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第二話:竜姫ドラミナ

 沢を下り、森を抜けるとそこは美しい緑の草原地帯だった。


「ほう、ヨーロッパには行ったことはないが、イギリスなんかはこんな景色だったのかもな」


 遠くに見える石造りの壁を見ながら、俺は呟いた。


《あの、素朴な疑問なんですけど、カニを名乗ってるのに、二本の脚で真っ直ぐここまで歩いてきましたよね?》


「はあ……」


 俺は盛大にため息をついた。


《な、なんなんですか。その心底あきれたみたいな態度は!》


「前に歩くカニを知らんのか女神のくせに……」


《え?この世界のカニはまっすぐ歩いたりしないんです!》


「無知なものが創造主だと進化も行き詰るのか……俺の元居た世界はずいぶん優れていたんだな」


《な、なんですって!て、天罰くだしてやる!》


「フ……語るに落ちたな」


《ぐわー!むかつくー!ぐぬぬぬ。なんでこんなの転生させちゃったの私!》


 俺は女神の戯言を聞き流しながら、石造りの壁に向かっていった。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それはなんて事のない、昼下がりだった。俺はいつも通り門の前に立って街の警護についていた。


 遠くからそれはゆったりと優雅に歩いてきた。両肩に巨大な牙を担ぎ、全身を苔やシダで覆った、この世のものとは二重の意味で思えない、流れるようなウェーブヘアーの美青年だった。


「と、止まれ!」


 俺は思わず声を上げ槍を向けてしまった。


「ああ、警邏の者か、俺はこの牙を売って外骨格を手に入れたいのだ」


 なにを言ってるんだ?この男は……。


「魔獣の素材を売りに来たのか?」


「そうだ、高値で売れると聞いたのでな、どこで売ればいい?」


「そ、それならギルド……ってお前のような怪しい奴を通せるわけないだろう」


「ギルドを目指せばいいのか、俺は見ての通り一般的なモクズショイだ何の害もない通してくれ」


「モク?何のことかわからんが、だめだだめだ。帰れ」


 「そうは言ってもここが一番近い人里みたいだからな、俺としては一秒でも早く外骨格を手に入れたいのだ」


 そう言うと男は横を向いた、帰ってくれるのか?そう思った瞬間だった、男は高速で横移動をして門を過ぎていった。


 あまりの速さに俺は目で追えなかった……。


 頼む、街で問題よ起こらないでくれ。そう願いながら俺は詰め所へ連絡に向かった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「頑固な門番だったな」


《最後は説得できたみたいな感じ出さないで!強行突破でしょ!》


「さて、ギルドはどこだ?そもそも文字が読める……ようだな。でかでかとギルドと看板にある」


《転生先の言葉がわからないと不便ですからね、ちゃんとサービスしてますよ》


 俺はギルドの扉が押して開けるスイングドアタイプであることからそのまま肩で押し開けて入った。


 まっすぐ受付まで歩いていく、周囲の視線がなぜか集まっている。両肩の牙が目立つのだろうか。


 《どう考えても苔まみれな格好のせいだと思いますよ!》


 「この牙を換金したい。できるか?」


「あ、えっとそのギルドでの買取はまずギルドに登録をしていただく必要がありまして……」


「そうか、手続きを頼む」


「あ、え?はい。えっとここに必要事項を記入してください」


 受付嬢はなぜか歯切れが悪かった。


《顔だけは、世界でも指折りの美形にしておきましたからね。カウンター越しだと変態感が薄まるんじゃないですかね》


 なぜか女神が得意そうだが、必要書類に書き入れる。


 名前カニサキ・テッペイ。

 種族カニ。

 性別オス。

 特技自切(自分で腕が切れる)、再生、毒耐性、毒取り込み。


 これで良しと。


《全然良しじゃないんだけど!あなた種族人間だけど!》

 

「カニサキ・テッペイさんですね。えっと変わったお種族ですね」


「進化の極致だ」


《受付の子そこじゃないでしょもっと突っ込むとこあるでしょ!》


「で、ではこちらの水晶で能力鑑定をどうぞ」


「ほう、魔法みたいなものがある世界なのか」


《今そこに気づくの!?私の存在でうすうす気づいておこうよ!》


 筋力A

 敏捷性S

 魔力A

 耐久性∞

 意志力Ω


「えっ?凄いステータスですね!カニサキさん!」


「テッペイでいい」


「はい、テッペイさんこれはこのギルドのエースになれるかもしれませんよ!」


《いやいや女神の私が設定してない単位出てるんだけど!∞とかΩって何よ!》


「そうか、それは何よりだそれでもう牙を売れるのか?」


「あ、このギルドプレートをどうぞ、無くさないでくださいね!再発行はお金がかかりますから!

