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盗人の日々  作者: 神崎錐
2/25

仕事

パチッ



「……夢か」



そう呟き、身を起こす。

穴の開いた継接ぎの天井は見知ったものだった。


夢見は最悪だった。

特に、最後の苦痛は生前の死に間際を思い出させるものだった。

しかし、深く考える時間は、今のところは無い。


まずは身なりを整える。

たいしたことはしない。


地べたで寝ていたため、元から汚れている服がさらに汚れている。

この汚れを、手で叩いてできる限り落とす。

それだけだ。


次に、持ち物の確認。


古着のシャツ、ある。

継接ぎのズボン、ある。

薄汚れた外套、ある。

指先が無い手袋、ある。

縫い跡だらけの帽子、ある。

ぼろぼろの靴、ある。

サバイバルナイフ、ある

砥石、ある

布切れ、ある

空き瓶、ある。

父の形見、ある。

へたれた皮の鞄、ある。


ここまでは普段から装備しているか持ち歩いているもの。

次はここに隠しておく非常品類。


瓶に入った雨水×10、ある。

干し肉(自作)×50、ある。

鍋(金属製の板)、ある。


これで、確認は終了。

何も無くなっていない。


次に、金銭の確認。


表の財布(人前で使う財布)の中身、28シス(円)

裏の財布(俗にヘソクリ)の中身、89053シス


合計金額、89081シス。

目標金額、150000シス。


……まだまだ、目標まで程遠いようだ。


さて。


表裏の財布をしまいこむ。

まぁ、表の財布は鞄に仕舞うだけだが。(裏のほうを言う気は無い)


帽子を深くかぶりなおし、顔が分かり難くなるようにする。

それから睡眠時に着用しいていた外套を畳み、斜め掛けの鞄に仕舞う。

これで鞄はほとんど埋まる。


仕上げに喉仏を指先で軽く2回たたいて声を整えれば、仕事の準備は整う。



「さて……行くか」



整えた声で一人呟き、気配と足音を消して廃屋から出る。


廃屋の外には、同じような廃屋がいくつも周辺に建ち並んでいた。

その周辺にはぼろ着を着た浮浪者が何人もたむろしている。


相変わらずの風景を無感動に眺めながら、カモを探す。

しばらくして、それらしい男を見つけた。


偶然を装い、その男に近づく。



「なぁ、おっさん。少し訊きたいことがあるんだが…」



その男は、そう一人の浮浪者に声をかけた。


注意が浮浪者に向いているが、だからといっても安全に仕事ができるとは言いがたい。

自身の勘を信用すると、おそらく男はそこらの傭兵よりよっぽど強い。

さてどうするかと無表情のまま考えていると、視界の先にこっちに向かって走ってくる少年の姿が見えた。

その少年の姿を見て、一つ、この仕事が穏便に終わる方法を思いついた。

さっそく、うまくいくか試してみるとしよう。


ゆるゆると男に近づいていき、あと少しですれ違うところまできたとき。



ドンッ



「うおっ?」



「ごめんよ!」



少年は男の背に衝突し、少年は走りながら男の背に謝罪を投げかけて走り去っていった。


ちなみに、俺と男がすれ違うとは言っても、彼の少年が通ることが可能なスペースはあったため、少年は少し無理やりにでもそこを通った。何故なら……



「……ん?…あ」



「ど、どうしたんだ?」



「……金盗られた」



「ん?……あぁ、なるほどな。あいつはここらのスリの常連だよ」



まぁ、つまりはそういうことだ。

彼は世間一般で言う〔可哀想な目〕にあったわけだ。同情はしないが。


男と浮浪者の会話を背に、ゆるりと道を歩く。

わざと大回りに道を歩いて人気の無い場所へ行き、身を陰に隠す。

その状態で、早速鞄を確認。


薄汚れた外套、ある。

表の財布、無し。(中身、28シス)

男の財布、獲得。(中身、未だ不明)


俺が何故男の財布を持っているか……実は意外と簡単で、少年と男が衝突したとき、俺と男の財布を入れ替えただけ。

少年がスリ目的でこっちに走ってきていることがわかっていたからこそ、成功した方法だ。

少しでもタイミングが違えば、(世間的にも)目をつけられるところだったろう。


ちなみに、これは純粋なスピードと技術で行った。



「(さて、いくら入ってるか……の確認は後でいいか)」



そう思い直し、さっさと金を財布からごっそり抜き取り、裏の財布に仕舞う。

男の財布は適当に捨て、俺は廃屋に戻った。


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