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盗人の日々  作者: 神崎錐
21/25

施錠

目が覚めたとき、俺はリーダーにおぶられていた。

顔を動かしてを上空を見上げると、日は既に高かった。

どうやら随分と眠り込んでいたようだ。

おぶられていたのは少しでも早く町にたどり着くためだろう。

仲間がおぶる役を押し付けあう姿が目に浮かぶ。

そんなことを考えて、リーダーの背を叩いて起きたことを知らせる。

リーダーが気付くと、俺はそのまま降ろすように催促する。

声は整えたが、何故か声を出す気は起きなかった。

リーダーが気付いて腰を降ろすと、俺は一言だけ言葉を呟いて地に立つ。

全員の顔が一瞬だけ引き攣ったが、結局そのまま何事も無かったように道を進んだ。

なぜ顔が引き攣ったのかに内心首を傾けたが、今は少しでも早く町に着く事が先だと思い直し、俺は無言で歩を進めることにした。

時々リーダーが話すそぶりを見せたが、結局会話がなされることは無かった。


結局、あまり話すことなく一日が終わりに近付く。

道中で時折魔物が出たが、弱かったので数秒ももたなかった。

全員の動きに何故か何処かブレがあったかのように見えたが、結局、追求することはなかった。


食事中も無言だった。

誰も話すそぶりを見せなかった。

そして、今日は確か俺が食事当番の筈だったのに何時の間にかリーダーが終わらせていた。

何故。


そんな疑問をぶつける間も無く、仲間は全員就寝した。

解せない。

俺は眠った人間を叩き起こして詰問するほど鬼になった覚えは無いので、そんな思いを溜め込んだまま、俺は地べたに寝転がって眠った。

星空が綺麗だった。



「…………」



無言で身を起こす。

あえて目は開けていない。

面倒事の予感がしたからだ。

その部屋(・・)の匂いから。


しばらくして、意を決して目を開く。

はたして、そこには。

床に転々と落ちている人間の物と思しき肉片。

血が所々に付着した拷問器具。

血溜りの床。

血塗られた石壁。

想像よりも幾分かマシだった光景が、そこにあった。

もっと酷くておどろおどろしい光景が出てくるかと思ったが、そこまでの物は無い。

おそらく死神が用意したであろう部屋は、そんな部屋だった。

ポイントが足りなかったのだろうか。

そんなことを考えながら、とりあえず部屋を動き回る。

時折そこら辺に転がっている肉片や眼球を踏んでしまうが、気にしない。


とりあえず、この部屋で一番目を惹く拷問器具から見てみる。

拷問器具は、やはりというか何というか、前の世界と形が似ているものが多かった。

まぁ、俺の拷問器具に対しての知識なんてたかが知れているわけだが。

鋼鉄の処女(アイアンメーデン)やベルトが着いた針だらけの椅子(正式名称は忘れた)ぐらいだ。これらもせいぜいテレビの番組で少し見ただけで、正確な使用用途は知らない。

