第一話:森の沢にて
眩い光が開けるとそこは鬱蒼とした森だった。
俺が望んだとおりの綺麗な水が流れる沢だった。
沢の水は冷たく、清涼感を感じる。
「ふ、これが俺のカニとしての生涯の始まりか……」
俺は天に二本しかない腕を突き上げ威嚇のポーズをとった。
《いえあなたは人間ですよ!》
「ん?なんだ耳障りな声が聞こえたような気がするな、俺の触覚が鋭敏になってるのか?」
《触覚なんてありません。普通に人間の五感です!というかあなたが心配過ぎて声を掛けてるんですよ!》
「ああ、女神か、他の魂の転生で忙しいだろう。俺はカニになるから放っておいても大丈夫だ」
《その思想がもう問題を起こしそうなんですよ……そもそも服も来てないし》
「カニが服を着るか?カニが纏っているのは外骨格だけだ、そもそも全裸で送り出したのはお前の落ち度では?」
《むむむ……もう送り出したら干渉できないので何も反論できない……兎に角その辺の草でも纏ってください!》
「そうか、モクズショイのようになれということか。奴は海のカニだがまあいいその辺の苔を纏うか」
俺は沢に生えている苔やシダを纏い、沢で自分の姿を見る。
「やはり、外骨格がないままでは落ち着かないな、体からキチン質を出す能力は貰わなかったから自作するしかないか……」
《そんな能力要望されても絶対に授けませんけどね!》
「そうなると、この軟な二本の腕ではそこらの岩をくりぬくこともできんな……」
《素朴な疑問なんですけど、外から殻を纏ったらヤドカリなのでは?》
「……貴様、今何と言った?」
《え?外部から殻を得たらヤドカリじゃないかって》
「俺は殻を纏うんじゃない、外骨格を身につけるんだ、二度と俺をヤドカリと一緒にするな!」
《ええ……何の拘りなの……》
女神のなにもわかってない態度に俺は憤慨しながら沢を下ることにした。
水辺の近くには人の気配があるはずだ。そこで俺用の全身鎧。すなわち外骨格を誂えるとしよう。
《ちょっと待ってください!今は苔まみれの状態ですよそんな状態で人里に行ったらすぐに御用ですよ!》
「ん?全裸ではないから大丈夫だろう、ああ、そうか人間の世界には通貨が必要だな、女神何か金目のものはこの辺にないのか?」
《この森ですと……ワイルドボアの牙でしょうか?》
「イノシシか、今の肉体で通用する気がしないが、自然に落ちてる物もあるかもしれないな」
俺は目を凝らしながら沢を下っていく、しかしイノシシの牙のようなものは見当たらない。
ブルルルッ!
「出会ってしまったか」
目の前にはぎらついた眼をした巨大なイノシシがいた。
イノシシなど前世ではテレビでしか見たことがなかったが、こんなにデカいのか。
《いえ、この世界のワイルドボアはあなたの世界のイノシシより二まわりほど大きいですよ》
「ふざけた世界だな」
《あなたの思考の方がよっぽどですよ!》
女神の戯言は置いておいて、こちらを完全にロックオンしている状態ではどうにもならんな。
「だが、カニとしての初戦闘。悪くない」
俺は高速左右移動をする。
次の瞬間イノシシはこちらに突進してきた。
スッ……。
「当たらんな」
《えっ?キモッ》
イノシシは勢いを殺すことが出来ず、俺が背にしていた岩に激突した。
「自身の勢いで、命を落とすとはな……やはり進化の下流の存在はそんなものだ」
俺は脳挫傷で亡くなったイノシシから牙を引き抜きながら、カニの至高さを噛みしめていた。
《今の戦いにカニ要素ありました?ねえ?》
「素晴らしいカニ歩きがあっただろう」
《アッ、ハイ……》
「これで資金源も確保出来たな、今度こそ人里に向かうか」
俺は両肩に巨大な牙を担ぎ、森から抜け出していった。
《どうみても蛮族なんですよね……どうなることやら》
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