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盗人の日々  作者: 神崎錐
7/25

保護者

一瞬、ナイフに手をかけようとする自分をいさめ、声のほうに向く。

そこには、白い服を着た金髪碧眼の男がいた。



「えっとさ、君、何でこんな所にいるの?危ないよ?もう手遅れだけどさ」



面白いと言わんばかりの口ぶりで、男は俺に話しかける。



「……誰?」



「ん?俺のこと?それは言えないな。うちのリーダーに必要が無ければ言うなっていわれてるから」



そう言って、男は作り物の笑顔を浮かべる。

おかしな男だ。あからさまに分かりやすい偽りの表情を作るなんて。



「そっか。ならいいや」



そう言い、男に背を向ける。

どうやら敵意も無いようだし、このまま去っても問題は無いだろう。

そして、俺はそのまま何処かへと立ち去……



「あ、ちょっと待って」




……ることはできず、男に呼びかけられて立ち止まった。

…さっさと行かせてほしい。何時襲ってくるかも分からないのに。



「……何?」



少し気落ちしたような声になるのは仕方が無いだろう。

俺は早くここから出たいのだ。



「もしかしてさ……これ殺したのって君?」



男は犬モドキの死体を指差し、俺に訊く。



「うん。俺が殺した」



男の方に向き直し、その質問にあっさりと返す。

いくら返り血がついていないとはいえ、下手に嘘をついて損をするのは自分だ。



「……え、本当に?」



驚いた、といった様子で男は俺を見る。

まあ、普通の七歳児は犬を殺すのは少しばかり難しいだろうし、返り血がつかないはずも無いしな。

当然といえば当然の反応だ。



「……じゃあさ、こいつ殺した後に、何か出てこなかった?」



会わなかったとは言わないらしい。

しかし……どちらかといえば出てきたの部類に入る、殺した後というタイミングに当てはまるのは一つだけだ。



「精霊って名乗る半透明の幽霊みたいな男が出た」



「あ、それだ。それで、そいつ何か押し付けていかなかった?」



その問いかけに、首をかしげる。

少なくとも精霊は俺に何を求めるかを問いかけ、それを与えてくれただけであり、何かを押し付けられた記憶は無い。



「いや、別に何も」



「……ふーん。そっか」



そう答えると、もう俺には興味が無くなったようだ。

背を向け、なにやら呟き始めて……



「……!!」



その〔呟き〕の正体に気付き、とっさに身を翻して男の傍に移動する。

刹那、俺のいた場所を含めた男の周辺を、落雷が襲った。



「あ、避けられちゃった。」



男はそう言って俺のほうを見る。



「君、速いね。俺、魔法避けられるなんて初めてだよ」



相変わらずの作り物の表情で、話しかけてくる。

その声には、少々驚きが混じっていた。



「……まぁね。君の魔法も、結構凄いよ。俺は指先に火を灯すくらいしかできないから」



「へえ。それはしょぼいね」



「うん。火種にしか使えない」



「…………」



「…………」



そこで沈黙が訪れる。

………気まずい。



「ねぇ、君って一人なの?」



お互いに沈黙して数分後、男が口を開いた。



「一人だけど、それがどうかしたの?」



間をおくことなく答える。

どうせ親も死んでいるし、嘘をついたってすぐにばれる。

なら正直に答えたほうがいいと結論付けた結果だ。



「ならさ、俺と来ない?」



「いいよ」



「……あれ?」



「どうしたの?」



男は直ぐに了承した俺を見て、少し驚いている。

まぁ、普通は殺されかけたのにあっさり受諾するほうが珍しいのだろうが。



「いいの?」



「うん。俺、親も死んでるし。後ろ盾も何も無いから、せめて保護者みたいな人はいたほうがいいかなって」



何も、後先考えずに即答したわけじゃない。

一応はそこまで考えての行動だ。

まぁ、売られそうになったら直ぐ逃げるつもりではあるが。



「………そっか。じゃ、よろしくね」



「うん。よろしく」



こうして、(この世界で)人生初の仲間ができた。



「……なんつーか、あんなやり取りで仲間になるなんて流れ初めて見たな」



「!?」



「あれ、精霊?。どうしたの?忘れ物?」



「違う。あとその口の利き方を改めろ。俺は別にかまわんが、気に入らん奴も出てくるはずだ」



「無理。俺、口下手だから。」



「嘘付け。……まあいい。お前に一つ、渡し忘れたものがあってな」



「何?別にナイフ貰ったしいらないよ?」



「まあそう遠慮するな……ほれ」



「……まぁ、いいけどさ。じゃ、貰っとくよ」



精霊から指輪を渡されたので、仕方なく受け取る。

別にいらないのになぁ…。



「その指輪は魔法の媒体として使えるから、着けっぱなしを勧めるぞ」



「…そ。まぁ、ありがとう」



「もう少し感謝の念は無いのか?お前は。……まぁいい。じゃあな」



「うん。バイバイ」



そういう風に話を終えると、精霊は再び霧のように消えた。

指輪を鞄に……無理か。許容量をオーバーしてしまう。

ということで、手袋を外して指輪を着けた。

指に可も無く不可も無くきっちりはまっているのは……気にしないでおこう。

手袋を着け直したところで視線に気付いて顔を上げると、男が瞠目していた。



「何?どうかした?」