 この後はあちらの買取カウンターで査定してもらってくださいね」


「わかった、ありがとう」


 俺は短く、受付嬢に感謝を伝え、買取カウンターへと向かった。


 受付嬢はなぜかポワーッとしていた。


《この男、見た目だけで受付嬢を落としかけている……》


 ドンッ。俺は買取カウンターに牙を置き担当者を呼ぶ。


「すまないこの牙を買い取ってもらいたいんだが」


「うお!兄ちゃんこれはずいぶん大物のワイルドボアの牙じゃねえか!6000ゴルドで買うぜ!」


「一つ訪ねたいが、6000ゴルドで全身鎧が買えるか?」


「問題なく買えると思うぜ!といっても鋼鉄製でちょっと重いかもしれねえがな」


「ほお、そうかそれは助かる」


「それにしても兄ちゃん、そんな格好でもワイルドボア仕留められるのに防具が欲しいなんて珍しいなあ」


「いや俺が欲しいのは外骨格なんだ」


「???魔導外装とかのことか?あれはちょっと高すぎるから6000ゴルドじゃ全然足りないぜ」


「いや当座は鋼鉄製で十分だ」


「そうかい、まあもっといい鎧が欲しかったら依頼をこなしてランクを上げるんだな」


「そうさせてもらおう」


 俺は6000ゴルドを袋に入れてもらい買取カウンターを後にした。


 その時ふいに声を掛けられた。


「そこのお主待つのじゃ!先ほどの鑑定結果を妾も見たのじゃがな、耐久性∞とは本当か?」


 そこにはトカゲのしっぽと蝙蝠の羽を持つ女が仁王立ちしていた。


「おい女神、なんでトカゲ人間はOKでカニ転生はダメだったんだ?」


《あれは竜人族といってトカゲ人間ではありません!そんなことを言うと……》


「お主、妾をトカゲと言ったか?この竜姫ドラミナを捕まえてトカゲと」


「いや、捕まえてきたのはそっちだろう。俺は外骨格を手に入れるのに忙しい。用がないなら放っておいてくれ」


 俺が言い放つと同時に視界がブレた。腹部に凄まじい衝撃が走り、ギルドの壁を貫通し地面を4回ほどバウンドしてようやく止まった。

 

 体がおかしな方向に曲がっていたが、再生能力があるのですぐに治った。それにしてもさっきのはなんだったんだ?


《拳で殴られたんですよ!竜族は怒りっぽいんです!》


「なるほど、トカゲ扱いにキレたのか、気持ちはわからんでもないな。謝罪はしておくか」


《妙なところは素直なんですね》


「つ、ついカッとなって殴ってしまった、だ、大丈夫か?」


「問題ない、それはそうとデリカシーのない発言をしてしまったな、この世界の常識には疎くてな。すまない」


「あ、いやそのこっちもいきなり殴ってよくなかったというか、そのわりと全力じゃったのになんともないのか?」


「ん?苔とシダが剥がれ落ちているな、代わりもないし、防具屋へ急ぐか」


「ま、まま、待つのじゃ流石にその姿で防具屋というか街を歩くのはまずい、妾の布を腰に巻いていくとよい」


「そうだな」


 俺はドラミナから渡された妙に手触りのいい布を腰に巻くと、防具屋へと向かっていった。


《腰布一枚もだいぶおかしいのに苔よりましだから困る……》


 防具屋の扉をくぐると俺は開口一番こう言った。


「鋼鉄の全身鎧をくれ。頭はフルフェイスだ、出来ることなら俺の髪の色と同じ色に塗装してあると嬉しい」


「なんだなんだ?ずいぶん具体的な注文だな、だがあんたの言うカラーはねえ鋼鉄打ちっぱなしので我慢してくれ。3000ゴルドだ」


「背に腹は代えられんな、色は後で自分で何とかするとして、買わせてもらおう」


「毎度あり!腰布いっちょじゃ心もとないもんな!」


《ここの店主順応性高くない?》


 俺は遂に第一の外骨格を得ることができた。これで安心して生活できるだろう。


《私も不審者度が減って安心してます》


 防具屋を出るとドラミナが立っていた。


「そのう、おぬしの名前を教えてくれんかと思ってここで待っておったのじゃ」


「俺の名前はテッペイだ」


「これからどうするんじゃ?」


「ギルドで働いて通貨を得、さらに強力な外骨格を身につけようと思っている」


「妾も一緒に行ってよいか?おぬしのような頑丈な男はそうそうおらんのじゃ、それにその赤銅色の髪も素敵じゃし……」


「赤銅色ではない、テラコッタだ、間違えるな」


「あ、うん、わかったのじゃ、それで付いて行ってもよいか?」


「勝手にすればいい」


「うん!勝手にするのじゃ!」


 ドラミナはなぜかはじけるような笑顔でそう答えた。


《いやどう考えても好意もたれてるでしょ!スルーするなよ!はあ……》

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