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盗人の日々  作者: 神崎錐
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力量

「………………」



無言で身を起こす。

周囲を見渡すと、焚き火の残骸周辺に四人の男の姿がある。

どうやら、今度は現実のようだ。

喉を軽く二度叩いて声を整え、布団代わりに使用していた外套を鞄に仕舞う。

ついでに周辺を見渡してみると、そこには地獄絵図があった。

おそらく追剥であろう多くの人々が魔法罠(魔術師作)にひっかかって半死半生の状態だった。

もうじき死ぬ、という人もいそうだ。

もしかして、死神が俺の夢に来たのも……いや、それは無いか。

あの死神はあの風景で面白い反応を見ることができると期待して同僚から強奪して俺の夢の風景にした。

もしかするとこの人々にも使うかもしれないが、そもそもあの死神は長期休暇だから来たといっていた。

そこら辺の線は薄いだろう。

まぁ、彼らが今頃別の死神を見ていないとはいえないわけだが。

むしろそちらの可能性のほうが高い。


そんなことを考えていると、ちょっとした空腹感に気付く。

薄々感じていたことだが、自分はかなり図太いのかもしれない。

あんな所(スラム)で生活しておいてかなり今更ではあるが。


しかしながら、周辺に動物は見当たらない。

いたら即行で狩るつもりだったのに。

おまけに魔法罠が未だ残っているという可能性も捨てきれない。

だから焚き火周辺から死屍累々の周辺まで行くこともできない。

というより、罠を仕掛けるならそこら辺のことまで考えて仕掛けてほしい。

おかげでまったく動けない。



「…………ん?誰だ?」



そんなことを考えていると、僧侶が目を覚ました。



「おはよう、僧侶」



「ロイか…お前早起きだな」



「ただの習慣。それより、あれどうすればいいと思う?俺としては放置したいんだけど」



「ん?………これは、…酷いな」



「でしょ?見た瞬間に気分悪くなったよ」



「同感だな…まぁ、放置でいいだろ」



「そっか。じゃ、もう一つ質問」



「なんだ?」



「飯、どうするの?」



「面倒だし、非常食で済ませるか。単体で激不味でも、調理しだいで何とかなるだろ」



「了解。じゃ、ついでにもう一つ」



「なんだ?」



「どうやってここから出るの?」



「どうやってって・・・・・・ディルを起こして魔法罠を解除させるしかないだろ」



「……そう」



やはりそれしかないのか。

しかし……これから先、魔術師と同じように魔法罠を仕掛ける相手が出てこないとも限らない。

そうなるとかなり厄介だ。

せめて位置を特定できれば避けられなくも無いのだろうが……


そんなことを考えながら死屍累々をにらみつけていると、ぼんやりとした何かが見えた。


少し驚いて目をこすってもう一度見るが、やはりそこら辺が薄ぼんやりと光って見える。

いや、それだけじゃない。ここらいったいがぐるりと、色は様々だが薄ぼんやりと光っている。

これはどうしたことだろうか。



「僧侶」



「なんだ?今料理中だ。つまらない用なら後にしてくれ」



何時の間に始めていたのだろうか。

まぁ、仕事が早いのは悪いことではないのだが。



「そこら辺、なんか見えない?」



光っている周辺を適当に指差して尋ねる。

これで反応無しなら、俺の目がおかしいのだろう。



「ん?……死にかけてる奴らはいるが、それ以外になんかいるか?」



どうやら俺の目がおかしいらしい。



「いや、ただの見間違いっぽい。もう気にしないでいいよ」



「そうか……ならいい。よし、そいつらたたき起こせ。飯ができたぞ」



「わかった」



指示を出され、とりあえず三人の体を無言で揺する。



「……………」←起こしたら殺す、と無言で語っている。



「ん……何で俺は何時も………ぐぅ」



「………ククク……」←夢の中で戦っているらしい。



「……………」



起きない。

仕方が無いので、ナイフを取り出して殺気を出してみる。



「…………!!」



「…………!!」



「…………!!」



こうすると、全員飛び起きた。

なるほど。これが一番効果的な起こし方か。

揺すって起きないときは、これからこうしよう。

そう考えながらナイフを仕舞い、三人に声をかける。



「おはよう、リーダー、魔術師、剣士」



「…あ、うん。おはよう」



「…あ、あぁ、お、おはよう」



「おはよう。……随分と過激な起こし方だな」



「そう?殺気出しただけだよ?それより、早く飯食おうよ。冷めたら余計不味くなる」



この言葉で、朝食が始まった。

メニューは、干し肉と乾燥野菜のスープと、乾燥パン。

そこまで言うほど不味いものでもなかった。

昔、父親が作った水溜りの泥水を主とした、腐りかけ生肉と雑草(後に毒草と発覚)のスープとゴミ箱から拾ったパンよりは数倍マシだと思う。

そんなことを考えながら食べていると、何時の間にか完食していた。

四人よりも早く食べ終わったようで、一足早く自分の食器を片付けて四人の食事が終わるのを待った。

ぼぅ、と待っていると、何時の間にか完食したらしいリーダーに話しかけられた。



「おい、ロイ」



「何?リーダー。俺はプライベートな質問は受け付けないよ?」



「違う!!まぁ、ある意味そういうことになるのかもしれないけど……」



「なら却下」



「だから違うって言ってるだろ!?」



「ユート、煩い」



「煩いぞ、静かにしろ」



「黙れ」



絶叫したリーダーはそのとたんに三人からそれぞれお小言を貰い、少し項垂れた。

これには少し同情した。



