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盗人の日々  作者: 神崎錐
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死神

「……ん」



体を起こす。

頭の芯が少しぼやけている様で、視界もどことなくはっきりとしない。

ふらつく体でその場に立ち上がり、背伸びをしたところでようやくはっきりしてきた。



「……ここは?」



そこは奇妙な空間だった。

西洋の神殿をご存知だろうか?

有名なものだとギリシャのパルテノン神殿などがそれにあたる。

まさにそんな感じの建造物が建っていた。

ちなみに色彩は白ではなく、上が茶色で下が黒っぽい赤だ。

普通は何を連想するのかはわからないが、俺は真っ先に血を被った何かを連想した。

なんとも趣味が悪い一品である。

その建造物の少し前には水平線ができるほどの大きな湖があった。

俺はその湖と建造物の間にある原っぱに寝転がっていたようだ。



「また夢か……」



確信せざるをえない。

何せ、俺はこんなところで寝た覚えもないし、人生初の仲間と焚き火を囲ったはずなのだ。

そもそも、こんな趣味の悪い神殿は覚えていないはずも無い。

ちなみに、曇った空は紫色だった。ここら辺もかなり趣味が悪い。

湖と草の色が普通なのが救いだろうか。


しかし……最近よく夢を見る。

白い所と扉の夢、生前の自身の部屋の夢、生と死の境の川の夢(正確にはこれは臨死体験)。

そして、今回の悪趣味な神殿と大きな湖の夢。

(生前を除く)昔はそこまで夢を見ることは無かったはずなのに、ここ最近で急増している。

まぁ、だからといってどうこうなるわけでもないが。


神殿に行く気はもちろん毛頭も無いため、湖に向かって歩みを進める。

水面を覗くと、湖は俺の顔と紫の曇り空を映すばかりで水底を見ることはできない。

揺らぐことの無いその水面は、まるで鏡のようだ。



「何をしているんですか?」



「湖を覗き込んでる。……いきなり出てこないでよ、心臓に悪い」



「すみません。しかし、それにしては反応が鈍いですね?」



「そう見えるだけだよ」



そう言って、声のする方向に体を向ける。

そこには、先ほど挙げた生と死の境の川の夢に出てきた船頭がいた。



「俺に何の用?」



「特には」



「……仕事はどうしたの?」



「長期休暇が入ったので」



「何でここに?」



「貴方といると楽しそうなので」



「……………」



「……………」



沈黙が訪れる。

それから体感時間で三十分後。

船頭が口を開いた。



「ここはどう思いますか?」



「物凄く趣味悪い」



「あぁ、やはり貴方もそう思いますか」



「うん。この湖も、なんか変だ。水面が少しも揺れやしないし、水底も見えない」



まるで巨大な鏡だ、と言うと船頭は少し苦笑した。



「この夢の風景、実は俺の同僚から強だ…借りたものなんですが、俺も見た瞬間にそう思いました」



「まぁ、大概の奴はそう思うよね」



船頭が先ほど言いかけた単語をスルーして受け答えをする。

そう思うなら使うなよ。

と、いうよりも……



「ねぇ、船頭。」



「なんですか?できる限りならお答えしますよ。あと、私のことは船頭ではなく貴方の以前言っていた死神でお願いします」



「わかった。…夢の風景って、買えるの?」



「買えますよ。仕事をこなしてポイントを貯めていけば」



「ポイントって……」



「ちなみに、正確に言えば夢の風景じゃなくて私達死神のための休憩スペースのようなものですね。まぁ、私のような人間担当の死神は時折人間の夢に出るときの風景に使用しますが」



「変な使い方。」



「そうですか?夢に出たときの人間の反応って、結構面白いですよ?頑張れば幾つも部屋を買うこともできますから、使い分けることもできますし」



「ここみたいに?」



「ええ。……あいつ、これを使えば面白い反応が見れること請け合いだとか言っといて……後で絞める」



返答の後でボソリと呟かれた言葉は無視して、さっさと再確認をさせてもらうことにする。



「で、この空間は君が同僚から貸してもらったけど、物凄く趣味が悪かったと」



「そういうことですね……チッ」



腹黒さが駄々漏れだよ、死神。

ちょっとその同僚に同情してき……前言撤回。

こんな悪趣味な部屋を買う奴がまともなわけが無い。



「せめて色彩を変えればまだマシだろうな、この風景」



「それには私も同意します。いったい何考えて買ったんだか」



人間を怯えさせるためだろう、とは素直に言わない。

言ったところで面倒事の匂いがするし。

そこまで考えたところで、自身の体が少しずつ透明になってきていることに気付く。

どうやら時間切れのようだ。



「時間切れだね。バイバイ、死神」



「ブツブツ…あ、……さようなら」



こうして、死神との二度目の邂逅は終わった。


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