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盗人の日々  作者: 神崎錐
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そして。

俺は(自称)妖精の死骸を尻目に遠心力でナイフの血を振り払い、鞘にナイフを収める。

死骸は数秒すると何故か物凄い速さで朽ち始めた。


一瞬(自称)妖精の呪いを本気で疑ったが、服と体が完全に朽ちて無くなった後に手首があったと思しき所に腕輪が落ちているのを見て訂正した。

この腕輪の呪いだ、と。


実際に、この腕輪からぼんやりと光が見える。

おそらく呪いも魔法の種類に入っているのだろう。

着けたらどうなるのかは分からないが、死んだらあの(自称)妖精のように死体は跡形も無く朽ちていくのだろうか。……よく考えたらそこまで恐くも無いことに気が付く。

別に自分の死体がどうなろうが知ったことでもない。

仲間は気にするかもしれないが、よく考えるとそんなことを気にするのはリーダーくらいだ。

おそらく他の仲間はそのまま置いていくだろう。


そう考え直して、俺は死骸(故)に近付いて腕輪を手に取る。

腕輪は緑色の光を帯びており、腕輪自体は種類が解らない金属が主体の綺麗なものだった。


所々にはめてある緑色の石は一際大きな光を発しており、眩しくて見にくいなと思うと光は見えなくなった。どうやらこの力はON,OFFが可能のようだ。


さて。

腕輪を手に入れたわけだが・・・特に何もする気は無い。

鞄に腕輪を仕舞う。

少し興味はあるが、まだ腕輪を着けるつもりは無い。

ここで着けて本当に呪われた場合、自分がどうなるかはまったくわからない。

それならば、生存確率が高くなる僧侶の前で着けたほうがいい。

そう結論付け、死骸(故)から離れる。


近くに道が二つあった。

その内のさらに森の奥地へと入っていく道をあえて選択し、進んでいく。

ここまで来たら道が無いところまで行ってみたいしね。

結構深くまで来たし、もう直ぐ行き止まりになるだろう。


そう考えていると、案の定、行き止まりになった。

しかし、俺の思っていた行き止まりではなかった。

行き止まりには社のようなものがあった。

この世界でこんなものを見るのは初めてで、少し珍しく思い、俺は生前の方式で社に手を合わせて祈る。



「出せぇ……出せぇ……」



社の中からそんな声が聞こえてきたが、俺は聞こえなかったふりをしてその社までの道に何となく故意に土砂崩れを起こしてから帰っていった。


そして、数時間後。

行きよりも比較的のんびりと帰っていたため、少し時間がかかってしまった。

現時刻は正確にはわからないが、とりあえず夕方ということは解っている。

少し焦って急ぎ足で宿に帰っていくと、玄関にはおばちゃんの姿が見える。

何をしているのだろうか、と少し疑問を感じながらその横を通り過ぎようとすると。



「待ちな」



おばちゃんに肩を掴まれた。

何故?



「何?おばちゃん。俺に用?」



首だけを回して、おばちゃんの方を向いて尋ねてみる。

すると。



「用?じゃないよ!あんた、こんな遅くまで今まで何やってたんだい!!」



怒られた。

いや、本当に何で?しかも、こんな遅くって未だ夕方だよ?

まぁ。嘘をついても仕方がないし、素直に答えるが。



「散策」



「そういうことじゃないんだよ!あんた、人に心配かけといて謝りもしないのかい!」



・・・・・・心配?誰に?もしやおばちゃんに?

それ以外は特に思いつかないし、そもそも俺の仲間が俺を心配するほど情に厚いとは思えない。

リーダーは俺のいた世界の人間だし、もしかしたら心配してくれるかもしれないが、他の仲間はそんなに情に厚いとは思えない。むしろ薄情な気がする。

そのリーダーも、夕方くらいで心配するほど過保護な人間だとは思えない。

となると、本当におばちゃんに心配をかけていたことになるが……俺はおばちゃんの子供か?