「それで……結局何なの?」



「………あぁ……俺の勇者になってついた能力で、お前の今のスペ…力量を教えてやろうとしたんだよ」



「……?勇者になってついた能力で、そんなことができるの?」



「まぁな」



へぇ。結構便利な力だ。



「相手の了承無しには見れないけどね」



「おま!」



「それでも、使える能力だよ。凄いね」



「あ、あぁ……ありがとな」



思ったことを素直に述べると、リーダーにお礼を言われた。

別に口に出しただけなのに。

いや、リーダーは褒められるより貶されることのほうが多かったのかもしれない。

現に。



「能力だけね」



「能力だけとかいうなよ!他にも役立ってるだろ!!」



「肩書きがね」



「言うなぁぁあぁぁ!!!」



「煩いぞ、静かにしろ」



「黙れ」



「ううぅぅ……;;」



こうやって弄られている。



「………で、その力ってどうするの?」



「うぅぅ……それだけどな、『見せてくれるか?』って言葉と同じ種類の質問で了解が得られればそいつの力量とかが解るんだ。ついでに簡単な個人情報とかも」



なるほど・・・・・・しかし、そこだけだと目的も意図もはっきりしないし、下手すればかなり変な方向に間違われるな。そこそこ仲も良くないとできそうも無い。



「俺の力量以外の個人情報を、一切合切、絶対に、誰にも話さないならその質問に了承するよ」



「わかった……見せてくれるか?」



「いいよ」



そう答えると、リーダーは黙ってこっちを見始めた。

時折驚いたような顔を浮かべながらこちらを見始めて数分後、もういいという言葉を最後に俺から視線を逸らした。



「なんていうか……お前、壮絶な人生を送ってんな」



「まぁね。約束どおり、俺の力量以外の個人情報は言わないでね。言ったら殺すから」



「怖ぇなおい!」



冗談ではなく本気だということを感じ取ったのか、リーダーが俺から身を引く。

まぁ、殺気を出しながら抜き身のナイフを出しているのが大きいのだろうが。

ちなみに、力量のほうを明かしてもいい理由は、単純に戦闘のためだ。

仲間以外に明かすつもりは無い。明かしたら、場合によっては制裁を下すつもりだ。



「まぁ、それは置いといて……こいつの力はどんな感じだった?」



「置いといてって……もういいか。こいつは素早さがずば抜けていて持久力と体力もかなりあるが、他の身体能力はそこまででもない。力もそこまで強くないし、防御もそこまで考慮していない。技術面では器用さに目を見張るものがあるが、エムp・・・魔力もあまり高くない。一応、読み書きはできるみたいだ」



「そこら辺は見てればわかるよ。特殊技能とかは?」



いや、魔力が高いかどうかは普通はわからないと思うけど。



「特殊技能はまぁまぁあったな。たしか、スリ:一流、鍵開け:一流、気配断ち:一流、毒耐性:一流、麻痺耐性:一流、変装:一流、ナイフ:一流、投擲:一流、剣:二流、気配察知:二流、魔力感知:三流だったな」



「スリが一番最初にくるって……さすが盗人ってとこか?」



「俺としては毒と麻痺に耐性があるあたりが疑問だな。しかも一流」



「泥み……雨水とか飲んでたからだと思うよ」



「まった。今泥水って言おうとして……」



「剣が二流なのは何でだ?ずっとナイフを使っていたわけじゃないのか?」



「父親にちょっと鍛えてもらったときに、剣も習ったんだよ。ちなみに、父親はもう死んでるから」



「そうか……残念だ」



「おいちょま!何で無視す…」



「何で魔力感知があるの?俺は持ってるけど、比較的に珍しい技能なのに」



「さぁ。死屍累々の辺りを見てたら、何時の間にか」



「おい、だから……」



「なるほどね…生まれつきじゃなくても技能が発現することも間々あるらしいし、一緒に磨いていこう」



「了解」



「気配察知が二流か……もうちょっと磨いたほうがいいと思うぞ、そこは」←僧侶



「自覚はしてる。でも自分一人だとどうにもならない」



「なら、俺が常にお前の命を狙うから、お前はそれを全力で避けろ」←剣士が会話に乱入



「待て!仲間同士で殺りあってどうする!!」



「わかった。じゃ、一流になるまではよろしく」



「え」



「まかせろ。四六時中いつでも命を狙ってやる。一流になるまで心が休まる日は無いと思え」



「頼んだよ」



「いいのか?それでいいのか!?」



「いいんじゃない?本人はああ言ってるし」



「俺もいいと思うぞ。…お、そうだ。ついでに俺らも手伝ってやろうか?」



「いいの?」



「いいよ。そっちのほうが効率いいと思うし。ユートもやる?」



「(もうやだこいつら……)いや、俺はいい」



「そっか。じゃ、これから三人には俺の修行に付き合ってもらうわけだね。改めて、よろしく頼むよ」



「うん」



「わかった」



「本気で殺ってやる」



「今変な言葉が聞こえなかったか!?」



「大丈夫大丈夫。俺もちゃんと聞こえたから。幻聴じゃないよ」



「何で平然としてるんだよお前は!!」



「本当に殺そうとしてるかどうかくらいわかるよ。だから平気」



「………………」



「どうしたの?」



「……いや、気にするな。頑張れよ、ロイ」



リーダーは疲れたというように額に置いた手をどけ、俺から顔を逸らしたままエールを送る。

色々な俺の事実も発覚し、少し精神的にも疲労したのかもしれない。

まぁ、そんなリーダーの気持ちがわからないでもないので、あまり気にしない。



「ありがとう、リーダー」



素直に感謝を述べるだけで、終わっておこう。


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