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盗人の日々  作者: 神崎錐
22/25

起床

大変申し訳ございません。

週一とか言っときながら二週間後って……。

自分のトロさを久々に悔やみました。


「……………」



無言で身を起こす。

先ず喉を整え、何故かだるい体を落ち着かせる。

そして周囲を見渡せば、焚き火の跡と付近に仲間を視認する。

それを見た瞬間、俺は何とも言えず込み上がって来る感情に涙しそうになった。

いや、実際にはそんなそぶりをすることもなかったが。


俺は結局、体感で丸二日程死神と殺り合った(正確には一方的な暴力を避けまくった)。

時には避け、時には拷問器具を贄にし、時には素手で受け流し、時には……そんな感じで死線を潜り抜けた。反撃はしなかった。というよりも、する余裕が無かった。

防御に使っていた拷問器具の残量が無くなった時はかなり焦った。


いくら肉体的には平気だったとしても、精神的疲労はどうにもならなかった。

だから、実のところ今はかなりきつい。眠った筈なのにこれは一体どういうことなんだろうか。

しかし、結果的に一撃も喰らう事無く制限時間まで持ってこれたが……もし喰らっていたらどうなっていたのだろうか。少し気になる。魂が傷付いて消滅とかは……ありえるか。寧ろそちらが高そうだ。


そんなことを考えながら、その場に立ち上がって周囲を見渡す。

周囲にはあの時より少なめの死屍累々(主に魔物。普通の動物はそもそも寄って来ない)が転がっている。


それを見て、何となく魔力感知をONにする。

すると、薄ぼんやりと周辺に光の帯が見える。

どうやらあれが死亡区域のようだ。意外と広い。

その中には人の形をした何かも転がっているが、気にしないで置こう。

何処からか呻き声も聞こえるが、俺はそれを無視して仲間の体を揺する。

…が、やはり起きなかったので殺気を出すと、全員が飛び起きた。

やはりこの手段が一番効果的のようだ。


仲間は全員驚愕していた。

リーダー曰く、何でも二日程目を覚まさなかったという。

その話を聞いて俺自身も内心驚愕した。

まさか死神と夢の中で殺りあった体感時間と現実の時間がリンクしていたとは……どうりで体がだるいわけだ。やはりあの時同僚と一緒に帰るべきだったか。

まぁ、そんな無駄な後悔の念はゴミ箱に入れておいて。



「魔術師」



「何?」



「周りの罠、解いて。二日ぶりに、ちょっと体ほぐしたいから」



「いいよ。確かに二日も眠りっぱなしじゃ流石に体も鈍ってるだろうしね」



「それぐらいなら俺が……」



「流石に直ぐ剣士の相手はちょっときついよ。殺り合うとしても、また後で」



「…チッ……」



「いい加減お前も自重しろよ……」



「剣士にそれを求めるのは無謀だよ、リーダー。じゃ、ちょっと狩って帰ってくるから」



「いってらっしゃい。面白そうなのが出たら教えてね」



「怪我するなよ。治すのだって楽じゃないんだ。怪我してもそのままでいてもらうからな」



「後で殺り合うぞ」



「……あぁ、わかってたよ。こんな奴らだってことは。…頑張れよ」



その台詞を背後に、俺は狩りに赴いた。

ちなみに、魔術師の魔法罠に掛かっていた魔物等は全て食べられない状態だったため、そのまま放置した。(例 微塵切り、黒焦げ、消炭、変色、半土壌化等)


数分後。



「ただいま」



「おかえり。面白そうなのいた?」



「傷は無いな」



「俺と殺り合え」



「ちょっと待て。色々おかしいだろ。何で数分で帰って来れたんだロイ。その手に持ってるウサギっぽいのは捕まえるのは熟練の猟師でも難しいって聞いたぞ。しかも何で三匹も」



「ちょっとそこら辺で見かけたのと、だいぶ前に俺の父親がなかなか食べれない珍味だって言いながら俺には泥み……雨水スープ飲ませて横で丸焼き齧り付いてたから捕ってみた」



