ドラキュラジメ
目の前に巨大な吊り橋がそびえ立つ、白い灯台の近く。
女僧侶がのんきに釣糸を垂らしている。
朝の光が心地よく、彼方の橋の上を荷馬車が行き来しているのが見えた。
そこに、黒ずくめの男が静かに近づいてくる。
深く被ったフードの奥では、怪しく赤い目が輝いていた。
「お仕事お疲れ様。もう日が昇っちゃったのに、迎えに来てくれてありがとう……」
女僧侶の名はセイラ。私をテイムしている僧侶だ。
その時、彼女の竿にアタリがあった。
一気にしなる竿。ぴんと張った釣り糸。
重い!……が、少しずつ獲物は近づいてくる。
海中に白い魚体が浮かび上がってきた。
でかい!
「ドラちゃん、タモ!」
セイラの荷物からタモ網を取り出し、私は彼女の横に並んだ。
タイだ!
大きく曲がった竿を立てて、徐々に手元へ寄せていく。
タイが海面から顔を出し、足元までやってきた。
「もうちょっと!」
バシャリ、と網ですくい上げた。
「やったー! さすが世界有数の急潮で育ったタイは違うわね」
セイラは満足げな表情を浮かべている。
「せっかくのブランド鯛なんだから、早くシメて」
(やれやれ、仕方ないな)
私はタイの針を外し、優しくその身を掴んだ。
――ピシッ!
一瞬でタイをシメる。
「相変わらず手際がいいわね。わざわざ手間をかけさせてごめんね」
「大丈夫。さっきまで漁協でひたすらシメてきたから。ついでですよ」
「プロね。漁協のおばさんも喜んでいたわよ。ドラちゃんがシメると味が全然違うって。今ではブランド化して、通常よりだいぶ高く売れるそうよ」
セイラはにこやかに話し続けているが、早朝からの仕事明けには、この強い日差しがこたえる……。
「セイラ、日差しが厳しいから早めに帰りたいのだが……」
「あら、ごめんなさい。こんなに陽が強いと、灰になっちゃうものね。帰ってお刺身を食べて寝ましょう」
二人で帰路についた。
帰り道、商店街の魚屋の前に幟が上がっている。
『明石鯛 ”ドラキュラジメ” はじめました』
店のあんちゃんが声をかけてくる。
「奥さん、ドラキュラジメのいい鯛が入ってるよ! 一瞬で血抜きと神経処理をするから、旨さが違うんだ。今、評判だよ!」
セイラが笑顔で私を見上げる。
「評判なんだって♪」
さらに、名案を思いついたように言った。
「漁協のおばさんがね、船の上で水揚げ直後にシメてくれたら、もっと時給を上げてくれるそうよ」
(えっ!?)
「時給が上がっても……灰になっちゃうから嫌だ」
『血が飲み放題のバイト』だと紹介されたが、まさか対象が鯛だったとは。
でも、私の仕事で喜んでくれる人がいる。
明日も、がんばろう。




