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プロローグ:カニになれなかった男

男はカニになりたかった。

 これは私のしでかした中での、最大のやらかしの話です。


 初めまして、私はエリシア、女神です。この世界に転生する魂を管理しています。


 この日もいつも通り、不幸な亡くなり方をした方や、生前に善行を積んだ方の転生を行うはずでした。

 あの男、蟹埼鉄平が現れるまでは……。


「よく来ましたね、迷える魂よ。あなたは不幸にも亡くなってしまいました。ですが安心してください。今から新たな世界に転生できます」


「……ふむ。俺は脱皮しようとしていたはずだが、なぜ転生を勧められているんだ?」


「え……ああ、その……あなたは力を入れすぎて脳の血管が破れてしまったのです。まだ若いのに……」


「そうか……いける気がしたんだがな。やはり生物学上、人はカニになれないか……だが転生といったな?これはまたとないチャンスだ。俺をカニにしてくれ」


「え?無理です」


「なぜだ?命を作り出せるというのなら、俺をカニにすることぐらい朝飯前だろう」


「いいですか、テッペイ。聞いてください。人間の魂は人間にしかなれません」


「ひどく不自由な転生条件だな……外れを引いたか」


「な!失礼な人ですね!外れじゃありません!そもそも、なんであなたはカニになりたいんですか!」


「カニは進化の究極系だからだ」


「いえ、ですからあなたは人間です。甲殻類じゃないですから」


「ち、ちょっとした甲殻すらつけられないとは、使えん女神だ」


「いちいち失礼な人ですね……転生取りやめますよ!」


「別に構わんが、外れだった事実は消えんな」


「もう頭に来ましたよ!じゃあカニにはできませんけど、カニっぽい能力をつけて上げましょう。女神を舐めないでくださいよ!」


「そうか……じゃあ次の体は歩脚を八本、腕を二本にしてくれ」


「それもう化け物ですよ?人間じゃないですから!できませんからね!」


「なんだ、本数も増やせないのか。じゃあ腕を自分で切れるようにしてくれ。後、再生能力もつけろ」


「変な要望ですが、まあいいでしょう。超再生能力は割と付与しがちな能力ですから」


「後は毒を取り込める体にしてくれ。これはカニとして大切なんだ」


「毒物の耐性と体への蓄積ですね、わかりました。お安い御用です」


「後、俺は完成された状態で生を送りたい。人の子として育てられたくない。俺はカニなのだから」


「転生した時点で大人の状態ということですね。わかりました」


「スタート地点は綺麗な沢で頼む」


「人里離れた沢ですね。では転生しますよ!」


「ああ、頼む」


「サービスとして美青年にしておきますからね!」


「それは別に必要ないが、髪の色はテラコッタ色にしてくれ。いいか?茹でる前のズワイガニの色だぞ」


「妙な拘りですね……では新たな生を謳歌してくださいね」


 私は魔方陣を展開し、彼、テッペイを私の管理する世界へ送り込んだ。


 でも、この時私は気づいていませんでした。

 この男の要望を通したことが、あんなことになってしまうなんて……。

最後まで読んでくれて、本当にありがとうございます!

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