「へー。じゃ、食べてみようよ」



「そうだな」



「流石に食う方を優先させるか」



「……つっこまない…俺はつっこまないぞ……」



「血を抜いてからね。このままだと生血ごと食うことになるし」



「あ、そっか。そういや、そんな面倒な作業もあったっけ」



「それなら飯はしばらく先か……」



「いや、待て。ロイ、その肉放り投げろ」



「わかった。よっと」



「おい待てロイ!そんな素直に従う…」



「………はぁ!!」



リーダーが俺の行動を非難した瞬間、剣士は剣を抜く。

そして、剣士が(常人の)目にも留まらぬ速さで剣を振る。

すると、三体の兎モドキに切り目が入り、血が噴出し、毛皮は綺麗に剥げ、肉はブロック状になる。

そして何故か血は主にリーダーの居る付近に飛び、毛皮は何故か俺の手元に落ち、ブロックになった肉はとりあえず置いてあった鍋に落ちた。



「ふっ……」



そういって、剣士は剣の血を一回振って飛ばしてから収めた。



「へぇ、うまいもんだね」



「今まで殺し合い以外に興味が無いと思ってたが、こういうことも出来たのか」



「器用だね。何時か俺もやってみようかな」



「何で俺の居る所に血が飛んできたんだ?避けたから良かったものの、まさか確信犯だったなんてこと無いよな?」



「ロイ、その皮は結構な高値で売れるらしいぞ」



「へぇ。でも、どうやって加工するかわからないし、俺じゃ宝の持ち腐れだよ。このままじゃ確実に腐るし」



「俺が魔法掛けるよ。えーっと……ぼそぼそぼそ…」



「じゃ、俺は飯作るか……どうした?ユート」



「どうせ俺なんて……いや、俺も手伝うよ」



「わかった。じゃ、そこら辺で付け合せに薬草でも摘んできてくれ」



「…わかった」



「これ、置いてもいいかな?いい加減に持ちっ放しはきついし」



「やめたほうがいいぞ。ディルが魔法使ってる最中に下手に対象動かすとどうなるかわからない」



「でも持ちっ放しはねぇ……」



「失敗すれば……今まで見てきた中では、良くて爆発、悪くて……いや、これは言うべきじゃないな」



「気になるけど、聞かない方が良いならそうするよ。剣士がそういう(まともな発言する)のも珍しいし」



「俺はお前の中でどう見られてるんだ」



「戦闘狂」



「(………今までの行動を振り返ると、全く否定できないな)」



そんなこんなで一時間後。

魔術師が腐敗防止の魔法を掛けたり、リーダーと僧侶が協力して作った朝食を食べたりして(結局手伝いも出来なかった)時間が過ぎた。

兎モドキの肉はおいしかった。味付けは塩だけのはずだったのに……物が良いとここまで変わるのか。



「じゃ、飯も終わったし手早く行こうか」



「賛成」



「了解」



「了承」



「何で何時も俺が仕切れないんだ…」



それはその性格のおかげだろうと思われる。

まぁ、かくして俺たちは早足で港町に向かった。




「……!!ってぇーー!!誰だよ石投げてきたの!!」



「知らないよ」



「さぁな」



「俺はそんな野暮ったいことはしない」



「とりあえず、それっぽいの狩ったけど」



「ちょ、お前何時の間に……ってかそれ斑猿!!?」



「?何それ」



確かに模様は斑だけど。



「え、やば。逃げろ」



「流石にそいつは勘弁」



「まだ俺は命が惜しい」



「さっさとどっかに投げ捨てろ!!」



「?なんで?」



すたこらさっさと俺から逃げていく仲間を、首を傾げて見る。

何をそこまで怯えるのだろうか。

この猿はもう既に首の骨を折って殺してしまっているのに。

……そうだ。これは昼食にしよう。

見目はあまり良くないが、皮を剥いで解体(バラ)せばそれなりに食えないことも無いだろう。


そうとなれば膳は急げということで朝食時の剣士の物真似をして解体する。

鍋は無いのでそこら辺に落ちていた木でそのまま肉を焼いて食べ、俺は昼食を終えた。

肉は不味くも無く美味くも無い、物凄く微妙な味だった。

食事の後に少し体調が悪いような感じがしたが、気のせいだったのかもしれない。


食事の後は、仲間からは畏怖と同情のこもった目を向けられた。

何故?


斑猿とは、生きていると周囲に猛毒を撒き散らす大変恐ろしく危険な魔物。

その毒は一匹で村を一つ壊滅させるほどだとか。

しかしその猛毒を持つ故に個体も少なく、弱い個体だと自身の毒に耐えられずに死んでしまう。

だからかなり見つける事は稀で、その猛毒で災厄の象徴とも言われている。

しかし斑猿は飽く迄生きている内しか毒を撒き散らすことは出来ず、死ぬと体の中に溜め込んだままになる。

昨今では、この毒を使用して毒の何か等を作る人間もでてきたらしい。

大抵の生物なら即死だとか。


ちなみに、石を投げた何者かと斑猿は全く関係ありません。

単なる主人公の間違いです。


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