまだに驚いている会長達に、王道くんが抱きつこうと手を伸ばした。

だが、なぜか会長は身を引き、王道くんの身体を避けてしまう。副会長も表情を無くし、さっきまでの笑顔が無くなっていた。


一体どうしたんだろう。

王道くんも戸惑っているようで、避けられた事にショックを隠せないようだ。


「え…?何?なんで避けるんだ!?俺はお前達に相応しいだろ!?」


会長と副会長は顔を見合わせ、アイコンタクトで頷き合っている。


「な、なんだよ!言いたい事があるなら言えよ!仲間ハズレはいけないんだぞ!最低だ!」


王道くんが叫んでいるが、二人は無視して何かを話している。しばらく話して何かを決めたようだ。副会長が話しかけた。


「すみません。僕達、美形は嫌いなんです。君が平凡だと思ってたから一緒にいましたけど…」


「は?」


「だから…美形でプライドの高い人間が多いこの学園で、平凡なのに元気いっぱいのあなたに勇気をもらっていたんです。だから多少うるさくても我慢していました。鬘とメガネも何か事情があると思っていたから突っ込みませんでしたけど…」


副会長の告白に、食堂中が呆気に取られてしまう。


平凡だからそばにいた?


まさかの告白にチワワ達も何も言葉が見つからないらしい。口を開けたまま立ちすくんでいる。


「すまんなあ。この学園は見た目がいい奴が偉いみたいな空気があるから、平凡なのにそれに負けない強さを持ったお前が好きだったんだけどよ…その自信は顔が整っているからだったんだな。興ざめだ」


会長も副会長と同じことを言っている。そんな話があっていいのか。


「申し訳ありませんが、今までの事は忘れてください。ずいぶん自信があるようですし、そういう方はあまり好きでは無いんです」


副会長が申し訳なさそうに頭を下げると、王道くんは身体を震わせ、突然叫びだした。


「嘘だ!じゃあ今までのはなんだったんだよ!俺に好きだって言ったのは嘘だったのか!?最低だ!」


「最低なのはどちらですか?自分を偽っていたのはあなたでしょう?最初から素顔を知っていれば話しかけたりしませんでした」


「だよなあ。この顔でこの性格はひどすぎる。平凡だから欠点を補うためだと思ってたし…」



会長が副会長の言葉を聞き、腕を組みながらうんうんと頷いている。


「な…俺を弄んだのか!?責任取れよ!最低だ!俺が一番可愛いんだ!愛されて当然なんだ!」


王道くんは諦めきれないのか、二人に詰め寄っていた。そんなに必死になっても、二人の態度を見れば無理だと分かりそうなもんだが。


「美形でプライド高い上に諦めが悪い、か…なあ」


会長が王道くんの顔を覗き込んだ。キスでもするのか?


「なんだ!?分かってくれたのか!?」


王道くんは期待の眼差しで会長を見上げた。


「ここ、跡ついてるぞ?メガネの跡」


会長が自分の鼻を指差した。


「え…」


「さっきメガネを外した時から気になってたんだけどよ。跡がついてる。あのメガネ重そうだもんなあ」


会長の言葉に王道くんは慌てて鼻を隠した。気づいていなかったようだ。


「いくら美形でも…ちょっとそれは間抜けだな。笑いをこらえるのに必死だったぜ」


あははと笑う会長に、会計と書記もからかい出す。


「会長~それ言っちゃダメでしょう~?せっかくこの子のドヤ顔決まってたのに~可哀想だよ~」


「…面白い…かいちょ、デリカシー、ない…」


二人の言葉に俺の笑いのツボが刺激され、食べていたものを吹き出してしまう。

友人も同じような状態になっていた。


「どうしよう…笑いたい…」


「俺も…」


笑えば目立ってしまうだろう。必死に笑いを堪えるが、王道くんの顔を見ると思い出してしまうのでどうにもならない。


チラッと隣を見たら、運動部の奴らも同じ状態だった。プルプルと震え、目をつぶって口を手で押さえている。


というか、チワワ達以外はみんな同じ状態だった。



憎むぜ王道くん…!




王道くんはと言うと、プライドを傷つけられたのか、目尻に涙を浮かべて震えていた。顔が耳まで真っ赤になっている。


「ひ、酷…、お前ら、最低だ!」


「いや、すまな…ぶっ」


会長達をなじるが、もう一度顔を見てしまった会長に吹き出され、更に茹でダコのようになっている。


「お、お前らなんか、おじさんに言いつけてやるからな!」


そう言い残して王道くんは走って逃げてしまった。

俺だったら別に跡がついてるくらい平気だけどな。無駄に美意識が高いから厄介なのかもしれない。


「はー面白かったねえ」


友人はまだ笑いが収まらないようで、バンバンとテーブルを叩いている。


「会長達に振られたって事は、もう王道学園ネタは終わりかな…もっと見たかった」


せっかくここまで見たのなら、他のイベントも見てみたい。


「うーん、また転入生が来ないと難しいかもねえ…と、」


「あ?」


「後ろ…」


さっきまで笑っていた友人が俺の後ろを指差しながら目を見開いている。


「後ろ?」


振り返ってみると、そこには有り得ない人達がいた。


「王道くんて何だ?」


「気になりますね」


「か、会長…と、副会長…?」


なぜか会長達が立っていて、俺達の顔を交互に見ている。先ほど会長達のいた場所に視線を向けると、チワワ達がこっちを見ながら鬼の形相を浮かべていた。


「な、なんの御用でしょうか?」


恐る恐る二人に訊ねると、にっこり笑ってこう言った。


「お前ら、さっきからずっと笑ってただろ」


「あまりに可愛いから気になってたんです」


「「…はい?」」


可愛いとは誰に向かって言ってるんだろうか。俺達二人は可愛いなんて形容詞が全く似合わないほどの平凡だ。



「今日はもう無理のようですが、明日、良かったら一緒に食べませんか?」


「奢るからよ」


「「なんで俺達…?」」


「おや、さっき言ったのにもうお忘れですか?君達が可愛いからですよ」


副会長がにっこりと笑ったが、これは張り付いたような笑顔ではなく、本物の笑顔だった。


「なんか目が離せねえ。俺の恋人になってくれ」


会長が頬を染めながら俺に言うが、その迫力に怖くて何も言い返せない。これが帝王オーラか…!


「い、嫌で…」


「…嫌って言ったらお前の家がどうなるか…分かるよな?」


「ひっ…」


耳元でドスの利いた声で囁かれ、なんとか絞り出した言葉も飲み込むしかなかった。


友人は副会長に迫られている。同じく顔を真っ青にして。


「お前の名前は?」


「や、山岡です…」


「君は?」


「浜野です…」


俺と浜野は名前を言わされ、二人の恋人候補になってしまった。


二人の目線が絡み、力強く頷き合う。



『絶対に逃げよう』



捕まったら地獄の学園生活が待っている。


平凡には平凡な学園生活で充分だ。刺激なんて求めていない。


あくまで傍観者が理想なのだ。



そう固く心に近い、俺達は二人を振り切って逃げる事にした。


「あ!待ちなさい!」


「ぜってー逃がさねえからなあ!」


二人の声が聞こえるが関係ない。

俺達は平和な学園生活がお似合いなのだ。


逃げる途中で誰かの声が聞こえた。


「平凡くん、アウト…だね」








教訓:いくら鉄板であろうとも、王道学園で笑ってはいけない。







END

 

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