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盗人の日々  作者: 神崎錐
12/25

外出

それから。


俺が殺されかけたり、リーダーが殺されかけたり(勇者だから)、全員が殺されかけたり、返り討ちにしたり、変な動物が襲ってきたり、それを一掃したりと(勇者一同としては)特に問題も無く旅は続いた。

一部の仲間(リーダーとか剣士の前衛職)が重傷を負ったが、僧侶が特殊技能を使って治していた。

その光景は、はっきり言うとかなりグロテスクだった。

俺と同年の子供だったら、絶対に泣くと確信できる。

光の補正も何もなく、ただただ不純物を押しのけて傷が塞がっていったり、切り落とされた指やら腕やら足やらが生えてくるその光景。

少し顔を歪めてしまった。ただ、されている側はその間治されている部分の触感を消されているらしく、それが唯一の救いだろうか。


そして、ついに夕方も終わりが訪れようとしたとき。

ぽつぽつと明かりが見えてきた。

村だ、ということで皆まともなご飯が食べたかったらしく、全員が全員、全力で駆けていった。

俺の場合は全力で駆けると確実においていってしまうため、普通に保護者(この場合はリ-ダー)の後をついていった。

そして、体感で三十分後。

ようやく村にたどり着いた。

そのころは全員息を切らしていた。勿論俺以外。

そしてその村唯一の宿に泊まり、全員が倒れるように眠った。

ちなみに、そのときも殺されかけた。

心が休まる日はないと思えというのはそのままの意味なのかと少し感心した。


そして、朝。



ちよちよちよ……



「………………」



無言で身を起こす。

この世界に来て、ベッドで寝ることができたのは片手で数えるほどしかない。

だからかもしれないが、少し眠りにくかった。

まぁ、疲労のせいか、直に眠りについたが。


喉を軽く叩き、声を整えてからベッドから出る。

他のみんなは未だ起きていないようだった。

別に起こす必要も今は特にない。

それに、疲れているはずだし、ゆっくり休ませたほうがいいだろう。

そう思い、仲間に声をかけることなく部屋から出る。

どうやら帽子を被ったまま寝ていたようだが、特に問題も無かった。



ガシッ



「ちょっと待ちなさい」



いきなり肩を掴まれた。



「何?俺に用?」



顔だけをそちらに向け、問いかける。

その人は若い女性だった。

はて。昨日は見かけなかったし、この宿の娘さんだろうか。



「何?じゃないわよ!そんな泥だらけの格好で歩かれたら、どれだけ掃除してもきりが無いじゃない!裏に井戸があるから、水を汲んでさっさと体を洗ってきなさい!!」



怒られてしまった。一応客なのに。

まぁ、たしかに綺麗にした端から汚されてしまっては怒るのは無理も無いが。

しかし、それを言うなら泥だらけにしたあのベッドはどうなるのだろうか。少し疑問だ。



「でも、俺着替え持ってないよ」



「家に帰って持ってくればいいじゃない!そんなことも分からないの?」



「でも、俺家無いよ」



「家が無いなら、布切れを持ってきて……え?」



おそらく作ればいいと続けようとした言葉が途切れ、驚いたように俺を見る。

おそらく、服が無いという回答が来ると思い、そんな早とちりをおかしたのだろう。

でなければ、そんな頓珍漢な答えが帰ってくるはずも無い。



「貴方……家が無いの?」



数秒程沈黙し、彼女はようやくそう返した。



「うん。無いよ」



「そう……悪いこと言っちゃったわね」



彼女は俺にそう謝罪を述べた。

礼儀正しい人だ。こんな薄汚い子供に謝るなんて。←自覚してる



「別にいいよ。今は仲間がいるから」



「そう……ならいいわ。それより……ちょっと待ってなさい」



そういい残すと、彼女はどこかに言ってしまった。

そして数分後。



「この服貸してあげるから、さっさと体を洗ってきなさい!!」



というありがたい言葉と共に道案内をしてもらって、宿の裏まで来た。



「体を洗ったらこの布で体を拭きなさい。ちゃんと綺麗になってなかったら、井戸に放り投げてやるからちゃんと洗いなさいよ!!」という脅し言葉を残していった彼女に、毎日飲む井戸水を汚していいのだろうかと疑問を感じたが、そこは置いといて。


俺は水を汲んで人目に付かないところに来て周囲に気を配りつつ、頭と体を念入りに洗った。

服は言われたとおりに着替えた。その中には何故か靴もあった。

久しぶりに綺麗な水で体を洗ったので、少しでは無くかなりすっきりした。

ただ、着替えの中には帽子は無かったため、仕方なく水を汲みなおして帽子を念入りに洗って被った。

洗った後の水の汚れは酷かった。帽子の汚れ具合が分かる。

そうこうしているうちに二時間が過ぎたころに、俺は薄汚れた服を持って宿に戻っていった。



「ちゃんと洗ってきたのね……ならよしとするわ」



という娘さんの了解を無事に得て、俺は食事をとりに食堂へ向かう。


それにしても、俺が着ていた服を娘さんが何も言わずに持っていってしまったが……あれはどうなるのだろう。少し気になる。

まぁ、もう気にしても仕方が無いが。



「お、起きたかい」



「うん。おはよう、おばちゃん」



「おはよう。朝食はパンと目玉焼きと野菜スープになるけど、いいかい?」



「うん。お願い」



「ちょっと待っといておくれよ」



そういい残し、おばちゃんは厨房の奥に入っていった。

ちなみにこの宿ははじめに飯代を払っておく方式だ。



「さぁ、召し上がれ」



少したつと、俺の前に料理が出された。

この世界に来て、初めての一般的な料理だ。少し嬉しい。

パンを、まずはそのまま食べる。

あの乾燥パンよりも、たしかにおいしかった。

次はスープをスプーンですくって飲んでみる。

あの干し肉と乾燥野菜のスープより、たしかにおいしかった。

浸して食べてもおいしそうだ、と色々試しながら食べていると、何時の間にか完食していた。



「おいしかったかい?」



「うん。おいしかった。ご馳走様」



「いいんだよ、そんなにかしこまらなくても。……それにしても、昨日はあんなに汚れてたのに、今日は小奇麗になってるね。服もなんか見たことあるような……」



「あの格好で歩いてたら、女の人に怒られて。この服押し付けて、井戸水で体を洗って来いって言われたから、仕方なく」



「まぁ!あの子ッたら……ごめんなさいね。その子、多分家の娘だわ。」



「(あ、やっぱり)別にいいよ。綺麗になったし」



「いいえ。お客さんに迷惑をかけるだなんて、宿屋失格よ。ちゃんと叱ってやるから、気にしないでね」



「(たとえ子供とはいえ、客に了承無しでタメ口きいてる時点で駄目だと思う)そっか……ありがとう」



「いいのよ」



「…………じゃ、俺はちょっと村を歩いてくる」



「あら、そう。知らない人にはついて行っちゃいけないよ」



「(俺はおばちゃんの子供か?)わかった。行ってくる」



行ってらっしゃい、というおばちゃんの声を背後に、俺は宿から外に繰り出した。

……少し、疲れた。


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