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盗人の日々  作者: 神崎錐
13/25

準備

そして、数分後。



「おい、何だよお前。余所者か?」



「さっさと帰れよ、余所者」



俺は今、村の小さな不良に囲まれている。

ちなみに俺は何もしていない。暇そうにぶらぶらとそこら辺を散策していただけだ。



「無理」



「はぁ?何だよ、余所者の癖に生意気……っだ!!」



無限ループになりそうな台詞が少年Aの口から発されようとしたとき、彼の頭上から突然拳骨が降ってきた。まぁ、俺は気付いていたが。



「あんたたち、何してるの!!」



宿屋の娘さんの少年たちへの第一声が、それだった。



「やべ、逃げろ!」



その言葉を皮切りに、少年たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。



「あ、ちょっと待ちなさい!!」



そして、娘さんは他の少年たちに目もくれず、一目散に少年Aに向かって駆けていった。



「……行くか」



ということで、俺は特に問題も無く散策を続けることにした。

邪魔も消えたしね。


ということで色々なところを散策してみたが、特にこれといったところは無かった。

しいて言うならば、隠し部屋を一つ見つけたことと魔物が出るという森ぐらいだが……経済的にも余裕があるのに()ることもないかと思って隠し部屋には入らず、森も未だ行っていない。

まぁ、行く予定ではあるが・・・・・・何も言わずに行くのもどうかと思うし、置手紙を書いてから行くつもりだ。しかし、生憎と俺は紙と書くものを持ち合わせていない。

ということで、俺は雑貨屋に買いに行くことにした。


数分後。

人から訊いた雑貨屋の場所に行ってみると、何故かちょっとした人だかりができていた。

そこら辺の人を捕まえて雑貨屋の場所を聞くと、その人は人だかりの中心を指差した。

他の人に同じ事を聞いても、みんな人だかりを指差す。

仕方が無いので人を押しのけて人だかりの中心まで行ってみた。

そこには。



「これ、いくら?」



「いや、だから500シス…」



「い く ら?」ニコッ



「(ひいぃぃー!!)勘弁してください・・・これ以上は無理ですよ」



値切りをする魔術師の姿があった。

……まてまてまて。



「……何してるの、魔術師」



そう声をかけると、魔術師は不気味な笑顔のままこちらを振り返った。



「あれ、ロイ?見てわからない?値切りだよ」



「それはわかるけど・・・・・・店主さん半泣きだよ?」



「大丈夫大丈夫。これくらいは普通に商売してれば取り返せるって……ね?」



ね?といったところで不気味な笑顔のまま店主さんのほうを振り返る。

はっきり言うと、普通の人にはかなりの恐怖を与えるのではないだろうか。

それほど、不気味な笑みなのだ。

その笑顔を見て黄色い声をあげる外野な女の人たちの気が知れない。

その笑顔でわかる魔術師の良さなんて、顔ぐらいしか思いつかないのに。

蛇足だが、俺の仲間は一般的な基準でいくと全員顔が良いらしい。俺にはよく分からないが。

ちなみに俺の場合はそもそも人前で帽子を脱いだことが無く、人に評価された例が無いので分かっていない。

まあ、そんな意味の無い情報は置いておいて。



「………………;;」ガクガクブルブル



「……………ね?」ニッコリ



この状況をどうしようか。

やはりここは、店主さんの救済に入るべきなのだろうか……しかし、俺はこの笑みを向けられて耐えられる気がしない。ましてや、魔術師は仲間だ。関係が険悪なものになって戦闘に支障が出るのも困る。

ということで……。

俺は雑貨屋の数多くの品物の中から、自分が必要としているものを探し出す。

数秒後、紙が紐で幾つも纏められたメモ帳と予備のインクとセットになったペンを選んで、店主さんに尋ねた。



「店主さん」



「お、おう。なんだい?」



「これ、いくら?」



「ええと、これは……700シスだな」ダラダラ←冷や汗



「700シスね……はい、これでいい?」



「え?あ、あぁ。ぴったしだ」



「そっか。よかった。」



当初の目的どおり、必要な物品を買っていくことにした。

ここで時間を使っても無駄な気がするし。

俺の前世で住んでいた国では、時は金なりという言葉があった。

今回はその言葉に従おう。

魔術師の場合、どれだけ説得しても多分無駄だろうし。

そんなことを考えながらいったん宿屋に帰ろうとすると。



「あ、ロイ。ちょっと待って」



魔術師に呼び止められた。

……何故?



「何?魔術師」



「せっかくだし、さっき値切って買った鞄あげるよ。ボロボロでしょ?」



「(……あれだけじゃなかったか)ありがとう」



言われたとおり、たしかに鞄はボロボロだ。

拒否もしにくいので、普通に受け取ることにした。



「その鞄の説明聞いたけど、結構面白そうだから買ってみたんだ」



「・・・へぇ。どんな鞄?」



「そこら辺は秘密だよ。使って気付いていって」



「わかった」



無茶な要求を渋々(傍目からはあっさり)呑むと、魔術師は値切りに戻った。

……もういい加減にやめてあげたほうがいい気がしないでもない。

しかしながら、俺に魔術師を止められるとは思えない。

だから、もう見てみぬふりを決め込む。

そう心に決めて、早速買った紙にペンを走らせる。

内容は勿論、あの森に行くという旨。

書きにくかったが何とか数秒で書き終え、紐から一枚破りとる。

その紙を半分に折りたたみ、魔術師に声をかける。



「魔術師」



「ん?何?ロイ」



振り向きもしない。



「これ、後でいいから読んどいてね」



「んー。わかった」



そう言って店主と向かい合ったまま紙をポケットに入れた。

もしかしたら忘れ去られるかもしれないな・・・と思いながら、俺はその場から立ち去った。


その後、店主さんの悲鳴が聞こえたやら聞こえなかったやら……そこら辺は知らない。

しかしまぁ、店主さんが損害を負ったというのは確かだろう。

それがどれくらいなのかは知らないが……それこそ、そんなことは俺には関係無い。


………疲れた。


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