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ドラキュラジメ

作者: 白山月
掲載日:2026/04/28


目の前に巨大な吊り橋がそびえ立つ、白い灯台の近く。

女僧侶がのんきに釣糸を垂らしている。

朝の光が心地よく、彼方の橋の上を荷馬車が行き来しているのが見えた。


そこに、黒ずくめの男が静かに近づいてくる。

深く被ったフードの奥では、怪しく赤い目が輝いていた。


「お仕事お疲れ様。もう日が昇っちゃったのに、迎えに来てくれてありがとう……」

女僧侶の名はセイラ。私をテイムしている僧侶だ。


その時、彼女の竿にアタリがあった。

一気にしなる竿。ぴんと張った釣り糸。


重い!……が、少しずつ獲物は近づいてくる。

海中に白い魚体が浮かび上がってきた。


でかい!


「ドラちゃん、タモ!」

セイラの荷物からタモ網を取り出し、私は彼女の横に並んだ。


タイだ!

大きく曲がった竿を立てて、徐々に手元へ寄せていく。

タイが海面から顔を出し、足元までやってきた。

「もうちょっと!」


バシャリ、と網ですくい上げた。


「やったー! さすが世界有数の急潮で育ったタイは違うわね」

セイラは満足げな表情を浮かべている。

「せっかくのブランド鯛なんだから、早くシメて」


(やれやれ、仕方ないな)

私はタイの針を外し、優しくその身を掴んだ。

――ピシッ!

一瞬でタイをシメる。


「相変わらず手際がいいわね。わざわざ手間をかけさせてごめんね」

「大丈夫。さっきまで漁協でひたすらシメてきたから。ついでですよ」

「プロね。漁協のおばさんも喜んでいたわよ。ドラちゃんがシメると味が全然違うって。今ではブランド化して、通常よりだいぶ高く売れるそうよ」


セイラはにこやかに話し続けているが、早朝からの仕事明けには、この強い日差しがこたえる……。


「セイラ、日差しが厳しいから早めに帰りたいのだが……」

「あら、ごめんなさい。こんなに陽が強いと、灰になっちゃうものね。帰ってお刺身を食べて寝ましょう」


二人で帰路についた。


帰り道、商店街の魚屋の前にのぼりが上がっている。

『明石鯛 ”ドラキュラジメ” はじめました』


店のあんちゃんが声をかけてくる。

「奥さん、ドラキュラジメのいい鯛が入ってるよ! 一瞬で血抜きと神経処理をするから、旨さが違うんだ。今、評判だよ!」


セイラが笑顔で私を見上げる。

「評判なんだって♪」

さらに、名案を思いついたように言った。

「漁協のおばさんがね、船の上で水揚げ直後にシメてくれたら、もっと時給を上げてくれるそうよ」

(えっ!?)

「時給が上がっても……灰になっちゃうから嫌だ」


『血が飲み放題のバイト』だと紹介されたが、まさか対象が鯛だったとは。

でも、私の仕事で喜んでくれる人がいる。


明日も、がんばろう。

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