あとのものは見覚えすらも無く、よく解らない。


それにしても、此処は何処だろうか。

光が有るということは何処かに光源が有る筈なのだが、この部屋には窓も明かりも見当たらない。

窓が一つも見当たら無いところを見るに地下室なのかもしれないが、かなりおかしな空間だ。

まぁ、それもこれも「夢だから」で済む疑問だが。



「全然反応しませんね」



「あぁ。表情も微動だにしない」



「拷問器具に近付きましたね」



「知らないみたいだな。興味深そうに見てる」



「さっき人肉片踏みましたね」



「全く気にしてるように見えなかったな」



「………失敗、ということでしょうか」



「あの子供の神経が異常に図太いだけだと思うぞ」



「……そうですね」



何処からか死神と知らない声が聞こえてくる。

常人なら分からないような音量だが、あいにくと神経を研ぎすませた状態で盗人という仕事で鍛えられた俺の耳が聞き逃す筈も無い。

拷問器具に向けていた顔を上げ、大小様々な万力のような物が置いてある付近に顔を向ける。

そして、そのままその一点をじ~っと見つめる。



「…なぁ、あいつなんかこっち見てないか?」



「……いや、見えてはいないはずですよ」



「なんだその間。今物凄く不安になったぞ」



「私も数回会って話もしたのですが……どうにもよく解らない子なんですよ」



「というか、本当に子供なのか?目に感情が全然感じられんぞ」



「…それは私にも解りません。ですが、以前見たときはあんな目をしていなかったと思うのですが……」



ごめん。本当は見た目通りの子供じゃない。

精神は立派に高校生……間違えた、成人している。

まぁ、少なくとも今は教えるつもりは欠片も無いが。

そして死神。人は変わるものだよ。

不変なんてありえない。俺はそう思ってる。

しかし、俺はあまりあれから変わったような気はしないのだが……はて。

…まぁ、それは置いておいて。



「別に見えてないよ。声がするから見てただけ」



「……!?」



「……!?」



「……何となく驚いたのは解ったけど、耳を澄ませば普通に聞こえるよ」



「…………」



「…………」



「ありえないって思ってるかもしれないけど、本当だよ。死神と知らない誰かさん」



そう言うと、俺が見ていた所に二人の男が霧のように現れた。

格好も身長もほぼ同じなため、見分けがつき辛い。

唯一の違いが声と口調と言ってもいいだろう。



「聞こえていましたか」



「まぁね」



「……本当に変な子供だな。普通は聞こえる音量じゃないぞ」



「職業の恩恵。で、何?また弄り?」



「その通……ゲフンゲフン。偶々気の合う職場の友人と鉢合わせたので、互いに休暇中という事で来てみました」



「(…虚言だな)そう」



「(今この子供の心の声が聞こえたような……)それにしても、大抵の輩は何かしら反応するこの部屋にノンリアクションなのは驚いたぞ」



「驚いてはいるよ。ただ、思ったよりも酷くなかったから逆に気が抜けただけ」



「(…この子供はこれ以上の物が想像できたのか?)…そうか」



「うん。」



「そうですか……。それにしても、貴方はあの短い間に何があったんですか?表情が完全に消えていますよ」



「……え、それ本当?」



「え」



「え」



それから体感で数分の沈黙の後、鏡が手渡された。

鏡に映った自身の顔には、確かに感情を感じ取ることが出来なかった。

これは……



「……やっぱ、アレが拙かったのかな」



「アレって何ですかアレって。面白そ……いえ、少々興味深いので、是非聞かせてください」



「お前、ちょっとは自重し…」



「つい最近ね、自分の精神空間に鍵をかけてみたんだ。」



「言うのか。言うのかお前は。そしてサラッと物凄い事言ってなかったか?」



「どんな鍵ですか?」



「俺の握り拳大の、鋼鉄製の南京錠」



「馬鹿だろお前、馬鹿だろお前」



「大事な事だから二度言われたらしい」



「人の台詞を盗るな!」



「職業柄」



「お前の親の顔が知れんわ!」



「一般的見解によると、かなりの美形だったそう」



「そういうことじゃない……あぁ、これじゃ全然話が進まん!!」



「人生なんてそんな物……間違えた。死神生なんてそんな物」



「意味解らないし、無表情なのが余計に腹立つ!」



「まぁまぁ落ち着いて。せっかくの面白そうなはな……相談事なんですし、ちゃんと遮らずに聞いてあげましょうよ」



「お前も大概酷いよな!!」



「人の不幸は蜜の味らしい」



「そうそ……いえいえ。そんなわけが無いでしょう。私はとても善良な一般人…失礼、死神ですよ」



「死神が善良なら、世界の愉快犯の大抵が無罪にすり変わると思う」



「…否定できないな」



「あなた方も大概だと思いますが…」



「まぁ、死神の戯言はゴミ捨て場に置いといて…精神空間に鍵をかけて、何が拙いの?」



「(捨てるんだな)何もかもだ」



「(捨てるんですね)そうですね。その行動に移す経緯は知りませんが、かなり無謀な行為です」



「(無責任な死神にまで言われるってことは、相当だな)そうなんだ」



「あぁ。下手すれば一生植物人間状態だ。しかも内側からかけた鍵だから外から開ける事も出来ない」



「そうですね。鋼鉄製の南京錠で表情が消えただけだったのはある意味幸運だったでしょう。ところで、何か失礼なことを考えませんでしたか?」



「気のせい。ところで、あの鍵って何なの?何か考えただけで出来たんだけど」



「その鍵はお前の魔力と魂の放出する力から出来たものだ。その人間の強い思いに比例して、より頑丈な物に、より複雑な物に、より強力な物になる」



「精神空間でしか使えませんけどね。まぁ、誰にでも使えるお手軽かつ非常に危険な魔法とでも思っていてください」



「成る程、ね。……もしかして、仲間はこれにひいてたのかな」



「これって……表情のことを言っているのでしたら、多分普通はひくと思いますよ。口元辺りまでしか見えないとはいえ」



「そうだな。俺もひく」



「そっか……後で説明……面倒だな。別にいいか」



「そこは面倒がるところじゃない。寧ろ気にしろ」



「えぇ~…仕方無いな…」



「普通無精無精に言うことじゃないよな。何だ?俺が間違ってるのか?」



「そうじゃないんですか?」キラッ



「嘘つくな。無駄に白い歯を輝かせるな。おかげで今までに無いほど不必要な殺意が湧いただろうが」



「そこで殺そうとしないのはいい心がけだね。とりあえず、戻ったら仲間内でも一番信用できる人(リーダーのこと)に説明するよ。相談役ありがとう、死神の友人」



「あぁ。だが、その呼び方は物凄く不本意だ。せめて同僚と呼んでくれ」



「わかった、同僚」



「何か違うが……まぁいい。よろしくな」



「(本当は宜しくするような関係でも無い筈だけど…)まぁ、よろしく」



こうして、同僚と友好関係を結べた。死んだ時はあの世まで宜しく、と言うと、縁起でも無い事言うなと言われた。結構本気だったんだけどな。死神だと碌な死に際にならないだろうし。

