男装聖女の初任務 5
朝の光を感じてゆっくりと意識が浮上していく。
(もう朝か……)
何か、とても良い夢を見ていた気がする。その余韻がまだ残っている。
……そうだ。
ゲーセンのクレーンゲームでイェラーキに似た大きな馬のぬいぐるみを見つけて、絶対に欲しくて、何度も何度も挑戦してやっとゲット出来て大喜びする夢だ。
ゲーセンなんてもう何年も行っていないのに。可笑しな夢を見たものだ。
ここはゲーセンなんてない異世界で、私は騎士見習いで、今は大事な任務中なのに。
(……起きなきゃ)
そう思いながらもまだ眠くてなかなか瞼が上がらない。
とりあえず寝返りを打とうとして。
(……?)
身体が動かないことに気づく。
何かに包まれているような感覚を覚え、なんとか目を開けて。
(は?)
眼前にラディスの顔があった。
彼はまだ目を瞑ったまま静かに寝息を立てていて。
(な、な、なっ)
私は彼にしっかりと抱きしめられていたのだ。
「なんでだよ!」
なんとなくデジャブを覚えつつもそう盛大にツッコミながら彼の腕を跳ね除け起き上がる。
と、ラディスは目を覚ましたようだった。
「ああ……おはよう」
そう寝ぼけ眼で言ってのそりと起き上がったラディスをビシっと指差す。
「おはよう、じゃない! なんでお前こっちのベッドで寝て……っ」
そう喚きながら自分の甲高い声に気付いた。
「あ、あれ?」
身体が、元の藤花の姿に戻っていた。
トーラの姿のまま寝たはずなのに。
「え、なんで……」
「寝ている間に聖女の力が解けたのではないか?」
私が混乱していると、ラディスは欠伸をしながらベッドから立ち上がった。
「そ、そんなこと、これまでは……」
そうだ。これまでこんなことはなかった。
戻れと念じない限り、戻ったことなどなかった。
だってそんなことがあったら、きっともうとっくにイリアスに女だとバレているはずだ。
……いや。違う。
そういえば一度だけ念じていないのに戻ったことがあった。
あれは私が熱を出してラディスが見舞いに来てくれた時だ。
あのときは熱のせいだと思ったけれど、今回は別に体調は悪くない。昨日の長時間の乗馬で脚が少し筋肉痛なくらいだ。
「俺が夜中に目を覚ました時にはもうその姿だったぞ」
「は?」
早速身支度を始めているラディスの台詞を聞いてぴくりと頬が引きつる。
「そ、それでこっちに潜りこんだのかよ!」
そう非難の声を上げるとラディスは半眼でこちらを見た。
「お前があまりに無防備だったものでな」
「なんだよそれ!」
「それに最初に抱きついてきたのはお前だ」
「だ、抱きついた!?」
「ああ、やたら幸せなそうな顔でな。一体どんな夢を見ていたのだか」
それを聞いて、私は夢の中でゲットできた馬のぬいぐるみを思いっきり抱きしめたことを思い出した。
(あれ、ラディスだったのか……)
どうやら事実らしく何も言えなくなっているとラディスは溜息交じりに続けた。
「安心しろ。何もしていない」
「あ、当たり前だ!」
「何もしなかったことをむしろ褒めて欲しいくらいだ」
「褒めるか! 今は任務中なんだぞ!?」
「ほお? では任務中でなかったら良かったのか?」
「そ、それは……」
じっと見つめられて、じわじわと顔が熱くなってくる。
と、ラディスはふぅと小さく息を吐いて私から視線を外した。
「まあいい。ちなみに宿に泊まるのはこれで最後だ」
「えっ」
「あとは魔女の森まで野宿になるからな。しっかりとした食事もここでの朝食が最後だ。しっかり食べておけ」
「わ、わかった」
私は心して返事をした。
「俺は先に下に行っている。イェラーキの様子も見てきたいからな」
「わかった。私も急いで支度する」
そうしてまずはトーラの姿に変身すると、それを見てからラディスは部屋を出て行った。
「……」
ひとりになって、すぐに私は頭を抱えた。
(抱きついたって、私マジで何やってんだよ〜〜!)
先ほどのラディスの言葉を思い出しまた顔が熱くなった。
寝ぼけていたとは言え、恥ずかしいったらない。
(……やっぱり、ラディスと部屋にふたりっきりは心臓に悪いな)
野宿は嫌だけれど、またこういう緊張をしないで済むのは助かるなと思ってしまった。
そして私は身支度を整え部屋を出た。
すると、丁度イリアスも部屋から出てくるところで。
「おはよう」
声をかけると私に気付いてイリアスがまだ眠そうに笑った。
「ああ、おはよ。よく眠れたか?」
「まあな。お前は、よくちゃんと起きられたな」
「先輩に叩き起こされた」
「だと思った」
大欠伸をするイリアスを見て笑ってしまった。
そして、果たして先輩はイリアスのあのいびきの中ちゃんと眠れたのだろうかとちょっと心配になったりした。




