第九話:死霊術師シオン
夜も更け、夕食時が過ぎたころそれは現れた。
俺も街に酒場を構えて十数年色んな冒険者を見てきたが、あんな奴は初めてだった。
本当に何気ない一日が今日も終わるそう思ってた時だった。
カランコロン。
入店の合図を告げるベルが鳴り、まず目に飛び込んできたのは街でも有名になっていた竜人娘だった。
続いて入ってきたのは珍しい妖精の客だった。どちらも見た目は華やかで、酒場がより賑わうなと思った瞬間。俺は目を疑った。
カシャン、カシャン。
緑銀色の丸みを帯びた金属の塊が横歩きで入ってきた。
「マスター3人席を頼むのじゃ!」
竜人娘が言った。
3人……?
「すまない、その金属の塊は人間なのか?」
たまらず聞いてしまった。
「いや、俺はカニだ」
金属の塊はそう告げた。いや確かにフォルムはそれっぽいがカニは酒場に来ないだろ。
「テッペイ~話がややこしくなるから顔を見せたら~」
カシャン。
金属の塊(自称カニ)の頭部と思われるところが左右に開き中から無駄に整った超絶美形の男の顔が現れた。
「あ、変わった装備の方だったんですね。あちらが開いてますのでどうぞ」
俺は(なぜ美形がカニの着ぐるみを!?)という理解を置き去りにし、とりあえず席に案内してやり過ごすことにした。
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「串焼き屋台以外で食べるのは久しぶりなのじゃ~」
ドラミナはキラキラした目でメニューを見ていた。
「早く決めてね~後が詰まってるんだから~」
「どれも美味しそうで迷うのじゃ~。とりあえずオーク焼き定食(800ゴルド)を頼むのじゃ~」
「わたしはハニートースト(1200ゴルド)かしら~」
「そんなので腹が膨れるのじゃ?」
「妖精は糖分が大切なのよ~」
「ふむ」
俺は小さく作った右手のハサミでメニューをぺらりとめくっていた。
《食事の時くらいハサミはずしなさいよ!っていうか、わざわざ右側のハサミだけ小さく特注したの!? ねぇ、私が人間のイケメンに転生させてあげた意味、完全に死んでるんだけど!!》
「コカトリスのバター焼き(3000ゴルド)にしよう、良いたんぱく源になりそうだ。マスター!注文を頼む」
「お客さんうちは前払いなんですけどいいですかね?」
マスターがおずおずと聞いてきた。
「問題ない」
ガシャン。
俺は3万ゴルドの入った袋をテーブルの上に乗せた。
「お客さん、羽振りがいいんですね、ハハハ」
マスターは5000ゴルド以上あるのを確認するとカウンターに帰っていった。
「ああ、マスター1ついいか?」
「なんでしょう?」
「清らかな水を樽一杯頼む」
「へ?ああ、良い飲み水は貴重ですよ?9000ゴルドですけど……」
「ああ、構わん」
ゴロゴロと店員が樽を転がしてきた。
「水です!」
「ありがとう」
俺は樽の蓋にハサミを突き立てて外すと、そのまま持ち上げ盛大に頭から被った。
バシャアアア!
《飲み水じゃないの!?というよりめちゃくちゃお店に迷惑じゃない!?》
「いい潤いだ」
「机がびしゃびしゃなのじゃ~」
「あら~?浴びるなら毒を混ぜておけばよかったわね~」
そんなことを言ってるとマスターが飛んでやってきた。
「お、お客さん!水浴びなら川でやってもらわないと!」
「ふむ、店先で浴びればよかったか。すまないな。料金から清掃代も抜いておいてくれ」
「あ、はい……」
マスターは少しうなだれた様子でカウンターへ帰っていった。
その後少々待ち、俺たちは頼んだメニューを食べ、ドラミナが10人前追加したので手持ちの資金はなくなり、俺たちは酒場を後にした。
なぜかマスターが俺たちを店先まで見送って塩を撒いていた。
「満腹なのじゃ~」
ドラミナの腹ははちきれんばかりになっていた。
「ドラゴンちゃん食べ過ぎじゃな~い?太るわよ~」
「妾はブレスを吐けばすっきり太らないのじゃ~」
「あら~羨ましいわね~」
《妖精も太らないのでは?私は女神だから太りませんよ!》
「テッペイ、今日はどこに泊まるのじゃ?」
「ん?川縁だが?」
「なんで野宿なのじゃ~!」
「金はお前が酒場で使い切っただろう」
「どうして止めないのじゃ~!」
「わたしは家があるから平気だし~」
「俺は川縁が落ち着くしな」
「メ、メルティの家に泊まれたりはしないのじゃ?」
「寝返りで毒をかぶって溶けてもいいなら喜んで~」
「や、止めておくのじゃ!川での野宿は最高じゃな~!」
「家に帰るということはメルティとはここでお別れか。世話になったな」
「ちょっと何言ってるのよテッペイ~わたしも川縁で平気よ~妖精は自然と親和性があるから~」
「そうか、まあ好きにしてくれ」
俺はそう言うと川へと入っていった。今日はいつもより水温が低い気がする。
「前も思ったんじゃがテッペイは水中でなんで寝れるのじゃ?」
「鰓呼吸の権能とかもらってるんじゃないの~?」
《いえ二人とも、私が与えたのは再生スキルと毒取り込みだけです!普通に溺れるはずなんです!》
そうして川縁で野宿しようとしていた俺たちであったが、ふいに声が聞こえた。
「銀ピカみ~つけた~」
フードを目深に被ったなんだか不健康そうな少女が土手の上に立っていた。
「なんのようじゃ?」
ドラミナが素早く詰め寄った。
「ドラゴンの骨に興味はない……私が気になるのは銀ピカだけ」
「風貌を見るからにネクロマンサーかしら~?」
「そう……私は死霊術師シオン。銀ピカが溶かしたスケルトンを作った」
「やり返しに来たのじゃ?」
「弱い骨がやられただけ。私が欲しいのは強くて珍しい骨」
「なるほど。しかし骨はな……軟骨ならいいが」
それまでのやり取りを聞いていた俺はハサミをパージし腕を自切してシオンに差し出した。
「ああ、体液は猛毒だから注意してくれ」
「えっ、腕、えっ?」
シオンは戸惑っているようだった。
《目の前でいきなり腕を千切るやつが出てきたらそうなるわよ!!》
「ああ、俺の腕は直ぐに生えてくる気にしなくていい」
ズルッ!
「この通りだ」
「す、すごい……う、腕だけ?」
「ん?歩脚も行けるが……」
「う、腕と脚だけ?ろ、肋骨とか」
「まあ無理ではないだろう」
「すごい!私、死骸魔法が専攻なんだけど、死骸がすぐ手に入るからって魔王軍に入ったの!でもあなたがいればもう待たなくていいんだね!」
「急によく喋るのじゃ……」
「気持ちはわからないでもないわ~テッペイは特別だもの~」
「魔法か……使いたいな」
「か、簡単な魔法なら私、教えられる!」
「そうかじゃあ腕は講師代でいいか?」
「うん!いい!」
「じゃあ明日から頼むぞシオン」
「任せて!」
「また変なのが増えたのじゃ~」
「あの子死霊よね、死霊用の毒試してみたかったのよね~」
こうして俺たちは死霊術師シオンを仲間に引き入れ魔法を教えてもらうことになった。
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