で、今はというと。



「……だから私はそれを鎌で刻んで埋めたのです。」



「へぇ。死神、嫌いなんだね」



「はい。ですが、翌日になると復活していたので今度は細切れにするとようやく動かなくなりました」



「ふぅん。ちなみに、欠片一つにどの位の幅にしたの?」



「そうですね……一つあたり、大体小指の関節くらいでしょうか」



「そっか。かなり念入りだね。……」



「えぇ。…あぁ、細切れにした後はまた一片の欠片も残さず埋めました」



「いや、別にわかりきった事後報告はいいから。それにしても……」



「どうしましたか?」



「いや、ゾンビって位高くなるとそんなに厄介な魔物なんだなーって」



「はい。ゾンビ系の魔物は厄介ですね」



死神から、今まで殺してきた魔物の話を聞いていた。

俺が殺った事がない魔物との戦闘に使えるしね。

ちなみに同僚は帰宅済みだ。



「そっか。そういえばさ」



「?なんですか?」



「死神って、魔物倒す機会なんて何時出来たの?」



「………それでは、次は人型の魔物、所謂魔族といわれる者を殺したときの話ですが……」



「(流した。ま、いいけど)一般的には格が違うとも言われてるあれか」



そんな感じで、体感で数時間ほど話し込んでいた。

しかし。



「……う、あの体を切り刻んだ時の快感。やはり殺すなら人型がいいと実感した瞬間でしたよ」



何時の間にか変な話にすりかわっていた。



「(どうしてこうなった…orz)そう。魔族の弱点は統一されてないの?」



「解りません。そんな事気にせずに直ぐに捌いてましたから」



「どの位の失血量で死んでた?」



「動かなくなったのは体を五分割位したあたりでしょうか。あぁ…ああぁ……」



「どうしたの?」



「楽しかった……楽しかったなぁ……また殺りたい…殺りたい殺りたい殺リタイ…。でも今は出来ない…。」



「…………」



なにやら危ない事を口走り始めた。

これ以上此処に居座るのは拙いかもしれない。



「もう少し……もう少しの我慢。そうすればあれは無理でもあいつを……あぁ……あアぁはハハハーーーー!!!」



「………………」



何か狂った。

もしかしなくても、死神は戦闘狂……否、殺人狂なのかもしれない。

となれば、当然こちらに影響が出る可能性も無きに有らずというわけで。

此処だって死神の私物なわけで。



「……じゃ、俺はそろそろ現実に…」



「…逃がしませんよ」



「…………」



死刑宣告とも取れる言葉が聞こえる。

……あの時、同僚と一緒に帰っていれば…後悔先に立たずか。

そんなことを考えながら、夢なのに背を滝のように流れる汗を無視したまま、少し距離を置いて死神と向き合う。その口元は狂気に歪んでいる。



「さて…その時が来るまで、どうかこの私と()り合いませんか?」



それが一体何時来るのやら、そんなこともわからない。

しかし、現状で言えることは一つ。



「拒否権は無いんだよね?それじゃあ仕方ない。その時までは暇潰しにでもなるよ」



それだけだ。



「ありがとうございます……」



そう言いながら、死神は何処からか身の丈大の大鎌を取り出す。

しかし、ここで問題が一つ。



「俺の武器は?」



「ありません」



「……………」



一瞬正気を疑いたくなったが、元より狂っている事を思い出して何とも言えない感情になる。



「準備はよろしいですか?それでは殺り合いましょう」



「正確には一方通行な暴力だと思うけど……仕方ないな。とりあえずこれ借りるね」



「ええ、どうぞ。それでは始めましょう」



「………はぁ…」



こうして、俺は死神と夢の中で殺り合うこととなった。



「あ、また壊れた」



「そんな頭蓋骨破壊機程度で私の鎌を防ぐことなんて出来るわけが無いでしょう?」



「これってそんな物なんだ。じゃ、次はこれ」



「ふふふ……あぁ楽しい!もっと楽しませてくださいよ?」



「こんな調子じゃ、気が済んでくれるのは何時になるのやら……いや、とりあえず死神が楽しみにしてるその時が来るまでか。此処で体力とかそういうのは関係無さそうだし……とりあえず、保身第一か」



目の前に迫る鎌を紙一重で避けながら呟く。



薄暗く明かりが無い地下室には、死神の狂気に塗れた声が響いていた。

これだけでも十分トラウマ物だと、俺は思った。


一応補足しますが、同僚はかの死神に変な空間を譲渡した悪趣味な同僚とは全くの他人です。そして、この殺し合い(おあそび)が終わった時がかの同僚の二度目の臨死体験の幕開けです。



「………!!(な、なんだ?今妙な寒気が…)」



「どうしましたか?まだ傷が痛みますか?」



「い、いえ。大丈夫です。心配ありませんよ」



「そうですか?しかし先程…」



「ちょっと妙な寒気がしただけです。おそらく、ただの気のせいですよ」



気のせいではありません。

そして、死神は変な物を貰ったことを口実(・・)とするでしょう。

その時彼が生きているかどうか……それはまだ解りません。


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