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第三話:ハサミを手に入れたいのに弁償が先

 とりあえずの外骨格を手に入れた俺だったが、満足には程遠かった。


 体色は味気ないし、何よりハサミがなかった。何故俺の腕にはハサミが付いていないのか。


 あの無能女神にハサミを催促しても無駄だと思ったので言わなかったが、ダメ元で頼んでおいたほうが良かったか……。


《絶対採用しませんでしたから、安心してください》


「やはりか……羽と尻尾はいいのにハサミはダメとはわけがわからんな」


《そういうものなんです!》


「なあテッペイよ、羽と尻尾はその好きじゃないのか?」


 「ん?いや別に何とも思っていないが?お前の尾を覆う鱗は少し羨ましくはあるな」


「そ、そうか?結構尻尾の手入れには気を付けているから嬉しいのじゃ!」


《ドラミナさんテッペイは多分硬さが羨ましいだけですよ!》


 ルンルンのドラミナを引き連れ俺は再びギルドに訪れた。


 だがそこで待っていたのは歓迎という感じではないギルドの職員だった。


「あ、ドラミナさん!大人しく戻ってきてくれたんですね!これで壁を壊すの16回目ですからね!ちゃんと今回も弁償してもらいますよ!」


「え、あ、今は持ち合わせがないのじゃ……」


 ドラミナは貧乏だった。


「壁が壊れたのは俺の責任でもある。いくら必要だ」


「え?そのどなた様で?」


「先ほど登録したカニサキ・テッペイだ」


「生身で壁を貫通したのに五体満足なんですか?」


「スキル欄に再生と書いただろう、あの程度すぐに治る」


「普通壁のシミになると思うんですけど……あ!その時の傷を隠すために全身鎧になってるんですね!」


《なんでそういう方向に納得するの!?》


「いやこれは外骨格だ。それで修理代はいくらなんだ?」


「あ、はい30000ゴルドですね結構大きい穴なので」


「今の持ち合わせの10倍か、ドラミナ本当に1ゴルドももってないのか?」


「400ゴルドはあるのじゃ」


 ドラミナは貧乏だった(大事な事なので)


「お前の力、イノシシくらいは軽くひねれそうだが、なぜそんなに資金がないんだ?働いてないのか?」


「い、依頼はちゃんと受けてるのじゃ!」


「ドラミナさんは強すぎて、いつも被害額と報酬が相殺されてしまうんですよ」


「なるほど己の力を持て余してるのか。未熟だな」


「返す言葉もないのじゃ……」


《あなた!他人に説教できるような経験ないですよね!なんで偉そうなんですか!?》


「それで30000ゴルド返せそうな仕事はあるか?」


「そうですね……結構な高額依頼になるので今のテッペイさんのランクでは数をこなすしかないかと……」


「賞金首みたいなものはこの世界にはないのか?」


「この辺だと今は居ませんねぇ」


「そうか。じゃあランク上げと資金稼ぎが同時にできそうな仕事はあるか?」


「下水道のスライム掃討とかでしょうか」


「スライム?外骨格の関節の保湿にいいかもしれんな」


(いやいや、腐食しますよ!無理ですよ!)


「スライムは毒とかあるのか?」


「たまにそういう種類もいますが街のスライムは、弱い溶解液を出すだけですね」


「溶解液を出す……か俺も水鉄砲を口から撃ちたいものだ」


「妾は火を噴けるぞテッペイ!」


「便利そうだな」


「光熱費ゼロじゃ!」


《ええ……この子もおかしい……》


「わかったスライムの掃討を受けよう。一回、何ゴルドになる?」


「えーと掃討自体は1000ゴルドでスライムの素材が取れればもう少し稼げるかと」


「なるほど塵にしたら儲けが減るわけか。聞いていたなドラミナ?」


「え?なにがじゃ?」


「火は噴くな。壁を壊すな。床を抉るな。何なら依頼には付いてくるな」


「な、なんでじゃ!」


「報酬がマイナスになる恐れがある。それでは借金が返せん。借金が返せんと俺の外骨格の強化が出来ん」


「み、見てるだけにするから付いてかせてほしいのじゃ!」


「それならいいだろう」


「ではスライム掃討依頼を受理しますね!頑張ってください!」


 ギルドの職員に見送られながら、俺たちは風通しのいいギルドから立ち去った。


「下水道はこっちじゃ!」


 ドラミナの案内でスムーズに下水道の入り口に辿り着いた。


「マンホールみたいなのから入るかと思ったが、立派な用水路なんだな」


「マン?なんじゃそれ?」


「俺の世界の下水道の入口で定番だった金属製の蓋だ。なかなか頑丈でいい色合いだった」


「テッペイがそこまで褒めるなら妾も見て見たいのじゃ」


《ただの円形の鉄板ですから!色じゃなくて錆ですよそれ!》


 下水道の奥へと進む。立ち込める臭気が感覚器を衝くが、仕方あるまい。


「清浄な水を好む身としてはやはり下水道は好かんな」


「テッペイは綺麗好きなんじゃな!」


「当然だ。美しい水辺で外骨格を美しく保つのは嗜みだからな」


 ヌルーン。


 そんなことを言っていると天井からスライムが垂れてきた。


 スライムはあっという間に俺の頭を覆いシュワシュワと外骨格を溶かし始めた。


「ぐ!手に入れたばかりの外骨格が溶ける!痴れ者め!」


 俺は頭にへばりついたスライムを手で引きちぎった。


 ビチャ!


 投げ捨てられたスライムだがすぐに元の形に戻っていった。


「再生するのか?」


「スライムは核を壊さなければ倒せんのじゃ!」


「核か……」


 俺は手にチョキの形を作る。そして核らしき部分を鋭く突き刺した。


 ズルッ!


