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盗人の日々  作者: 神崎錐
20/25

病人

予定を急遽変更し、午前中に宿を出た後は特に問題も無く進んだ。

次の目的地は港町だと言う。かなり遠いようで、ここから一週間は掛かるそうだ。

しかも真っ直ぐ行くとどうやっても途中に村は無いらしい。

まぁ、逆に言うと真っ直ぐでなければ村はあるそうだが……野宿の方が金もかからないということで寄り道は廃案になった。

出てくる魔物は、確かに総じて弱かった。

剣士が逆に不機嫌になったのも解る気がした。ここまであっけないと、何処か味気ない。

まぁ、だからと言って襲われることになるのは納得いかないが。


ちなみに、リーダーに調べてもらったが、気配察知は何時の間にか一流になっていた。

あの短期間の何が良かったのだろうか。自分の事なのに、心当たりがありすぎて解らなかった。

まぁ、そのおかげか殺気以外にも敏感に反応できるようになったが。

普段から反応する必要もないし、面倒なので普段は反応するつもりもない。

そう結論付け、俺はまた仲間と焚き火を囲って野宿をした。


さて。

現実逃避もここまでにしよう。今、俺は現実を見るべきだ。

そう考え、改めて部屋を見渡す。

そこは生前、幼少期に住んでいた家のリビングだった。

俺は生前の死んだ両親が使用していたダブルベッドに眠っていた。

その部屋の形は幼少期に住んでいたリビングだったが、前文からも読み取れると思われるが、この部屋はごちゃ混ぜだった。だが、何故か違和感が無かった。

大きな窓から見える風景は、生前俺があこがれた森の風景。小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

家具は、生前に家具屋で見て憧れた物の数々。俺は木の模様が好きだった。

そして、壁一面に本棚に納められた、本。

俺が本を読み始めたのも、確か両親がきっかけだった。

部屋を一通り眺め、そんなことを思い出す。電化製品は置いてなかった。


夢だとは分かっていても、おかしいとはわかってはいても、その空間は何故かとても落ち着いた。

全てが自分好みの、懐かしい空間だからかもしれない。

とても落ち着けた。



「どうしたの?さっきからぼーっとしてるけど……風邪?」



この(のっぺらぼう)が居なければ。




「違う……ここ何処?」



「ここ?ここはね、君の精神空間」



「……俺の?」



「そう。君の」



「…何で君はここに居るの?」



「企業秘密♪」



「……ま、いいけどさ。で、君誰?」



「あれ?もしかして気付かなかった?ほら、防具屋で会ったと思ってたんだけど」



防具屋……となると、やはりあのときしか思い出せない。

あの声でもしやと思ったが……やはりこの男だったか。

しかし、この声で未だ後一つ、大切なことを忘れている気がするが……後で考えよう。



「あぁ、構成員その四ね。確かに会った」



「また棒読み(笑)。しかも、初対面でそんな呼ばれ方初めてだ」



「そう。嫌なら変えようか?」



「いや、お好きなように」



「じゃ、勇者」



「……もうばれてたか」



「人から聞いた」



「そっか。俺の名前、功輝って言うんだ」



「知ってるよ。姦しい人達が叫んでた。」



「あー…そうだったね」



「正直、あんな人達仲間にして、君の気が知れないね。」



「なりゆきでね……俺も正直、あんなのを仲間にしたく無かったよ」



「ご愁傷様。そして自業自得。逃げればよかったのに」



「逃げたら逃げたらで面倒臭そうだったし……それに、魔王倒したら願いを何でも一つ叶えてくれるらしいからさ。帰してくれることのついでに」



「自分が好きなんだね。俺にも時々理解できるよ、そういう考え」



「時々って……それに、この願いは人のために使うつもりだよ」



「へぇ。そう」



「信じてないね…まぁ、いいか。俺はね、あっちの世界に居た親友に使うつもりなんだ」



「親友に?(そんなのいたのか)」



「そう。親友といっても、そこまで長い間付き合ってたわけじゃなかったけどね。俺は部活があったし親友の方もバイトがあったから休み時間しか話せなかったし、家にも遊びに行けなかったし。親友始めたのは中三の頃からだけど、高一で居亡くなっちゃったから」



「へぇ。仲良かったんだね」←棒読み



「うん。短い間だったけど、親友はいい奴でね。俺の愚痴やら与太話、どんな話にでもちゃんと腰を折らずに相槌をうってくれたんだ。冗談みたいな変な話でも変にまともな答えを返してくれるし、俺だからって態度を変えることも無かった。他の奴らは媚び諂って来たけど、そいつだけは別で、同じように接してくれた。俺が大企業の息子って知っても、全然態度を変えなかったんだ。むしろ、それがどうしたって言ったから驚いたよ。それから親友になったんだ。でも、親友になったら俺のことが好きな女が親友をいじめ始めたんだ。でも親友はそんな事全然気にしてなくて、何かあったのかって訊いても平気って答えるだけだったんだ。まぁ、結果的には俺が全員炙り出して絞めたけど……結局親友は全然変わらなかったんだ。態度も、立場も。今まで会ってきた奴らだったら、何か一つは変わってたのに。それを見て、改めてこいつの事好きだな~って思ったんだ。」