まぁ、ここで下手に反抗したところで話が長引くだけだろうし。



「ごめん」



素直に謝ろう。



「それでいいんだよ。さ、入りな。夕飯はとっくにできてるよ」



そうすると案の定というか何というか、おばちゃんはあっさり許してくれた。

そこまであっさり許していいものか少し不思議に思ったが、俺としてはそちらのほうが都合がいいので黙っておくことにした。


数分後。

食堂に着いた。

しかし、ついてみたはいいものの、そこには誰もいなかった。

はて。おばちゃんのあの口ぶりで、誰かがいると思っていたのだが。



「おばちゃん。誰も居ないけど」



「子供は早く寝ないといけないから、あんただけ早くに食べさせてあげようと思ってね。どれ、ちょっと待ってなよ」



おばちゃんは俺の問いかけに答えた後、そういい残すと、厨房に入っていった。

しかし、おばちゃんは完全に俺を子ども扱いしているらしい。

それ自体は別にかまわないのだが、明らかに俺を客扱いしているように見えないのだ。

その点が、未だにあの時のおばちゃんの発言と矛盾している気がしてならない。

まぁ、俺は別にかまわないのだが。


そんなふうに考えを巡らせていると、何時の間にか食事が運ばれてきた。

夕飯のメニューは、クリームスパゲッティとオニオンスープ。

麺類はこの世界で初めて食べたが、普通においしかった。


その後、風呂を勧められて入ってみると、生前の北方の国のようなサウナ式の風呂だった。

初体験ではあったが、一応知ってはいたので普通に入ることができた。

風呂の着替えを忘れていたが、脱衣所に娘さんが朝方に俺から奪っていった服一式が洗われた状態で置いてあったため、それを着た。

服は繕われており、誰が繕ったのかに少し首を傾けたが。


そして、俺はおばちゃんに言われるままに部屋に帰った。

シーツは泥だらけではなく、ちゃんと敷き変えてあった。


特にすることもないため、ベッドに座って物品の確認をする。

先ずは鞄を肩からはずし、鞄から本当に大切なものだけを抜き取る。

精霊から貰ったナイフ、父の形見、……

そこで、今日拾った腕輪が出てきた。

正直、そのものの存在自体を忘れていたが、このまま仕舞いっぱなしでも忘れる気がしたので、ナイフや形見と一緒にベッドの上に並べた。

それから折れたナイフを取りだし、同じようにベッドに並べて鞄をベッドの脇の机に置いた。


折れたナイフの鞘から刀身と柄を取り出してみると、錆び付いているかと思われたナイフには特に何も変化がなかった。しいて言うならば、ナイフが少し赤みを帯びているということだろうか。

それ以外にもどこか違和感を感じたが、あまり深く考えても夜がふけていく一方なのでとりあえず追求は保留とし、折れたナイフの刀身と柄を鞘に仕舞い、鞄に仕舞った。


次に、精霊から貰ったナイフを手に取る。ぱっと見はシンプルだという感想だけだったが、よく見るとどこか神秘的に見えてくる。もしや、あの精霊の催眠術がかかっているのだろうか。

鞘から抜くと、ナイフはつい先程生き物を斬ったようには見えないほど綺麗だった。

刀身には一点の曇りもない。一体どういう構造なんだろうか。あの精霊に問い詰めてみたい。

そこまで考えてから、刀身を鞘に仕舞い、懐に入れた。


次に、父の形見の鍵を手に取る。この鍵に合う型は今のところ発見できず、俺はただの飾りだと思っている。よく見てもただの古ぼけた鍵にしか見えない。しかし、魔力感知をONにすると光が見えた。しかし何があるわけでもないため、保留。鞄に仕舞った。


最後に、拾い物の腕輪を手に取る。緑色の石が所々にはめられたその腕輪は、よく見ると神秘的に……まずい。未だ精霊の催眠術が効いていたようだ。頭を少し振って気を落ち着かせてから、再度腕輪を見る。あの奇妙な光景を作った原因だと思われるその腕輪は、再度見ても綺麗だと思った。

……嵌めてみるか。なに、どうせ呪いに掛かっても、仲間はリーダー以外は全員薄情だろうし、心配もない。会ってそこまで経ってもいないし、どうせ死体だって適当に捨てていくだろう。

そうたかをくくり、とりあえず鞄から紙束とペンを取り出して遺書を書く。

書き終えて遺書を机の上に折りたたんだ状態で置き、腕輪を嵌めることにする。

本当は僧侶の前の方がいいのだが、未だ帰ってこないので仕方がない。

そう考えて、俺は腕輪を嵌めた。


思えば俺は未だ催眠術にかかっていたのだろう。それか、あの腕輪の催眠術にかかっていたのか。

まぁ、腕輪を着けた時点でもう手遅れなわけだが。

そして、俺は気を失った。


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