「…いや、ちょっと驚いただけだよ。気にしないで」



「……そ。で、これからどうするの?」



「そうだね。まずはリーダーに許可を貰いにいこう」



「そ。…駄目って言われないの?」



「言わせないよ、そんなこと……」ニヤリ



……君がそのリーダーより権限が強いのは分かった。



「…そう。ならいいか」



これでこの男との会話は途切れ、特に問題無く黙々と後をついていった。



それから数時間後。



スラムの入り口まで戻ってきた。

……嫌だな。あの男と遭遇する可能性があるかと思うと。

まぁ、そうそうあるとも思えないが。



「ここが集合場所のはずなんだけど・・・おかしいな。未だ誰も来ていないみたいだ」



「チンピラっぽいのなら沢山来たよ」



「あ、本当だ。折角だし、暇潰しに倒しておこう」



そう言うと、物凄くいい笑顔を浮かべながらいろんな魔法を発動させてチンピラを殲滅していく。

そして、気がつけば……



「ふう……いい汗かいた」



半死体の山ができていた。



「やりすぎじゃ?」



「大丈夫だよ。仕掛けてきたのはむこうだし」



「……まぁ、それもそうか」



とりあえずその理由で自身を納得させる。

相手が悪いのもまた事実。

少しは痛い目を見ないと分からないこともあるだろう。

しかし、それにしても……



「仲間って、未だ来ないんだね」



「うん。みたいだね。おかしいなー…普段なら一人くらいはいる筈なのに」



「早すぎたか、遅すぎたんじゃ?」



「んー…かもね。じゃ、俺探して来るから、ここで待っててくれる?」



「いいよ」



ということで、半死体の山から少し離れたところで待つことになった。

しかし……じっと待つだけというのもつまらない。

ということで、今は精霊から貰ったナイフを抜き身の状態で持っている。

刃物をちらつかせておけば、人間除けにもなるしね。

まぁ、寄ってきたら寄ってきたらでナイフの切れ味を試す実験台になってもらうが。



「……ふぅ」



曇り空を見上げ、溜息を漏らす。


今は亡き父親よ。

俺に仲間ができた。

他の奴は分からないが、多分何とかできると思う。


そんな言葉を頭に浮かべる。

まあ、どうせ心で唱えただけであり、父親に届くとは思っていないが……なんとなくだ。

さて、まだまだ時間がかかりそうだし、もう少しのんびりして……



 ゾ ク リ



「……!!…」



背後に…俺の背後に……何かがいる。

いや、何がいるのかは分かっている。

ただ……認めたくないのだ。どうしても。

自身の背を、つぅ…っと一筋の汗が流れる。



「おーい。つれてきたよ。えーっと…よく考えたら名前しらないや」



「しらねえのかよ。そんな奴よく仲間にしようなんて思ったな…」



「俺がリーダーのはずなのに…なんで勝手に仲間決まってるんだろう…」ブツブツ…



「…………」ニタリ…



「おーい!反応してよ。このままじゃ俺がただの変な人になるよ」



その声に何とか反応し、体をゆっくりと後ろに向ける。

体は鉛のように重かった。


そこには、四人の男がいた。


一人目は言わずもがな、金髪碧眼で白い服を着た男。

職業は、おそらく魔術師。


二人目は、赤髪緑眼で黒い服を着た男。

職業は分からない。


三人目は、茶髪茶眼でベージュの服を着た男。

職業は分からないが、その言動からしてリーダーとやらだろう。


四人目は、黒髪灰眼の男。

職業は、帯刀しているので剣士だろう。


ここまで確認し、あっさりと受諾した自身を呪いたくなった。


……全員に、因縁があった。

一人目は言わずもがな、一度魔法で殺されかけたという因縁。

二人目は、ナイフで片手を斬り飛ばしたという因縁。

三人目は、(多分)大金の入った財布をスったという因縁。

四人目は、一度寝ている隙を衝かれて殺されかけたという因縁。


しかも、全て今日できた因縁だ。


相手が忘れているはずも無い。


事実、四人目の男はとても嬉しそうにこちらを見ている。


二人目と三人目は気付いていないようだが、それも時間の問題。


というより、二人目の男の片手を確かに斬り飛ばしたはずなのだが……治ってる。

回復職なのかもしれないな……現実逃避はやめよう。


とりあえず、どうすればこの状況を乗り越えられるのかを考え……



「……!!」



とっさに鞄からナイフを取り出して鞘を抜き、四番目の男の剣を受け流す。



「ほう……受け流したか」



やはり、面白い。

その笑みに、冷や汗がまた一つ、背を伝う。



「くっ……!」



四番目の男の剣が絶え間なく繰り出され、俺はそれを受け流していく。


俗に言う、鍔迫り合い(というにはかなり一方的だが)が始まる。

しかし……いくら体力はそこまで消費していないとはいえ、無理があるぞこれっ!

こうなれば他の仲間が止めることを期待するしか……



「へー…やっぱり凄いね」



「なんだあいつ……本当にガキか?」



「あいつとまともに殺りあえる奴、初めて見た」



「色んなところでリーチが違いすぎるけどね。あっちはナイフだし」



何でのんきに観戦してるんだっ!あと、これでもかなりいっぱいいっぱいなんだよ!勘違いするな!!




父親よ……前言を撤回する。


   俺は今、うまくやっていける以前に死にそうだ……。


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