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盗人の日々  作者: 神崎錐
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沸点

魔術師と別れ、数分後。

俺は今、魔物が出るという森の前にいる。

森の入り口の前には『立ち入り禁止』と書かれた看板が立ててあり、その先には薄暗い道が続いている。まぁ、そんなことは微塵も気にせずに侵入するつもりだが。


そんなことを心で呟きながら、気配を消して道の脇にそれて草むらに身を隠す。

ちなみに、この行動は一種の保守的なものだ。

俺は今から、今まで使っていた古い鞄(拾物)の中身を魔術師から貰った鞄に詰め直す。

しかし、その間は少し気がそれているため、襲われたときにどうしても反応が遅れる。

ということで、俺は身を隠したというわけだ。


魔術師から貰った鞄(蓋付きの巾着口)を右手に、古い鞄を肩に下げて左手に持ち、さぁ移そうと魔術師から貰った鞄を開ける。



「ねぇ、そこの君」



古い鞄の中身を貰い物の鞄に移していく。

そして、古い鞄の内容物をすべて移した。



「ねぇ君、話聞いてる?」



しかし、よく考えると森に危険が無いわけが無い。

ナイフは始めから持っていたほうがいいだろうと判断し、ナイフを取り出す。



「人の話は無視しちゃいけないんだよ?親から教えてもらわなかったの?」



最後に古い鞄を草むらに捨て、貰い物の鞄を肩に提げる。

そしてナイフを鞘から抜いて抜き身の状態にして、森に侵入する用意は整った。

後は草むらから侵入するだけだ。



「あー!ちょっと待ってよ!!」



そう心の中で次の行動を決めたとたんに、右斜め後ろからそんな声が聞こえた。

どうやら何時の間にか気配がもれていたようだ。

その上に身の危険を感じないとなって、気付くのが遅れたらしい。殺気らしきものは感じたが。

その少年のような声に反応して右斜め後ろを向くと、そこには俺の腰ほどのおっさんが……。



「……ゴブリン(おっさん)?」



「ち、違う!!俺はメ…妖精だ!!」



否定された。意外だ。結構自信があったのに。

おっさん顔でその体躯だし、肌の色も(人ではありえない方に)茶色っぽいし、顔も凶悪そうだし、人の服を着てはいるけどボロボロだし、何より声と顔の差がありすぎる。明らかに不自然だ。妖精には見えない。

そして、そこは間違いでも頷いてほしかった。

そうすれば、四肢を切り落としてから(この位じゃ死なないと判断した)森に侵入したのに。



「で、用件は?」



「え?よ、用件は……………」



「じゃ、バイバイ」



「ちょっと待ってよ!未だ何も言って無いだろ!?」



「沈黙した時点で、それは何も考えないで話しかけたことになるんだよ。じゃ」



「あ、ちょ、ちょっと待てよ!用件はある!あるんだ!!」



「何?」



「この森の魔物を全部倒してほしいんだ!!」



「無理だよ。それに、そういうのは勇者の仕事だ。俺みたいなガキに頼むことじゃない」



「そんな……」



「それに、本当は別の用件があって魔物を倒してほしかったんじゃないの?本当の目的も知らずにお願いをきいてあげるほど、俺は甘くないよ」



そう言い残し、俺は再度気配を絶ってから森に侵入した。




「くそ…くそ!呪ってやる!!呪ってやる!!!」



という物凄く大きな呪詛を背後に聞きながら。


それから数十分後。

どうやらあの(自称)妖精の呪いに掛かったらしく、ここ数十分でかなり災難が続いている。

どうやらあの(自称)妖精は運が底辺まで悪くなる呪いを俺に贈呈していったようだ。

今のところは素早さと持久力でカバーできているが、さすがに少しばかりきつくなってきた。

ちなみに、一歩歩けばとまでは言わないが、今のところは五歩歩けば変な動物、十歩歩けば変な植物、十五歩歩けば落とし穴(棘付き)、二十歩歩けば槍の雨(先端に猛毒を確認)といったところだ。

まぁ、普通に殲滅と回避をしているが。


今もなお感じる右斜め後ろ方向の気配には気付いているが、あちらの目的もなんとなく分かるけどはっきりしないのであえてついてこれるスピードで歩いている。一回全力で走っても振り切れなかったというのもあるが。何故あの(自称)妖精は俺についてこれたのだろう。不思議だ。

