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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と騎士団長の休息 2


 耳元で囁くようにお願いされて、身体がブワッと熱くなる。


「これが、一番の癒しだ」


 そんなふうに言われたら断れるわけなくて。

 それに。


(やっぱり、実は相当参ってるんだろうな……)


 私はぎこちなく彼の背中に手を回した。


「お疲れさま」

「……お前も」


 そうして、私たちは少しの間そのまま互いの隙間を埋めるように抱きしめ合った。


 ……確かにこれは癒される。

 人とハグをすると脳内から幸せを感じる成分がたくさん出ると聞いたことがあるけれど。


(あー、こういうちょっとした向こうの知識が一応医術の心得があるってことになるのかな)


 そんなことを考えていると、ふっと腕が緩んだ。


「そろそろ行かなくては。お前はどうする? もう少し休んでいるか?」

「いや、私ももう行く。イリアスの奴も心配してると思うし」


 心配というより、不審がっているかもしれないけれど。


 と、ラディスの頬がピクリと引き攣ったのがわかって私は首を振る。


「言わないから! さっきの医術の話、あいつも聞いてたんだろ? それでなんとか誤魔化すよ」

「……すまないな」


 そしてラディスはベッドから降りた。

 私も小さく息を吐いてからそれに続いてベッドを降りて。


「藤花」

「ん?」


 気がつけば間近に彼の顔があって、ちゅっと軽く口づけられた。


「ちゃんとトーラになってから部屋を出ろよ」

「〜〜っ、わかってるよ!」


 不意を突かれて真っ赤になった私を見て満足そうに笑い、彼は寝室を出ていった。


(まったく、油断も隙も無い!)


 部屋を出る前にこの赤い顔をどうにかしなきゃいけなくなったじゃないか。




 昨夜ラディスがぶち壊したドアは大分歪んでしまっていたが応急的に直したのか一応部屋の扉としての役割は果たしていて。

 それをまた壊してしまわないようゆっくりと開けていく。


「ただいま……」

「トーラ!」


 私は友人の大きな声に迎えられた。

 イリアスは身支度の途中だったのか騎士の制服を中途半端に着た状態ですぐにこちらに駆け寄ってきた。

 そして私の全身を見回し心配そうに言った。


「もう大丈夫なのか? 呪いに近付き過ぎて倒れたって聞いたけど」


 そういうことになっているのかと思いながら私は苦笑する。


「あ、ああ。もう大丈夫だ。心配かけてごめん」


 やっぱりまだ少し気まずく思いながら謝る。



 ――お前の方が俺に隠し事してるんじゃ、信じたくても信じられねーよ。



 昨日言われたあの言葉が頭を過った。


「謝るのはこっちの方だろ。昨日は本当に悪かった」

「いや、あれは」

「いくら呪いにやられてたって言っても友達を殺そうとするなんて……俺、自分が許せなくて。本当にごめん」


 そうしてもう一度頭を下げられて、私はそんな友人を見つめながらぐっと拳を握る。


「イリアス……でもオレも、お前に色々隠してて……」

「団長から聞いたよ。医術の心得があるって」

「う、うん」

「でも、言えなかったんだろ?」

「え?」


 イリアスは優しく笑っていた。


「確かに医術のことを魔術みたいで怪しいって言う奴もいるけどさ、そんな考えもう古いんだよ。俺、そんなことでお前のこと嫌ったりしねーし」


 それを聞きながら、そういうものなのかと知る。


(ラディスの奴、その辺のこともっと詳しく教えといてくれよな……)


 こちらの世界ではそれが常識なのかもしれないが、話を合わせるのにハラハラした。


「むしろ、言ってくれたら俺だって団長みたいに色々看てもらいたかったぜ」


 そこでやっと合点がいった。


(そっか。ラディスが私に目を掛けているのは医術目当てだったってことにしたわけか)


 確かに、それなら皆も納得したかもしれないけれど。


「いや、でも医術の心得って言っても、そんな大したことは出来なくて。昨日の呪いはホント偶然、運よくうまく行ったっていうか」

「でもすげぇよ。お前がいなかったらうちの騎士団ヤバかったわけだろ?」

「ま、まぁ……」

「なのに俺、昨日お前に酷いこと言っちまって……」

「え?」


 イリアスが気まずそうに私から視線を逸らした。


「お前のこと信じられないって言っただろ、俺」

「あ、ああ……」


 そこはやっぱり覚えているのかと私も視線を落とす。


「でも、オレが嘘を吐いていたのは本当のことだし……」


(今だって、本当のことは隠してるし……)


 ズキズキと胸が痛む。

 本当のことを言いたいけれど、先ほどのラディスとの約束がある。

 それに、やっぱりイリアスに実は女だと言うのは勇気が要った。

 それでもし彼の態度が変わってしまったら……友達ではなくなってしまったらと思うと、怖かった。


「俺さ、団長にお前を取られたみたいで面白くなかったんだよな」

「え?」


 顔を上げると、イリアスは気恥ずかしそうに苦笑していた。


「それに、昨日お前ザフィーリなんかと一緒にいたろ?」

「あ、ああ」

「それがまたイラっとしてさ。俺、お前のこと一番のダチだと思ってるから、なんか悔しくて。カッコ悪ぃよな、ほんと」


 バツが悪そうに頭を掻いているイリアスをぽかんと見つめる。

 

(一番の、ダチ……)


 それを心の中で繰り返しているうちに、急にじわりと涙が滲んできた。


「――お、オレだって! お前のことは一番のダチだと思ってるよ!」

「本当か?」

「本当に決まってんだろ!」


 それは、嘘偽りない本当の気持ちだ。

 するとイリアスは照れるように、でも嬉しそうに顔を緩ませた。


「ヤベ、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとな、トーラ。これからもよろしく」

「こちらこそ!」


 そうして、私たちは笑顔でコツンと拳を合わせたのだった。



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