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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女は感謝される 2


「なんで王様がオレなんかに!?」


 ラディスの後について城内の初めて立ち入る廊下を足早に進みながら私は小声で訊く。


「王陛下もお前に直接感謝の言葉をおくりたいのだそうだ。だが……」

「だが?」

「……すまない。俺もそれ以上のことは聞いていない」


 なんだかラディスも困惑している様子だ。

 

(それにしても広いな)


 初めて入る本当の意味での城内は全てのものが大きく、まさに豪華絢爛。

 今歩いている廊下など、この場所で舞踏会が開けそうなくらいの広さがある。

 壁や天井の装飾も隅々まで手が込んでいて、時間があればゆっくりと見て回りたいところだが、先輩騎士も含め使用人があちこちにいて、そんな皆の視線を感じて落ち着かなかった。


「――あ。そういえば王様は呪い平気だったのか?」

「ああ。聖女と言えど、陛下には容易にはお会いできないからな」

「なら良かったけど……」


 なのに私みたいな見習いが会ってしまっていいのだろうか。


 と、ラディスはとある部屋の前で足を止めた。


「一先ず、お前にはここで謁見用の正装に着替えてもらう」




 そうして、言われるままに私は急ぎ正装に着替え、ド緊張で玉座の間の扉の前に立った。


(まさか騎士になる前にこんな格好をすると思わなかったな)


 騎士の皆の格好とはまた少し違うデザインだが、ピシっと身が引き締まる思いがした。

 それに正直テンションが上がった。

 見た目パッとしないトーラでも、なんだかイケメンに見えた。

 あのフェリーツィアが着ていたような綺麗なドレスにも憧れるけれど、やはり私はこういうカッコいい服装に惹かれる。


「大丈夫だ。何かあれば俺がフォローする」

「わ、わかった」


 緊張が伝わったのだろう、前に立つラディスがそう言ってくれて私は頷く。

 そんな私を見て、ラディスの隣にいるキアノス副長が笑顔で続けた。


「大丈夫だよ。何も取って食われるわけじゃない。多分ね」

「えっ」

「キアノス」


 そんな彼をひと睨みして、ラディスは前を向き直った。


「行くぞ」

「はい!」


 王様に直接お会いするのは勿論これが初めてだ。

 騎士の競技会などで遠目に見たことはあるけれど、確か30代半ば程のまだ若い王様だ。

 緊張はするけれど、私の正体を知っているラディスとキアノス副長が傍にいてくれるのは心強かった。


 玉座の間の扉が開かれると、まず赤く長い絨毯が見えた。

 そしてその向こう、煌びやかな玉座には王冠を被り立派な髭を蓄えた男性が座っていた。


(あの方が、この国の王様……)


「騎士見習いトーラ・ターナーを連れて参りました」


 ラディスがそう声を張り、キアノス副長と共に恭しく頭を下げるのを見て、私もそれに倣い頭を下げる。


「入れ」


 そう言ったのは王様の傍に控える男性だ。

 前のふたりが赤い絨毯の上を歩き出し、私もそれについていく。

 しかし、広間の半ば程まで進んだところでふたりが足を止め私の両側に捌けていってしまい、残された私は慌ててもう一度その場で頭を下げた。


「お前が、トーラか」

「は、はい!」


 頭を下げたまま答える。


「良い。面を上げよ」


 そう言われてゆっくりと顔を上げると、王様は優し気に微笑んでいた。


「ラディスから話は聞いている。この度の働き、誠に大儀であったな」

「も、勿体ないお言葉でごさいます!」


 なんと言っていいかわからず、そうしてまた頭を下げてしまった。


「まさか、あれが魔女であったとは。まんまと騙されたわ」


 そんな自虐の響きに何も答えられずにいると、王様は続けた。


「お前がいなければ、そこのキアノス含め皆危なかったと聞いている。感謝するぞ。トーラ」

「はっ!」

「あの魔女をすぐにでも見つけ出し捻り上げたいところだが、相手は魔女。しかも仲間もいるかもしれぬという話。しかしこのままにしてもおけぬ。……そこでだ」


 王様は私を見つめ言った。


「トーラ、お前にあの魔女の捜索隊に同行してもらいたい」

「え……」

「陛下!」


 私とほぼ同時に驚いたように声を上げたのはラディスだった。

 彼も初耳だったらしい。


「なんだ、ラディス」

「彼はまだ見習いです。そのような任務にはまだ」

「ならば今から騎士になればよい」

「なっ……!」


(えっ)


 それには私も驚いた。


「そのくらいの褒美は与えても良いとは思うがな」

「し、しかしながら陛下」

「相変わらず、お前は頭が固いなラディス。だから冷徹などと言われるのだ」


 ため息混じりに王様が言う。

 でも嫌な言い方ではなかった。どちらかというと憂いているような言い方だ。


「それとも流石のお前もやはり魔女は恐ろしいか?」

「そういうわけでは……」


 と、王様の視線が私に戻ってきた。 


「トーラ。お前の気持ちはどうだ。行ってはくれぬか」


 私は王様の目をまっすぐに見ながら答える。


「オレ……いえ、わたくしがお役に立てるのでしたら」

「おお!」

「しかしながら、わたくしはまだ見習いの身。まだ馬にもうまくは乗れません。そのようなわたくしが同行すると、逆に皆の足手まといになってしまうかもしれません」


 そう、正直に答える。

 私だって彼女に会って思い切り平手打ちしてやりたいと思っているけれど、今の私の実力ではやはり不安のほうが大きい。


「うーむ。そうか。馬にもまだ乗れぬか」

「は、はい……」


 改めて言われると恥ずかしかった。しかし事実だ。

 と、そのときだ。


「陛下。良い案がございます」


 そう声を上げたのはキアノス副長だった。


「ほう。申してみよ、キアノス」

「ラディスにその捜索隊長を任せるのはいかがでしょう」

「!?」


 ラディスが驚いたように副長を見る。


「昨夜、共に魔女の呪いを解いたふたりです。あの魔女の捜索には適任かと」

「それは確かに良い案だ」


 そうして王様は声高に続けた。


「ラディス、お前に魔女捜索の任を与える。準備が整い次第、このトーラと共に出発せよ」


 ラディスは何か言いたそうな顔をしたが、覚悟を決めたのかその場に恭しく膝をついた。


「かしこまりました。必ずや、あの魔女を見つけ出してまいります」


 私もそれに倣い膝をつき頭を垂れながら、心の中で叫んだ。


(なんか、大変なことになったぞ……!?)




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