そんなことを考えながらナイフに付着した血を遠心力で振り払っていると、不意に悲鳴が聞こえた。


あれは……娘さんの悲鳴だろうか。その近くに、少年Aの気配もする。

少年たちの気配から少し遠くにあるあの気配は……つい最近殺した犬モドキの別種だろうか。

どうやらあいつの繁殖域は思ったよりも広いらしい。


しかし、あれはいくら弱いとはいえ俺と同年代なだけの子供が殺すのは少々骨が折れる。

ということで、俺はタイミングを見計らい、そちらに向かって全力で駆ける。

そしてあっという間にその場に来て、彼らからは見えない位置から犬モドキの心臓を切り裂く。


そしてそのまま、俺は風のようにその場から去り、近場の草むらに隠れた。



「やった!俺、魔物を倒した!」



「もう、あんたは!!もしかしたら死んでたのかも知れないのよ!!」



どうやら俺の姿は見えなかったようだ。それにしても、一応タイミングはあっていたらしい。

自分の勘の良さに少し感嘆、と少し自惚れをほざく。

気配を消しながら声が遠のいていくのを待ち、やがて消えてしまったころに、俺はやっと草むらから出た。そして、右斜め後ろ方向に顔も向けずに声をかけた。

いい加減にお粗末なストーキングに堪忍袋の緒が切れたといったところか。

すでにその目的が分かっていたためか、その声は自分自身でも酷く冷えていると思った。



「俺は君の頼みを断った。


けど、君はその理由を理解しようともせず、挙句に呪詛を吐き捨てた。


たった少しの労力も拒み、何もかもを自分の都合の良いようにしようとした。


その少しの労力のほうが、何倍も楽だったことを知っているはずなのに。


酷いことだと思わない?


腹立つよね。


ずぅーっとまわりくどくって他人任せな(のろい)


無駄な労力ばっかでさ。


それとも怖かったの?


君の安全を脅かそうとする輩が。


そうだよね。


君は人の分類表で言えば魔物(・・)だ。


俺は知らなかったけどね。そんなこと。


さっき思いつくまでわからなかった。


だけどやろうと思えばあっさり騙せたんだよ。


君って馬鹿だね?


未だ幼いから安心とでも思ったの?


俺はスラム育ちだから知識が乏しかっただけだよ。ただそれだけ。


思いつくくらいの能はあるんだよ。


それとも、あんな嘘で騙せると思ったの?


馬鹿だね。あんな嘘、五歳児だって信じないよ?


彼らは餌にしたくて連れて来たの?


幻覚を見せて?


でも誤算だね。


俺が居たから逃げちゃった。


幻覚ももう無理だよ。


君はここから動けないから。


君は俺が居なければ餌にありつけたっていうのにね。


君の餌なんて知ったことでもないけどさ。


そもそもの間違いは君が俺に幻覚を見せたころから始まってるんだよ。


つまりは君が声をかけるところから。


そもそも殺すじゃなくて倒すっていってるのも変だったしさ。


一人じゃなかったら未だ話は違ってきていたのかもね。


ま、意味なんて無いけどさ。


嗚呼もう腹立つな。


直ぐに殺せばよかったよ。


人っぽくても、殺気が出てた時点で殺せばよかった。


なんでこんな(のろい)にひっかかったんだろ。


今凄く気分が悪い。


だからさ」



思ったことを端から口にしていく。たとえそれが支離滅裂であったとしても。

そして最後に殺気を駄々漏れにした状態でゆっくりと振り返り、その小さな体を見据える。

そして。



「バイバイ」



俺は初めて、人型の魔物を狩った。


それは面白いとはお世辞にも言えない、とても気分が悪いものだった。

まるで初めて人を殺したときのようだった。

今日のこの感覚を、ちゃんと覚えておこう。忘れないように。

昔、人を殺したときのように。覚えておこう。

忘れたらきっと、その時。

俺は、自身であり、自分ではない、違う何かになってしまうから。



「ごめんね。でも…



…嘘をついて安全に俺を食べようとしてたんだから、正当防衛だよ?」



その言葉に返すものが居ないと分かってはいるが、なんとなく口に出す。

そして真っ二つに切断されたモノは、やはり虚空を見つめるだけだった。


ちなみに、彼が言いかけた言葉は「メイジゴブリン」。

群れからは追い出されてしまったようです。


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