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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女の森 1


「そろそろ件の森だ。何か異変があったらすぐに報告しろ」


 ラディスがすぐ後ろを走る皆に声を掛けたのは、あの宿を出てから2日後のことだった。

 彼の言った通りここまで街や村などはなく、この2日間夜は野宿、昼間は休みを入れつつもひたすら馬を走らせていた。


(いよいよか……)


 私もイェラーキの背で前方を見つめながらごくりと喉を鳴らした。


 本当にそこに魔女はいるのだろうか。

 あのフェリーツィアがいるのだろうか。


 私は野営の際に皆と交わした会話を思い出していた。



  ***



「その森は、なんで魔女が住んでるって言われるようになったんですか? 見た人がいたとか?」


 誰にともなく私が訊くとまず答えてくれたのは隣で干し肉を齧っていたイリアスだった。


「いや、魔女を見たって人はいないみたいだけど、昔っからそこじゃ変な噂が絶えないんだ」

「変な噂?」


 そういえばラディスも「噂の域を出ないが」という言い方をしていた。


「ああ」


 頷いたのは先輩騎士のひとり、ハウリーさんだった。

 ラディスより大分歳上に見える、筋肉隆々で強面だが気の優しい先輩だ。


「その森に入った者は二度と帰ってはこないとか、逆に森に入ったはずがいつの間にか全然違う場所にいたとかな」

「へぇ……」


 確かに魔女がいるという噂が立ってもおかしくない不思議な話だ。


「死んだはずの家族や知人をその森の中で見たという話も聞いたことがあるな」

「えっ」


 神妙な顔でそう続けたのは、ラディスと同じ歳ほどの長髪をひとつにまとめたロドニーさんだ。


「だから、この森はあの世に通じてると言う人もいる」


 先輩騎士の中で一番若いカルーシさんがこちらを見てにやと笑った。


 なんだか一気に怪談じみてきてぞくりとする。

 夜に聞かなければ良かったとつい周囲を見回してしまった。


 そしてその話をまとめるようにラディスが言った。


「そういう奇妙な噂が絶えないことから、そこはいつの間にか『魔女の森』と呼ばれるようになったわけだ」



  ***



 そんな会話を思い出していると。


「トーラ」


 背後から低く声がかかって私は振り返る。


「なんだ?」

「お前も、何か異変に気付いたらすぐに知らせろ。どんな些細なことでもいい」

「え?」

「先日の呪いのように、もしかしたらお前にしか見えないような異変もあるかもしれない」


 確かに、この間のあの気持ちの悪いモヤみたいなものは私にしか見えていなかった。


「わ、わかった」


 しっかりと頷いで、ついでに城を出てからずっと考えていたことを話してみることにした。


「最悪何も見つからなかったさ、オレが空から探すって手もあるからな」


 そう、私なら空を飛んで上空から森の中を探索することも出来るのだ。

 もし本当に魔女たちの集落があるのなら、空からなら発見出来るかもしれない。

 勿論、イリアスや先輩騎士たちにはバレないよう隠れて行動することにはなるけれど。


 するとラディスは少し眉を顰めたあとで答えた。


「……そうだな。最悪の場合は頼むかもしれん」

「ああ!」


 この力が役に立てるのは普通に嬉しい。

 私は笑顔で返事をしてまた前を向いた。




「馬で行けるのはここまでだな」


 そうため息混じりに言って、ラディスはイェラーキから降りた。

 前方を見るが、確かにもう馬で進めるような道はなさそうだ。

 私たちは全員馬から降り、その場の木の幹に馬たちを繋いだ。


「ここを拠点に少しずつ調査を進めていくことにする。ここはもう件の森の中だ。油断はするな」

「はっ!」


 そうして馬たちが運んでくれていた荷物から必要最低限のものだけを持って、私たちはその鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れた。



 その森の中はとても静かだった。

 まだ日は高いところにあるが、天井を覆うような深い緑のせいで中は薄暗い。

 足元をよく見ていないと縦横無尽に張り巡らされた太い根っこで躓いてしまいそうで片時も気が抜けなかった。


 その中をどのくらい歩いただろうか。

 特に何も起こらず、何も見つからないまま日は傾き、元々薄暗かった森の中は視界が利きにくくなってきた。

 結局今日はここまでにしようということになり、少し拍子抜けした気分で私たちは馬たちの元へと戻ることになった。



 しかし、その拠点に戻ってみて私たちは愕然とした。


「嘘だろ……」


 思わずそんな呆けた声が漏れていた。

 私だけじゃない。騎士の皆が私と同じような顔をしていた。


 この場に繋いでいたはずの馬たちが1頭も残らず忽然と姿を消していたのだ。




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