 スライムの核は体の中にズレ破壊することはできなかった。


「なるほど……」


「テッペイ、妾が消し炭にしようか?」


「ダメだ、炭では素材にならん、それに一撃で無理ならばコアを破壊するまでハサミで突くのみ」


 両手でチョキを作り、高速でスライムの核を狙い撃つ。


 ブチュ!


「捉えたぞ!」


 核が破壊され一匹目のスライムが倒れた。


《なんかかっこつけてますけど、絵面はダブルピースですからね!?》


「ドラミナ、スライムの体液を回収だ。これが素材らしいからな」


「わかったのじゃ、あまりこういう細々としたことは得意じゃないが頑張るのじゃ!」


 言葉の通りドラミナの液体回収はお世辞にも上手いものではなかった。


「魔法でササっといけないのか?」


「妾は炎と爆発しか操ることが出来んのじゃ」


「街中で使える能力ではないな」


「面目ないのじゃ……。でも荷物持ちは得意じゃから任せるのじゃ!」


「ふ、役割分担というやつだな」


「共同作業じゃな!」


 ドラミナの目は輝いていた。


《めちゃくちゃ雑用押し付けられてるだけですよ!》


 その後俺たちは下水のスライムが死滅する勢いで狩り続けた。


 「用意した容器が満タンになったのじゃ!」


 ドラミナは山盛りになったスライムの瓶づめを高らかに掲げた。

 

 俺たちは粘液まみれで異臭を放っていたが、成果にはおおむね満足していた。


 後はこれがきちんと資金になればいいのだが。


 ギィ。


 俺は今日3度目となったギルドの扉をくぐった。


「ゲッホゲッホ、ちょっとテッペイさん、ドラミナさん。ドロドロのままでギルドに来ないでください!」


「スライムを狩ってきた。急いで報告した方がいいと思ったのでな。そのまま来た」


「他の方に迷惑なので、洗浄してから来てください!」


「そうか」


 ギルド職員の剣幕に押され俺たちはギルドから一旦離れて洗うことにした。


「ドラミナ。この街の水浴び場はどこだ?」


「テッペイ水浴びなどしていたら風邪をひいてしまうのじゃ、ちゃんと浴場に行くのじゃ」


「いや俺は冷たい清水で外骨格を洗浄したいのだ」


「そ、そうなのか?ならこっちじゃ」


《なんですぐに折れるの!人間的文化生活を勧めて上げて!》


 街を流れる川の下流に辿り着いた俺はスライムと下水を洗い流した。


「テッペイ、鎧の上だけ綺麗にしても汚れは落ち切らないのじゃ。ちゃんと脱ぐのじゃ」


「ふむ確かにかけ流しでは取り切れないな」


 俺はおもむろに川に沈み川底で高速反復横移動をする。


《あの、溺れると思うんですけど!?》


 汚れが落ち切った感覚を覚えた俺は川底を蹴り一気に陸に上がった。


「ふう、いい潤いだった」


「テッペイ、鎧がもげてるのじゃ!」


「腐食で傷んでいたんだろう。やはり既製品はダメだな」


 兜と両腕の手甲を失った俺は水にぬれたテラコッタ色の髪をかき分け、次の外骨格に必要なものは腐食耐性と心に書き留める。


「ドラミナ。お前は浴場へ行くのだろう?先に換金しておくぞ」


「そ、そうじゃな妾はテッペイほど冷たいものが得意じゃないからそうさせてもらうのじゃ」


 ドラミナと一時的に別れ俺は今度こそギルドで換金に臨んだ。


「おお、苔の兄ちゃんじゃねえか、今度は何持ってきたんだ」


「スライムの体液だ」


 俺は買取カウンターに瓶をドカドカと置いた。


「これ何匹狩ったんだよ……最近掃討依頼受ける奴いなかったから増殖してたんだなぁ」


「いくらになる?」


「そうだな一瓶200ゴルドだから40個で8000ゴルドだな」


「その程度か」


「まあ低ランクのモンスターだからなあ」


「イノシシは稼ぎが良かったんだな」


「その分危険だからな!ガハハ!」


 買取カウンターのおっさんは豪快に笑いながらスライムの瓶詰を倉庫に持っていった。


 俺は総合受付に戻りスライム討伐におけるランクの上昇について聞くことにした。


「それがですね、沢山掃討していただけたのは助かるのですが、依頼としては一件なので1ポイントですね」


 職員は少し申し訳なさそうだが、そういうルールなのだろう。


「どれくらいでランクが上がるんだ?」


「テッペイさんは新人のカッパークラスなので、10ポイントでシルバーになれますよ!」


「あと9件か」


「あ、依頼によってはポイントが高いものもありますので、後2,3件ほどでいいのではないかと……」


「試したな?」


「あ、はい、いくらステータスが優れていても実績のない新人に危険な仕事は振れませんので」


「フ、まだ俺はゾエア幼生ということか」


《カニの孵化直後の名前とか普通わかりませんよ!》


「なんだかよくわかりませんが次からはもう少しいい依頼を頼めると思います!よろしくお願いしますね!」


「そうだな、早く外骨格を新調したいものだ」


「その前に壁の修理代ですからね!」


「念を押さなくても、逃げたりしないさ」


 俺は職員の目を真っ直ぐ見つめて言った。


「そ、そうですよね!またのお越しをお待ちしてますね!」


《今兜被ってないから、無駄に好感度稼いでるなあ……》

最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます!

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また次回、お会いできるのを楽しみにしています!


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