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盗人の日々  作者: 神崎錐
3/25

回想

生前。


俺は知り合いに殺された。

その日は俺の誕生日だった。

祝ってくれるような人はいないから、俺は一人で誕生日を過ごすことにした。


部屋でぼうっとしていると、ふっと今日の夕飯に使う卵を忘れていたことに気づき、遠いスーパーまで行くことが面倒になってコンビニで夕飯を調達することにした。

帰り道は夕刻になっていたため、薄暗かった。

だから、気づけなかったのかもしれない。


俺は、背中を何かで刺された。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

意識が薄れる前に聞いた声には、聞き覚えがあった。

顔は見えなかったが、その声でクラスメイトだと分かった。

わかったとしても俺が何かできるはずも無く、俺の意識は闇に沈んでいった。



気が付くと、赤子だった。


はっきりとしない意識の中で、気が付けば俺は本能に従って生きていた。

母親はどうやら死んでしまっているようで、父親が俺の面倒を見てくれた。

だが、ガキとして面倒を見てくれたのは二歳までだった。


それからは、父親にいろんなことをさせられた。

口調を変える。声を日常的に調整する。

森にナイフ一本持たされて放り込まれる。

毎日、走らされる。犬モドキとともに。(その目は餓えていた時のそれだった)

彫刻をさせられる。(一定の技術の作品じゃないともう一回走りこみ)ノルマは一日10個。

専用の道具が無くてもピッキングができる技術を(強制的に)教えられる。(実戦もさせられた)

スリの方法を教えられる。(実戦もさせられた)

三歳になると、週に一回のペースで父親にしごかれる。

四歳になると、週に三回に増えた。


そして、俺の五歳の誕生日。

父親は俺に形見と一つの言葉を残し、他界した。

病死だった。


形見は鍵だったが、その鍵に合う型が無いのでただの飾りだと思っている。

父が最後に残した言葉は、自由に生きろというものだった。


それから二年。

俺は七歳になった。


俺は父親から教えられた盗人の技術を有効活用し、旅に出るための金を集めている。

昔は少し納得がいかなかったような理不尽な行為も、今ではそれが愛情の一種だったのだと理解できる。


俺の脚はあの犬モドキにはもう絶対に追い抜かれなくなったし、サバイバルの技術も身に付いた。

彫刻もやっているうちに器用さがどんどん付いていき、盗みに器用さが応用できた。

彫刻の作品も、売れば旅の費用の足しになった。

父にしごかれたのは、けんかになったときのためだろうと推測できた。

盗人という仕事を選ばされたのも、ここ(スラム街)ではそれ以上にましな職が無かったからだろう。(例 浮浪者、娼婦、奴隷など)

父親も盗人だったというのもあったのだろうが。


生前の常識が通用しないのは分かっていたし、罪悪感はすぐに消えた。


けど、盗みをしていることが知れると、仕事がどんどんしづらくなる。

人の噂なんかは、それこそすぐにでも知れ渡る。俺はここらに定住しているから、なおのこと。

父は情報の操作なんかをして誤魔化していたようだが(何故できたのかは不明)、自分はそうはいかない。


だからこそ、仕事をこなすときは随分と慎重になった。

ばれないように、用心に用心を重ねた。

今回も、あの少年がスリの常連で足が速く捕まったことが無いことを知らなければ実行する気は無かった。(ちなみに、普段は空き巣をしている)


廃屋で干し肉を五枚ほど食し、腹を満たす。

今回の仕事は、意外と楽に済んだ。

普段なら慎重になりすぎてほぼ丸一日かけて済ませる仕事が、午前中で終わった。

珍しいこともあるものだ。

俺は一日の(盗人の)仕事のノルマを一回と決めている。

しかし、それは飽く迄もノルマであり、二回してもかまわないわけだが……。



「(……今日は、もういいか)」



と、いうことで…今日は久しぶりにのんびりするとしよう。


渇いた喉を雨水で潤し、廃屋の壁にもたれかける。

帽子を目深に被り直し、目を閉じると、やがて眠りについた。





……あ、スった金、数え忘れた。


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