面倒
それから数分後。
忘れられて放置されて拗ねたリーダーを宥めた後、食堂に向かった。
そして、俺だけおばちゃんから三十分程説教をくらった。
どうやら二日程眠っていたらしい。娘さんからは何故か同情が感じられる目を向けられた。
朝食は肉や野菜がドロドロ(ゲル状を一歩踏み越えたくらい)になるまで煮込まれたスープだった。
胃が驚くからだという。味は良かった。(見目は悪かった。少なくとも客に出すべきものではない)
他の仲間は普通の食事だった。
そして。
「ロイ、お前防具屋に防具買い換えて来い」
食事を終えた後、リーダーからそんな命令が下された。
「何で?」
「お前……自分の今の装備を見ても同じ台詞が言えるか?」
そう言われ、自分の装備を改めて確認する。
今の装備は…貰ったナイフ、貰った鞄、貰った指輪、呪われていた腕輪……後はスラムに居た頃と変わらないな。
……うん。
「言える」
「お前本物の馬鹿だろ」
「どうとでも。それに、俺に金かけたって変わらないよ?(戦闘スタイル:所謂HIT&AWAY)」
「見た目と世間の目が変わるんだよ!いいからさっさと行け!!」
そうリーダーに言われ、俺は防具屋に向かうことになった。
しかし、世間の目…ね。確かにこの服装じゃ、浮浪者に間違われても文句は言えない。
拾い物の服は自分で何とか改造したものの(大概大き過ぎるから)、まともな道具が無くてうまくいかずに不恰好なものになった。
おまけに着古しているせいでぼろぼろ、そしてそのせいで開いた穴を塞ぐ事を繰り返し、酷い状態だ。そう言われるのも仕方ないのだろう。一般的な基準だと。
ちなみに、他の仲間は一足早く食事を終えて既に何処かに行ってしまっていた。
何時の間に。
そして、道を歩くこと数分。
防具屋に到着した……が。
店の前には、なにやら少々変わった集団が居た。
集団と言っても四人程度で、全員がこんな辺境に居るにしては少々豪奢な装備を着けており、構成員が男一人に女三人というだけなのだが。
まぁ、俺の偏見と言ってしまえばそれまでだし、どう見えるのかも見る者次第だ。
俺がそこまで気にすることでもないだろう。
そう自己完結し、その四人をスルーして防具屋の店長らしき人物に話しかけることにする。
四人の内の三人(全員女)がその防具屋の店長らしき人物になにやら言っていたが、そんなことは微塵も気にしない。
「おはよう、店長」
「え?あ、あぁ。おはよう。買っていくか?」
「うん」
「ちょっと、待ちなさいよ!私たちが先よ?」←構成員その一(仮称)
「そうですよ。順番は守ってください」←構成員そのニ(仮称)
↓構成員その三(仮称)
「そうですわ。それにしても、何でこんな汚らしい子供を店に入れるのです?理解に苦しみま「ここって防具屋であってるよね?ちょっと買い換えたいんだけど」
「…え?あ、あぁ……どんな装備が欲しいんだ?」
↓その三
「な「とりあえず、動きやすい装備がほしいんだけど、ある?」
「動きやすい装備か?そうなると少し制限されてくるな…」
↓その一
「あ「別に防御力とかは全然考慮しないから、とにかく目立たない装備が欲しい」
「ん?それなら結構選択肢が増えるな」
↓そのニ
「む「本当?」
「あぁ。そうだな……この中から選ぶといい」
「…………じゃ、これとこれとこれとこれとこれとこれ」
「おう。じゃ、〔目立たない帽子〕、〔丈夫な服〕、〔職人の手袋〕、〔動き易いズボン〕、〔軽業師の靴〕、〔地味な外套〕の六品でいいんだな?」
「うん」
「えーっと…全部で合計8000シスだ」
「安くない?」
「気のせいだ、気のせい。そう思うんだったら、運が良かったとでも思っとけ」
店長はそう言って笑う。そういえば、何時の間にかあの集団の気配が外に移動している。
煩いから店長の言葉以外は耳に入れなかったから気付かなかった。
もしかしたら、あの構成員の中の唯一の男に諭されたのかもしれない。何処かの中ニ病患者が書いた物語の如くハーレムを展開していて……さすがに無いか。
もしかして店長は俺がしたと思い込んだのだろうか。そして、値引き。…ありがたい。
「ん。ありがとう。はい、御代」
「おう!ここで着替えるか?」
「んー…いいや」
「そうか。また来てくれよ!」
「機会があれば、ね。バイバイ、店長」
俺はそう店長に声をかけ、宿に帰っていった。
「死ねぇぇええぇ!!」←その一
「神よ!私に力をお貸しください!!」←そのニ
「この糞餓鬼が!うざいのよ!!」←その三
ということは勿論出来ず、店を出た途端に三人から一斉に攻撃をされた。
殺気は始めから感知していたのでそのまま普通に避ける。
「危ない」
避ける前にそんな声が聞こえたが、俺は気にしなかった。
「「「きゃあぁああぁぁ!!コウキ!!!」」」
避けた後を見ると、そこには構成員その四の男が立っていた。
どうやらあの不意打ちの攻撃は男に当たったようだった。
それにしても、物凄く煩い悲鳴だ。少しだけ腹が立った。
見れば、別に目立った外傷も無い。どちらかといえば地面の方が大怪我を負っているくらいだ。
これくらいで何をわめいているのやら。
それにしてもこの反応……俺の勘が当たったか。
これは当たって欲しくなかった。果てし無くうっとおしい。
そんなことを考えながら構成員その一~三の声を聞かないようにしていると、男が声をかけてきた。
「助けは、必要なかったみたいだね」
「うん。でも、礼くらいは言おうかな。ありがとう」
「(棒読み…笑)気にしないでもいいよ」
「じゃ、そうする。バイバイ」
「あ、ちょっと待……」
「待たない」
そう言って、俺はさっさと宿に向かって駆ける。
背後からの声は気にしない。
俺は買った装備の入った袋を片手に、村の荒れた道をそこそこの(大人には到底追いつけない)速さで走った。
それにしても、あの声とコウキって名前、何処かで聞いた気が……気のせいか。
そう自己完結するうちに、宿が見えてきた。
とりあえず、リーダーに会おう。そして、問い詰めよう。
俺はとりあえず、次の行動をそう定めた。
リーダーが真に恐れているのは世間から虐待していると見られることです。
主人公、外れ。
実際におばちゃんから代表して五時間にわたる説教をくらってようやく気付きました。
遅い。