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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女 5


「考えと言うほどではないが……今日とある情報を入手してな」


(情報?)


 というと、また女将さん情報だろうか。

 ラディスがキアノス副長に訊いた。


「お前、あの女から何かもらわなかったか?」

「え?」

「あれが魔女なら、呪いの媒体があるはずだ。最近、あいつから何か渡されなかったか? 例えば、いつも身に着けておくような」


 途端、キアノス副長の顔が強張るのがわかった。


「あるんだな!?」


 副長は重く頷いた。


「……数日前に、お守りだとサシェをもらったけれど」

「!」


 サシェ。確か香り袋のことだ。

 昔まだ施設に居た頃に皆で作った覚えがある。巾着袋にドライフラワーやハーブなどを入れて口を留めるだけだが、香りが結構強くて酔いそうになったことを思い出した。


「今どこにある」

「制服の、内ポケットに」

「制服は」

「ええと、多分クローゼットの中だと……」


 突然倒れたというから、ここまで副長を運んだ誰かが仕舞ったのかもしれない。

 ラディスがクローゼットに向かい扉を開け放った。

 途端、ぶわっと先程イメージの中で見た黒煙が広がった気がしてゾワリと鳥肌が立った。

 実際にはそんなことはなかったけれど、ラディスがその中に手を入れようとして私は慌ててストップを掛けた。


「ちょ、ちょっと待って!」

「え?」

「ラディスは触らない方がいい気がする。一応、私が……」


 そう言うと、ラディスはクローゼットに手をかけたまま眉を寄せた。


「だが……」

「大丈夫」


 ……多分だけど。そう心の中で付け足して、私はラディスに退いてもらいクローゼットの前に立った。


(だって、私は一応聖女なんだから)


 それでも小さく喉がなってしまった。


 クローゼットの中から騎士見習いの憧れでもある騎士の制服を見つけると、その内ポケットに思い切って手を突っ込む。

 すぐに小袋のようなものが手に触れ、私はそれを取り出した。

 壁に取付けられた灯りに照らしてみると、手にすっぽりと収まるサイズのその布袋には綺麗な刺繍がされ、口の部分は可愛らしいリボンで留められていた。

 ほのかにハーブのような良い香りもして、見た目は確かに普通のサシェだった。


「これですか?」

「そう。それだよ」


 キアノス副長に見せると彼は神妙な顔で頷いた。

 ラディスが心配そうに私を見た。


「大丈夫か」

「うん、特には何も……」


 でも気味が悪いので、すぐに傍にあったチェストの上に乗せた。

 流石に中身の確認までする勇気はなかった。


「もしかしたらコイツはもう役目を終えて力は残っていないのかもしれないな」

「……マズイな」


 そのとき、キアノス副長が小さく呟くのが聞こえて私たちは揃って視線を向けた。


「彼女、他の騎士仲間にもそれを配っていたよ。いつもお疲れ様ですと言って」


 それを聞いて私は息を呑んだ。


(てことは、他にも呪いの被害者がいるかもしれないってこと?)


 ラディスも顔色を変えた。


「誰に渡していたか覚えているか!?」

「その場にいた何人かは覚えているけど、流石に全員は把握していないよ。私の見ていないところで配っているかもしれないし」


(そんなに大勢……?)


 ぞくりとして、同時に、何かとてつもなく嫌な感じを覚えた。

 それが何か、早く気づかなくてはと思うのに、うまく頭が回らない。

 と、そこでラディスが悔しそうに言った。


「しかしこれで、あの女の目的がはっきりしたな」

「え?」

「この前、バラノスでも聖女が現れたという話をしただろう」

「う、うん」

「なんだいそれ。初耳なんだけど」


 キアノス副長が驚いたように眉を顰めた


「すまない。もっと情報が得られてからお前には話そうと思っていた」

「それで?」

「……これは今日入手した情報だが、あちらの城で今原因不明の病が流行っているのだそうだ」

「!?」

「それって……」


 ラディスが頷く。


「バラノスに現れたという聖女もその正体は魔女で、病ではなく、呪いに侵されている」

「……っ!」


 キアノス副長は私の力でなんとか治すことが出来たけれど、バラノスでは今一体どういう状況なのだろう。

 考えただけで身震いがした。


「そうなると、あの女はもうこの城にはいないかもしれん」

「え!?」

「騎士を狙い、国の戦力を削ぐのがあいつの目的なのだとしたら、もうあいつはその役目を終えたんだからな」


 ――『騎士』を狙い……?


 それを聞いて、ざわりと総毛立った。


「俺はあの女の部屋を見てくる。キアノス、もう動けるようならそのサシェを受け取っていた者を当たってくれないか」

「わかった。寝てなんかいられないよ」


 そうしてキアノス副長はすぐにベッドから立ち上がった。

 そんな彼に私は訊く。

 ドクドクと騒ぐ胸を押さえながら。


「あの、騎士って、もしかして、イリアスも……?」

「!?」


 ラディスが私を振り返った。


「え? どうだったかな……私が受け取ったときには彼はいなかったと思うけど」

「――わ、私、訊いてくる!」


 駆け足で扉に向かおうとして、ぱしっとその腕をとられた。


「!?」


 ラディスが真剣な目をしていた。


「落ち着け。その姿のままで行く気か」

「あ……」


 そうだ。まだ藤花の姿のままだった。


「俺もあの女の部屋を確認したあとすぐに合流する。もしお前の仲間に呪いにかかった者がいたとしても、ひとりでなんとかしようとするな。俺が行くのを待て。絶対だ」

「わ、わかった」


 私はこくりと頷いてから、トーラの姿に変身しキアノス副長の部屋を飛び出した。


(イリアス、どうか無事でいてくれよ……!)





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