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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女 9


「それで、彼女は?」


 先を行くイリアスについて行きながら私は小さな声で傍らのラディスに訊ねる。

 すると彼は悔しそうに答えた。


「案の定だ。部屋はもぬけの殻だった」

「そうか……」


 奥歯を噛む。

 会えたなら、あの綺麗な顔に一発くらいビンタを喰らわせてやりたかった。

 魔女への憧れの気持ちが彼女のせいで一気に崩れた。そんな個人的な怒りも含めて。


 しかし、彼女の計画は私のせいで台無しになるのだ。

 本物の聖女がここにいることに気付けなかったのが彼女の誤算。

 それを思うと少し胸がスっとした。


(なんとしても、全員助けてやる!)




「ザフィーリ!」


 寄宿舎の廊下の一画に集まっている見習いたちの中に目立つ銀髪を見つけ、私は声を上げた。


「トーラ」


 その場にいた皆がラディスを見て姿勢を正す中、私は彼に駆け寄った。


「ザフィーリ、さっきはごめん」

「いや、無事なら良かった。……君も」


 その視線が私のすぐ後ろにいるイリアスに移った。すると。


「悪かった」

「!」


 イリアスがザフィーリにそう頭を下げるのを見て、私も、ザフィーリ本人も驚いたようだった。


(イリアスがザフィーリに謝るなんて……)


 ということは、イリアスはザフィーリが部屋に来たことは覚えているのだ。

 イリアスが一体どこまで覚えているのか気になった。


 ラディスがザフィーリに訊ねる。


「状況は」

「今この部屋の中に立て篭っている者がおります」

「この部屋の者も、お守りをもらったと話していました」


 そう後を続けたのはイリアスだ。

 すると、近くにいた見習いの男が青ざめた顔で言った。


「お守りの話をしたら、突然これは俺のものだと暴れ出して……」


 おそらく同室の奴なのだろう。


「そうか。お前は身体にどこか異変はないか」

「は、はい。私は、何も」


 そしてラディスはその場にいる皆に厳しい声で伝えた。


「お前たちは他に同じような者がいないか手分けして探してくれ。動けなくなっている者もいるかもしれん。どちらの場合もその者には極力近づかず、その部屋の前で待機!」


 皆一斉に返事をしてバラバラと散っていった。

 私は隣にいるイリアスに言う。


「イリアス、お前も他に心当たりのある奴のとこに先に行っててくれ」

「お前は?」

「あー、オレは」

「トーラには俺の補助をしてもらう」


 そう答えたのはラディスだ。


「補助? トーラに、ですか?」

「そうだ。先ほどもそれでお前の解呪に成功した」

「……っ!」

「わかったら早くお前も行け」


 有無を言わせない団長の命令にイリアスは「はい」と答え、私の方を振り返りながらも廊下を駆けて行った。


(怪しまれてるよなぁ……)


 やはり、この件がひと段落したらちゃんと説明しよう。

 さっき一度覚悟を決めたのだ。

 緊張はするけれど、やはりイリアスには全てを話そう。

 だって、彼は大切な友達なのだから。


 と、ラディスがドンドンと激しくドアを叩き始めた。


「ここを開けろ!」

「うるさい! 誰も入って来るな!」


 すぐにそんな甲高い声が返ってきて、ラディスは問答無用でドアに体当たりを始めた。

 3度目の体当たりでバキャっという嫌な音と共にドアが向こう側に倒れて行った。


「入って来るなよぉぉーー!」

「!?」


 半狂乱となり絶叫を上げている男は両手でナイフを握り締めていてギョッとする。

 しかしそんなことはお構い無しにラディスはそいつの元へと近づいていく。


「来るなぁーーー!!」


 ナイフをめちゃくちゃに振り回し叫んでいる男の手元に手刀を喰らわせ、ラディスはそのナイフが床に落ちると同時に彼の鳩尾にドカっと一発拳を入れた。


「うぐ……っ」


(うっわ……)


 容赦ないそれを見て思わず肩を竦める。

 その場に崩れ落ちた男を床に寝かせるとラディスはこちらを振り返った。


「行けるか?」

「う、うん」


 するとラディスは一度こちらに戻ってきて倒れたドアを持ち上げバタンと部屋を閉め切った。

 それを見て私はすぐに元の姿に戻る。


「何度も立て続けにすまない。辛くなったらすぐに言うんだぞ」

「うん。でも、なんとなくコツが掴めてきたし、大丈夫」


 それに、ここで私がへこたれたりしたら彼女に負けることになる。

 それは絶対に嫌だった。


 私は泡を吹いて倒れている男の手に触れ、目を閉じ集中した。




 ――こうして、私とラディスは次々と呪いに侵された者を解呪していった。

 イリアスのようにお守りの話をした途端正気を失って襲ってくる者、キアノス副長のようにぐったりと寝込んでいた者、総勢13人。


 彼らが持っていたお守り、もとい、呪いのサシェは全て火でしっかりと燃やした。


 サシェはシャツの胸ポケットや制服のポケットに入れている者がほとんどで、どうやら皆彼女に甘い声で囁かれたようだ。


「貴女様の身を護ってくれるお守りです。肌身離さずしっかり持っていてくださいね」と。


 全てが終わったのは深夜だった。


「もし今後も体調のすぐれぬ者、言動のおかしな仲間を見つけた者はすぐに知らせるように」


 ラディスはキアノス副長と共に寄宿舎の中庭に集まった皆にそう伝えたそうだ。


 ……私はその場面は見ていない。


 情けないことに最後13人目の解呪に成功した直後気が抜け、私はその場で意識を失ったらしい。


 そして。

 次に気が付いたとき私はベッドの上にいた。


 いつもとは違う天井を見上げながら、まだぼーっとする頭に疑問符を浮かべていると。


「目が覚めたか?」


 ――?


 間近で聞こえた声の方にゆっくりと首を回すと、すぐそこにラディスの顔があった。


「……ラディス?」


 相変わらず整った顔してんなぁと思いながらその名を口にすると、大きな手が私の頭を撫でた。


「良かった。気分はどうだ?」

「……」


 頬を優しく撫ぜられ、徐々に私は今自分の置かれた状況を把握していき、それからガバっと起き上がった。


「――なっ、なんで一緒に寝てんだよ!?」


 そう寝起きの酷い声で叫んだ。




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