暴露
宿に帰ってきた。
先んずは、部屋に戻ろう。
廊下を走って部屋に向かうと、一秒もせずに扉が見えた。
急停止をしてその扉を一片の躊躇も無く開けると、そこにはリーダーの姿。
他の仲間は未だ居ない。
「リーダー、ちょっと訊いていい?」
「いきなり入ってくるなよ!せめてノックしろ!」
「今度ね。それより、訊いてもいい?」
「着替えてからな。そしてその服捨てろ」
「えー…」
「えー…じゃない。服はその人間がどういう人間かを見るのに一番見られるところなんだ。ちゃんとしなくてどうする」
「(御尤も…)わかった。」
ということで、ニ秒後。
「着替えた」
「早!見えなかったぞ!?」
「見たかったの?」
「いや、見たくも無いが……そういや、訊きたいことって何のことだ?」
「それは……えっと、何だったっけ」
「おい!!」
「ちょっと待っ……あぁ、そうだった。リーダー」
「何だ?」
「勇者ってさ、リーダーだけじゃないよね?」
「あぁ、そうだが……それがどうかしたのか?」
「(やっぱりか…)その勇者も、やっぱリーダーと同じなの?」
「同じって……何がだ?」
「色々。元居た所、目的、理由、立場、恩恵とかそんな事」
「……いや、違うところもあるな。というか、何でそんな事訊くんだ?」
「俺はつい最近までスラム育ちだったからね。そんな事は知らなかったんだよ。だから、よかったら教えてくれないかな?そういう世界事情」
少しだけ虚空を見つめながらそう言うと、リーダーは少しの沈黙の後、肯定した。
「そうだな……お前も知っての通り、俺はこの世界に召喚された、元の世界で言う所謂召喚勇者だ」
「うん。その口ぶりだと、やっぱり俺がリーダーの世界からの転生者って事は、もうあの時ばれてたか」
「あぁ。…正直、物凄く驚いたぞ。平静を装うのが大変だった」
「だろうね。ま、続けなよ」
「あぁ。正直に言うがな、俺は……巻き込まれたんだ」
「…巻き込まれた?」
「あぁ……。勇者ってのは本当は一人のはずだったんだがな、その勇者を召喚したときにたまたま近くに俺が居て……」
「それで巻き込まれたと」
「……あぁ。」
「………大変だったね」
「まったくだ……。俺は始めから自分が勇者じゃないってわかってたんだ。
俺の居た大学一の美貌を持つ同級生が勇者だってわかってたんだ。
なのに、なのにあいつらは俺まで勇者にしやがったんだ!
おかしいだろ!普通一目で俺じゃないってわかるだろ!!
しかも貰った装備がヒノキの棒とベニヤ板って……何処のゲームだよこんな装備!!
死ねって言ってるのかよ死ねって!!
あいつは豪華な装備貰えてるし何か直ぐにハーレム作ってるし……何処の中ニ病物語だよ!!
おかしいだろ!?旅のツレだってあいつは城で出来たのに俺は道中で見つけさせられるし……
そりゃあいつは魔力無尽蔵だよ!剣で城の騎士団長こてんぱんにのしたよ!!
無茶苦茶信頼集めてるよ!!バグを疑うぐらいのイケメンだよ!!ご都合主義満載だよ!!
それに比べて俺は言語チートも無くて必死に勉強する羽目になったし、身体能力チートも無くてリュークに散々扱かれるし、神から貰った恩恵がこの前お前に使ったあれだけだし…
…でもこんなのって、こんなのって……うわーーっ!」
捲くし立てるように一気にそう言うと、リーダーは号泣して俺に泣きついてきた。
せっかく買ったばかりの服がリーダーの涙で濡れてしまうが、俺はここで突き放すほど鬼ではない。
気分的には子供をあやす様にリーダーの背中を撫でる。そうすると少し気持ちも落ち着いたようで、嗚咽はだんだんと減っていき、やがて顔を上げた。その目は真っ赤になっていた。
「……悪かったな。こんなところ見せて」
「気にすることも無いよ。誰だって普通はそうなるだろうから。」
「……そんなもんか?」
「そんなもんだよ。俺だって、父親が居なかったら直ぐにリーダーみたいになってたと思うよ。だから、リーダーは凄い」
「……!…そうか。」
「うん。それに、前にも言ったけど、了承が必要でも相手のステータスが見れるって言うのはかなり凄いと思うよ。自分の力量が解るのは、それだけでも支えになる。あと、そのもう一人の勇者の事バグイケメンとか言ってたけど、リーダーも十分イケメンだと思うよ?」
とりあえず周囲の見解と自己評価を素直に並べると、なぜかリーダーは穴が開きそうな程俺を見つめてきた。そうして数秒して、やっと口を開いた。
「……ロイ」
「何?」
「俺、今一番お前を仲間に入れてよかったって思えた」
「誘ったのは魔術師だけどね。しかも強制」
「うぐ!それは言うなよ…」
「ま、そうだね。あ、最後に訊きたいことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「その勇者って、なんていうの?ついでにパーティ全員の名前も教えてくれると助かるんだけど」
「何で知りたいんだ?」
「面倒避け、あと確認」
「(確認?)勇者の名前は、草薙功輝だ。仲間の名前は知らない」
「そっか。リーダー」
「なんだ?」
「そいつ、多分この村に居る」
そう言うと、リーダーはまるで石の様に固まった。
数分して、ようやく口を開いた。
「……それ、本当か?」
「本当。それらしいのと防具屋で会った。」
そう言うと、リーダーは再び固まった。
「ただいまー。あれ?どうしたの?」
「ただいま…なのか?とりあえず帰ったぞ」
「ここら辺の魔物は弱すぎる…逆に気分が悪くなった。ロイ、気分転換に殺らせろ」
そうしているうちに、全員仲間が帰ってきた。
「後でね。ここで殺り合っても大迷惑だし。それより、リーダー、どうしたの?」
「……………出るぞ」
「え?」
「今すぐこの村から出るぞ!あいつらが来た!」
「え、本当に?」
「あいつ面倒だしな……」
「あいつらって……あれか。確かに面倒だな」
「?どういうこと?」
「ロイ、深く考えなくてもいい。それくらい単純な理由だ。功輝のパーティと遭遇して真っ先に何を思った?」
単純な理由……あぁ、なんだ。そういうことか。
「仲間の女が物凄くうっとおしい」
「そういうことだ。さっさと逃げるぞ。異論はあるか?」
「「「「無い」」」」
ということで、俺たちは珍しい満場一致でこの村を出て行った。
未だ午前中のことだった。
主人公はリーダーを褒めた。
リ-ダーの精神力が50回復した。