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明星

瀬戸内学園の卒業式。

 水月は壇上に立ち、校長の葛城から卒業証書を受け取った。

 「久遠水月(くおんみずき)、首席」

 体育館に拍手が響く。水月は少し顔を赤らめて一礼した。

 (……うちなんかが首席やなんて)

 自己評価の低い彼女は、素直に喜べないまま席に戻った。


 今回の卒業生は15人しか居ない。

 しかし、15人ともネビュラの因子を持ち、一般人よりもはるかに高度な教育を受けている。

 その中でのトップという事も水月はピンと来ていなかった。


 卒業後、水月は京都大学法学部に入学した。

 海外のもっとレベルの高い大学も薦められたが、「関西がいい」という本人の希望で、京大を

 選んだ。

 大学に入ってからも、水月の勉学への姿勢は変わらなかった。

 周囲からは「ミス京大」と呼ばれるほどの美貌を持ちながら、本人は人付き合いが苦手で、言い寄って

 くる男子学生を避けるのに必死だった。

 「勉強忙しいから」

 「予定あんねん。ごめん」

 口実を重ね、断り続ける。


 趣味はサボテンの収集と、ピアノ。

 そして、小さな古いマンションで「大五郎」と名付けたカメレオンを飼っていた。

 ホームセンターの片隅で1年以上売れ残っていた大五郎を、見捨てられずに連れ帰ったのだ。

 気が付いたら飼育セットも全て込みで会計をしていた。


 大学3年が終わる頃。

 必要な単位をすべて取り終えた水月は、残りの1年を自由に過ごすことに決めた。

 旅に出たり、趣味に没頭したり、のんびりとした日々だった。

 そんな折、繁華街の路地裏で偶然、真理子と再会する。


 ある日の夜、水月は京都の祇園(ぎおん)にいた。

 ゼミの飲み会があったのだ。今までも何度も誘われていたが、体よく断り続けていた。

 しかし今回は断れなかった。

 法学史ゼミのクラスを受け持つ教授が今年で定年退職されるとの事で、お別れ会も兼ねるという

 事だったからだ。

 水月はその教授の事は嫌いではなかった。いやむしろ水月は自分の感情に気付かないふりをしていた。

 教授はイギリス人で名前をスコット・クロムウェルと言った。


 ほとんど英語で話す授業。すらっとした体格、背は190くらいはあろうか。ボソボソとしたしゃべり方であまり笑わない人物だった。

 飲み会の帰り、他の生徒は2次会へと散会したが、水月とスコット教授はそれには参加せず

 駅までの道を並んで歩いていた。

 初老のイギリス男性と並んで歩く状況になぜか水月は胸の鼓動がいつもより早く打っている事に動揺した。


 その時後ろから声がした。

 「ミスター スコット? プロフェッサークロムウェル?」

 とても流ちょうな英語の女性の声がした。

 二人が振り返ると、そこには女優の様な艶やかなドレスの美女の笑顔があった。

 「ああ! やっぱりそうや スコット教授! お久しぶりです。覚えてますか? 真理子です。アイマ マリコ・ヒナタ!」

 「オオー マリコ! アイ リメンバード!」


 水月は突然の事にあっけに取られていた。

 ――教授が楽しそうに笑っている――

 ――何より、ひなた…… この人の事を私もどこかで――


 真理子はふいに隣の水月に視線を移した。

 その瞬間

 「あ!!」 二人同時に互いを指さした。


 「たしか……水月ちゃん! あらー こんな所で会うなんて!」

 「はい! 日向真理子さん!覚えてます! とてもお綺麗なので、一瞬誰かと思いましたけど。」

 「ええー いつ以来? 綺麗になって! あの組手の時以来かー 君達姉弟はずば抜けてたからね。組手の時以外の時間も君たちをじっくり観察させてもらったな。特進(とくしん)に推薦したのは実はうち!」

