男装聖女と魔女の森 3
「……ははっ」
小さく、口から渇いた笑いが漏れていた。
「出て来いよ、イリアス。先輩たち巻き込んで、オレたちを驚かせようとしてんだろ? わかってんだからな」
「トーラ」
ラディスの声が聞こえたが構わず私は周囲を見回しながら続ける。
「なぁ、もう出てこいって! こんなの全然面白くないからな。先輩たちも、早く出て来てくださいよ! カルーシさん、ロドニーさん、ハウリーさんも!」
しかし誰も出てくる気配はない。
私の声は夜の森の中に吸い込まれるように消えてしまって、あとはまた静寂だけが残った。
「……ふざけんなよ」
そう呟いてから、私はどこへともなく怒鳴った。
「おい! 魔女だかなんだか知らないけど、こんなみみっちいやり方してないで正々堂々勝負しろよ!」
「トーラ、落ち着け」
引き留めるように肩を掴まれ私は彼を見上げる。
「でも!」
「下手に奴らを刺激するな。消えた者たちは今奴らの手中にあるんだ」
「……っ」
ぎゅうと両手を強く握る。
「でも、どうしたら……」
「お前は何も感じないか?」
「え?」
潜めた声で訊かれ、もう一度その顔を見上げる。
「もし今魔女が何か術をかけていたとして、お前なら何かわかるのではないか?」
私は再び真っ暗な森の中を見回し、首を横に振った。
「何も……」
「そうか」
落胆したようなラディスの声。
……何も、出来なかった。
初めての任務に浮かれて意気揚々とここまで来て、いきなり馬と仲間が4人も消えてしまった。
自分なら何か出来ると思ったのに、何も出来なかった。
(このままみんな戻ってこなかったら、どうしよう……)
イリアスの笑顔がふいに浮かんで、私は一度強く頭を振ってからラディスを見た。
「オレ、やっぱり空から見てくる。絶対みんなまだ近くにいるはずだろ」
私たちがこの場を離れたのは5分かそこらだ。
どうやって皆が消えたのかわからないけれど、連れて行かれたのだとしたらまだそんなに遠くには行っていないはずだ。
「ダメだ」
「なんでだよ!」
ラディスが視線だけを動かし続ける。
「俺たちはおそらく見られている。お前が空を飛んだら奴らはどう思う?」
「でも……じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「落ち着け」
「こんなの落ち着けるわけないだろ!?」
逆にこんなときでも落ち着き払っているラディスにまた腹が立ってくる。
愛馬と仲間が4人も消えてしまったのに。
団長として、動揺出来ないとわかってはいるけれど。
でも彼はそんな私に顔を近づけると囁くように言った。
「あのときを思い出してみろ」
「あのときって」
「キアノスの呪いを解いたときだ。あのときどうやって呪いを解いた?」
「それは……元の姿に戻って、呪いよ消えろって念じてたら気持ちの悪いモヤみたいなのが頭の中に浮かんできて……うわっ!」
バサッと何か頭から掛けられてびっくりする。
それはどうやらラディスのマントのようだった。
「な、なに」
「同じようにしてみろ」
「え?」
「何か見えてくるかもしれん」
マントのすき間からその真剣な目を見て、私は漸くラディスの言わんとしていることを理解した。
大きく頷き、私はまず元の姿に戻ることにする。
身体が縮むのを少しでも誤魔化すために私はその場に蹲った。
周囲からはきっと私が泣き崩れたように見えるだろう。
そんな私を慰めるようにラディスも身を屈め私の肩に手を置いた。
マントの下で元の姿に戻った私は、あのときのように目をつむり集中する。
( 魔女の術よ、消えろ )
最初は瞼の裏の闇しか見えなかった。
どこを見回しても、ただ暗い闇があるだけ。
でも、とある方向を向いたときだった。
「!」
その闇がざわりと蠢いた気がして、ぞわっと全身に鳥肌が立った。
私はマントの下からその方向を小さく指差す。
「あっちに、何かある」
「!」