「……そっか」



話が長い。思ったよりも凄く長い。しかも全部その親友とやらの自慢話だ。

聞き流そうと思ったが、何処かで聞いた事があるような話なので全部一応きっちり聞きはしたが……最後の台詞で少し奇妙な感覚を覚えた。はて。そこまでおかしい台詞でもなかったはずなのだが。

そもそも、この男の声には以前から変な感じがした。何処かで聞いた筈なのに、思い出せない。その名も然りだ。何処かで聞いた筈なのに、思い出せない。俺は人付き合いが苦手だった。生前は特に苦手で、話は相手から振られないと話せなかったし、それでも話が長続きするのは珍しかった。そんな俺でも何処かで聞いたような気がするほどなのだ。よほど頻繁に聞いたのか、あるいは………



「うん。あ、そうだ。この前、君が誰かに似てるって言ってたよね。それ、俺の親友のことなんだ」



「へぇ…(…え?)そうなんだ」



「うん。具体的には言えないけどね。あ、話戻すけど、俺はその親友を生き返らせるために使おうと思ってるんだ」



「……生き返らせるため?死んでるの?」



「うん。親友が俺に嘘吐いたと思って腹立ってさ。何か頭の中グッチャグチャになって……気付いたら殺してた」



「……そっか」



「うん。結果的には親が警察に色々根回しとかして結局親友は世間的には事故死になったんけどね。でも、俺のエゴで死んじゃったんだし、ちゃんと生き返らせたい。もう一回人生をやり直して欲しい。でもやっぱり、生き返らせたい一番の理由は……また、俺の親友になって欲しいから、かな。結局、俺も諦め切れてないね」



「………そう。でも、嘘吐いて殺されるんじゃ、きりが無いよ?」



「うん。だから、もうそんなことはしない。自分で決めた」



「……ま、先ずは魔王を倒さないとね」



「そうだね。じゃ、俺はそろそろ帰るよ。このことは誰にも話さないでね。バイバイ」



「……バイバイ」



そう言い返すと、勇者(のっぺらぼう)はリビングの扉(外開き)から出て行った。

ここら辺の仕組みは共通しているらしい。


出て行った後、俺はダブルベッドに体を倒し、頭を抑えた。

頭痛がしたような気がしたのだ。


思い出した。自分が死ぬ直前に聞いた声を。思い出さなければ良かった。あの時、聞いた声を。



『嘘吐き』



その声は、確かに知り合いの声だった。

中三の頃から、よく話しかけられた。

ただの暇潰しに使われていると思っていた。

その立場は既に知っていたから。

半年もすれば愚痴も聞かされるようになったから、相談役になったと思っていた。

同じ高校に入ったのは、ただの偶然だと思っていた。

苛められるのも、必然だと解っていたからなんとも無かった。

ある一時期を境にぴたりと止んだが、それも飽きたのだろうと思っていた。

ずっと知り合いだと思っていた。身分の差が大き過ぎたから。

友達ですらないと思っていた。何もかもが違いすぎたから。

あの誕生日の日、俺は電話越しにバイトを首になった。原因は不景気。

親は既に死んでいた。引き取ってくれる人も居なかった。親戚は皆薄情だった。

高校に入れたのも、奇跡に近かった。奨学金は貰えなかった。成績が足りなかった。

バイトを必死でやりくりした。でも、一つ首になって暇が出来た。

そのときに、殺された。


偶然が重なって、起こった悲劇。

そう言えば聞こえはいいだろうが、これはあまりにも理不尽すぎる。

確かに、あの日はバイトがあるからと断った。(と言うよりも、この台詞で全ての約束が消えていた)

だが、だからと言っても予定が狂って暇になる可能性も考えずに殺すなんて普通は無い。

大体、お互いの連絡先も知らないはずなのだ。

知らせる術も無いというのに、そもそも『嘘吐き』呼ばわりされるのもおかしな話だ。


そんなことを際限も無く考える。

最後に思ったのは単純な事だった。

死にたくない。そんな生存本能。

俺はやはり、生に思いの他執着があるようだ。


さて。これから俺がしなければならないこと……それはやはり、俺が〔親友〕だということを悟らせないことだろう。そして、何としてでもリーダーに魔王を倒させなければならない。

俺は何気に此処での生活を気に入っている。生前の暮らしも楽しかったが、もう此処での暮らしに慣れてしまった。どうせなら、この人生を全うしたい。それが俺の願いだ。


リーダーにはこのことを伝えるべきだろうか……いや、止めておいたほうがいいかもしれない。

間違いなく、この話はホラーだ。リーダーがこのリアルホラーに耐えられる気がしない。


とりあえず、この部屋には鍵をかけよう。今度は、誰も入れないように。華奢な鍵じゃなくて、厳重な鍵を。扉を開ける鍵は、言葉にしよう。解る人には解るような。


そんなことを考えて実行しているうちに、強烈な眠気が襲ってきた。

どうやら時間切れのようだ。

俺はその眠気に身を任せ、ダブルベッドに倒れこむように眠った。


勇者は狂化した。

主人公は精神力(メンタル)に100のダメージを受けた。

主人公は混乱した。




尚、これ以降は諸事情も有り、ペースが減少傾向に陥るかもしれませんが、どうぞご了承ください。


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