紹介
「やはり面白いな、そいつ」
黒髪灰眼の男は俺に目を向け、そう言った。
そのときに微かにだがたしかに出た殺気に逃げ出しそうになったが、赤髪緑眼の男の手によって阻止された。
「おい、その殺気引っ込めろ。こいつが怯えてるだろ」
赤髪緑眼の男が黒髪灰眼の男にそう指摘する。
実際は怯えているわけじゃなく、ただ単に死ぬ危険を感じ取った半ば反射に近い行動なのだが。
黒髪灰眼の男と赤髪緑眼の男がそのまましばらく睨み合っていると、初めから部屋にいた金髪碧眼の男が手を叩いて注意を引き、こう言った。
「んー…じゃあこいつを仲間にするって事に関して、反対は無いってことでいい?」
「いいと思うぞ」
「賛成だ」
「いいと思う」
「じゃ、決定」
こうして金髪碧眼の男が物凄く無理やり話の流れを変えたことにより、俺は正式に仲間になった。
「じゃ、早速自己紹介しようか。」
俺が仲間になる上での決まりごとなんかを聞かされた直後に、金髪碧眼の男はそんなことを言い出した。
本人曰く、お互いを知ることも大切だとのこと。
まぁ、否定はできないが。
ちなみに、もう殺気を出すのはやめてもらっているため、黒髪灰眼の男とは普通に話せる。ようは自分に対しての殺気が無ければ平気なのだ。
「俺はディル。職業は魔術師。好きな事は人を弄ることで、嫌いな事は人に弄られることだね」
金髪碧眼の男の職業は思ったとおりだった。そして趣向も思ったとおりだった。
「俺はアルト。職業は僧侶。好きな事は精神統一で、嫌いな事…というより物は神を冒涜する輩だ」
赤髪緑眼の男の職業はなんとなく分かってはいたが僧侶だった。
神の力とやらで手もくっつけたのだろう。
趣向は実に僧侶らしい。死去していなければ、あの神父に紹介したいくらいだ。
「俺はリューク。職業は戦士。好きな事は強い奴と戦うことで、嫌いな事は命乞いだ」
黒髪灰眼の男の職業は少し予想と外れていた。
本人曰く、どんな武器でも即座に扱えないと戦闘では意味が無いとのこと。
それには同意する。
だが、俺に襲い掛かってきたことに関しては疑問が晴れないのだが、これはどういうことだ?
そのことを問いただそうとすると、遮られて次になった。解せない。
「俺は優人。職業は勇者。一応リーダーやってる。好きな事はゲームをすること…ゲームっていうのはここでいう遊びのことな。嫌いな事…というより奴は媚び諂う輩だな」
茶髪茶眼の男の名前には内心驚いた。
思いっきり前世の男性名だ。
職業名からして、おそらく召喚勇者だろうか。
面倒なので突っ込まずにスルーするが。
「俺はロイ。職業は盗人。好きな事は散策。嫌いな事は…なんだろう。まだよくわかんないや。まぁ、これからよろしく、勇者、戦士、僧侶、魔術師」
とりあえず前の四人と同じように自己紹介をする。
名前を呼ぶのが何故だか面倒になったので、職業名で呼んだ。
そっちのほうがわかりやすいしね。自己紹介順と逆に言ったのはなんとなくだ。
「(…え、そっち?)うん、よろしくね、ロイ」
「(名前じゃないのか?)よろしくな」
「(最初にそっち呼ぶのか)あぁ、よろしくな」
「え、待って今勇者のところスルーしなかった?」
「職業名で勝手に呼んだけど、そっちはよかったの?」
「俺は別にいいよ。他は知らないけど」
「俺も別にいいぞ。気にしない」
「俺は剣士と呼んでもらったほうがいいな。相手を騙せる」
「じゃ、剣士で」
「ちょま、だからなんでスルー…」
「そういえば、俺の鞄は?」
「これのことか?随分とボロボロだが」
「あぁ、それだ。」
「よかったら買い換えようか?そんなにズタボロだったら今にも底が抜けるよ?」
「いいの?」
「いいよ。もう仲間なんだし。」
「そっか」
「……ぐすん」
「勇者、泣き真似しない。心配しなくても、俺が勇者を無視したのはただ単に職業から面倒そうだって解ったからだから」
「やっぱ無視してたのか!」
「だって面倒くさいし」←魔術師
「同感」←僧侶
「相手にするとしつこいしな」←剣士
「お前ら…;」
「そんなぼろくそに言うことは無いと思うけど……勇者も自重したほうがいいのかもね。俺は知らないけど」
「ロイ…お前味方してくれてるのか非難してるのかどっちかにしろよ」
「無理。俺口下手だから」
「………はぁ。俺のことはリーダーと呼べ。勇者だってばれると色々面倒になりそうだ」
「了解、リーダー」
そう言うと、リーダーは満足げに一つ頷いた。
もしかすると、あまり言うことを聞いてもらえた事が無いのかもしれない。
まぁ、知ったことではないが。
「じゃ、これからどうする?」
「ここから今すぐ次の町に行くぞ」
「今日のところはここに泊まろう」
「とりあえずスラムの外に出ないか?」
「俺は強い奴と戦えれば何でもいい」
うん、見事にばらばらだ。
ここまでバラつきがあるといっそ清々しい。
「別に急ぐことは無いと思うよ。俺は宿で寝ようが野宿だろうが別にかまわないから。それに、どれだけ急いでもここから違う町まで二日はかかるらしいし」
盗み聞きしたことだが。
「げ、マジかよ」
「うん。だからリーダーの案は廃案ね」
「じゃ、ここに泊まるか野宿かになるわけだね」
「あぁ、それだけど、この町にある宿はたいがい追剥宿だから、やめといたほうがいいよ。俺はどれが追剥宿かわからないけど」
「じゃあ、ディルの案も廃案か」
「野宿も危険だけどね。追剥がどんどんわいてくるし」
「虫みたいだね。そこら辺は俺が魔法の罠を仕掛けてどうにかするよ」
「じゃ、野宿で決まり」
こうして、とんとん拍子で次の行動は決まった。
「俺、一応リーダーのはずなのに……なんで俺抜きで話が進んでるんだろう……」
それはそれ、これはこれ。