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盗人の日々  作者: 神崎錐
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「……ん。」



むくり、と身を起こす。

何故か布団に入っていた。


暗い部屋を見渡す。


穴が開いていない、電灯が一つだけついた木目の天井。

一部分にはシミがあり、人の顔が思い浮かべられる。


地面ではない、古びた畳が敷かれた床。

心なしか、少しばかり変色している。


壁にある、穴ではない窓。

太陽の光が、カーテンを赤々と染めている。


壁際の、自作ではない勉強机。

隣には、自分の好きな本が並べられた本棚が置かれている。


さて……ここから思い浮かべる可能性は一つ。



「……夢か。」



間違い無く、夢だろう。


ここがどこか、と問われれば、即答できる。

ここは間違いなく、生前の自分の部屋だ。


もしかすると、生前を懐かしむあまりに一番平穏であった自室を夢に見たのかもしれない。


布団から身を起こし、本棚を眺める。

様々な題名が立ち並ぶ本棚には、過去にこの世界で自身が面白いと思った本が置かれていた。


その中から一つ、適当に取り出す。

題名も見ずに、パラりと開く。

そのページは空白だった。

次のページを開く。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。

次。

空白。



「………?これは……」



 ゾ ク リ



「…………!!……」



殺気を感じ取り、即座に目を覚まして横に緊急回避を行う。


緊急回避をする前にもたれかけていた壁には、痛々しい斬傷が走った。



「……避けたか。」



壁に痛々しい傷跡を残した襲撃者は、剣を持ち上げ、そう呟いた。

男の目が、鈍く輝いた。




……まずい。


たらり、と、背を一筋の汗が流れる。


目の前の男はそれなりに身なりが良く、ここにはたまたま立ち寄っただけであろう事は容易に伺えた。

しかし、それ以上に重大なことがある。


目の前の男は確実に、自分より強い。


それだけなら、別に問題は無い。

自身の足の速さで逃げ切るだけだ。


ここは所詮仮宿。

一時的な住処でしかない。


問題は、出入口が男の背にあることだ。


ようは、とっさに行った、緊急回避の向きがまずかったのだ。


廃墟とはいえ、この建造物の壁はなかなかしっかりとしている。

七歳の子供の乏しい力で、壊して逃げ切ることができるとは言いがたい。


壊すことができても、逃げ切らなければ終わりだ。

どんな目にあうか分からない。


何故自分をいきなり殺しにかかったとか、そこまで考えをめぐらせる暇も無かった。


ゆらり、と。


男はこちらに向きなおす。


剣を構えた状態で鈍く光る目は、くすんだ銀を思わせた。



「斬り込む直前までは、殺気は消えていたはずだが……俺が斬り込んだときの一瞬の殺気を感じ取ったのか?」



面白い、と男は呟くなり、口の端を吊り上げる。


………やはり、まずい。


戦闘狂の気がありそうだ。

下手すると、殺されかねない。


コツ、コツ、……


足音を立てながら、ゆっくりと男が近づいてくる。


まずい。まずい。まずい。


内心で焦りながらも表面上は平静を保ち、男を見据える。


せめて、一瞬でも隙ができれば……



ジャリッ



「お、お前こんなところにいたのか。探したぞ。何時まで経っても帰ってこねぇし……」



出入口から、男の仲間らしき人物が姿を見せ、男に声をかけた。


そのとき、一瞬だが男の意識がその人物にそれた。



……今しかない。



直感でそう考え、ほとんど反射的に体を動かす。

帽子を深く被り直すことも忘れない。

足をすばやく動かし、男の横をすり抜ける。

男の手が伸びてきたが、うまくかわすことができた。

そして、出入口の前にたたずむ男の仲間の横を通過しようとした。

しかし、不覚にも、男の仲間に腕を掴まれてしまった。

そのことを触覚で認識した瞬間、俺はナイフに手を伸ばし、迷い無くその男の手を斬り飛ばした。



「な……!」



男の仲間がそう驚愕しているうちに、俺はこれまでで一番ではないかと思うほどの素早さで逃げていった。





ああ、もう散々だ。

こんなことになるなら、さっさともう一つ、仕事をしにいけばよかった。


そんな風に後悔しながら、俺は心の中でそっとため息をついた。


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