 「とく??……」


 水月は真理子の太陽のようなテンションに圧倒されて、ぼそぼそとした話口調になってしまった。

 行きかう人々が真理子を二度見する。

 ―—真理子さんを俳優さんか、モデルさんか って思ってるんやろうな――水月は頭の中でそう思った。

 実際、行き交う人々は、水月にも視線を送っていたが、彼女はそんな事は知る由もなかった。


 「真理子さん、教授とはお知り合いなんですか?」


 「うん、うちスコットゼミの一期生なんよ!」


 「え? 真理子さん 大学も先輩なんや……?」


 「そういう事になるかぁ」


 水月は今の状況での情報量の多さに少し処理が追い付かずにいた。

 何かたくさん話をしなければならない事があるんじゃないかと。しかしうまく言語化出来ずにいた。


 「今、私フリーやねんか、ご飯でもどう?」


 「オオ! マリコ ゼヒ 行きましょう」


 スコット教授は見たことのない笑顔とテンションで()()()で即答した。


 「水月ちゃんは?」


 「あ……すみません。私は仕上げなければならない論文があるので失礼します。」

 ―—あー 断ってしまった。 論文なんて無いのに、たっぷり時間あるのに――


 水月は一刻も早く一人になりたかったのだ。一人になって落ち着いて情報を整理せねばならなかった。


 「そっかー じゃ LINE交換しよ!」


 そういって真理子は自分のスマホの画面を差し出した。

 ―—こんな逸材(水月)、絶対逃がさない!――真理子は心の中でそう念じた。


 それから幾つかの時間が過ぎ、しばしば真理子と会うようになった。

 そうして水月がルミナスのナンバー2になるのにそう時間はかからなかった。  



 蓮がパチンコ屋の景品売り場から通りに出ると、金曜日の三宮の繁華街は人で溢れかえっていた。

 ネオンでサイケデリックな場所に人の笑い声、肉を焼くにおい、大音量のラップ。

 人の活力が押し寄せて来るようだ。

 皆、それぞれの歩調でここに集まって来る。ひと時の現実逃避のために。

 

 どこに行くでもなく、壁にもたれて電子タバコを口に運ぶ。

 ぼんやりと街を眺める。どこかに焦点が合う訳でもない。


 淡路学園を卒業した。学力と武道はトップの成績だった。

 しかし素行不良により主席にはなれなかった。


 ―—どうでもええけど……―—


 姉のように大学に行くことに魅力を感じなかった。行く事は義務ではない。

 または国の組織に就職する事も、しっくりこなかった。

 学園を卒業し、ある程度の人生の計画書を作成し申請すれば、必要最低限の生活費は

 援助される。大学に行けば学費は免除される。

 しかし何も申請が無い場合、そこでただの一般人に戻る事になる。

 しかも因子持ちであるが故に常にマークされる存在になるのだ。


 そんな時だった。

 街のアーケードで、零士と再会する。


 「……零士?」

 振り向いたその姿は、かつての野良犬のような少年とは少し違っていた。

 日雇いの仕事をこなし、自分なりに社会に馴染もうともがいている。だが、周囲と衝突することも多いらしい。

 「まあまあ、なんとか食えてるわ」

 不器用に笑う零士に、蓮は昔の面影を見た。


 ――零士、ずいぶん変わったな――


 蓮は心のどこかで零士を見下していたのかもしれない。

 しかし今の零士は地に足をつけ、今を生きている。

 ふいに蓮に焦燥感が襲った。


 それから二人は行動を共にする時間が増えた。

 日雇いの仕事や、ラーメン屋、ゴミ処理など、金が無くなったら働き、その日暮らしの毎日だった。

 また、零士は敵が多かった。荒れていた時期にあちこちに喧嘩を売り、その報復に来られる事が

 しばしばあった。 零士は相手が死ぬ寸前まで追い込むので、それを止めるのも蓮の役目だった。


 ―—こいつはやっぱり規格外や 今の俺でも多分勝てんやろな――

 蓮は喧嘩の仲裁の度にそう思った。


 零士には「黒」を披露した。

 しかし、零士は「へ~」と言っただけで大して心に響いていないようだった。

 

 ――零士は何を求め探しているんやろうか、そんなに生き急いでどうするんや――

 蓮は零士の事をほっとけなかったのだ。そしてこの男がどうなるのか、今後の行く末を見てみたかった。


 ある時、スマホが鳴った。 刑事の高瀬だ。

 「蓮。お前に頼みがある」

 真剣な声だった。

 「零士を見張っていてくれ。……あいつは今も“重要機密”に指定されている。国は監視を解いていない。いまも衛星で監視されている。」

 

 「いいですけど タダで?」


 「う~ん 仕方ねえ 月10万でどうや?」


 「安っ! マジで言ってる? あいつの隣は命がけやで?」


 「じゃあ 15万。 これ以上はあかん」


 「わかった やりますわ。 国家の監視対象の監視が月15万て・・・ありえんやろ」


 「おまえ 今まで零士とつるんでたやないか それで金もらえるんやろがい! 淡路学園卒業すんのに一人いくらかかってると思ってるんや! それやのにいつまでもフラフラしよって。わかってんのかボケ!はよ納税者にならんかい!」


 「わあった! もう怒鳴られるんしんどい はい 切るで!」

 

 それから蓮は零士の監視役としての()()に就くことになった。


 そうして因子持ちとしての足かせをはめられた者達の人生がゆっくり動き出そうとしていた。

 


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