男装聖女と魔女 3
慌ててトーラに変身しようとするが、焦って集中出来ていないせいか、それともやはり力を使い過ぎたのか、変身出来なくて更に慌てる。
そこで、ラディスの溜息が聞こえた。
「……いつから起きていた?」
(え?)
ラディスの問いに副長はあっけらかんと答える。
「えーっとね、ラディスが彼女を抱き上げた辺りから」
(そ、それって、私が呪いを消してすぐってことじゃ……!?)
ということは姿もばっちり見られたということで、頭が真っ白になった。
「起きたならすぐに言え」
「だって、ふたりが仲良く話してるからさ、声を掛けるタイミングが掴めなくて。ねぇ、誰なんだい? 紹介してよ」
なんだか揶揄うような口調のあとで、キアノス副長は続けた。
「それと、呪いってどういうことか、詳しく知りたいな」
「……」
小さく息を吐いてラディスがこちらにやって来る気配がした。
彼はソファに寝そべったままの私を見下ろし言った。
「話しても、構わないか?」
どきりとした。
彼はもうキアノス副長に全てを話すつもりなのだ。
でも確かに、もう誤魔化すのは難しそうだ。
それに、呪いについては掛けられた当人であるキアノス副長には知る権利がある。
「あの女がこんな凶行に出たんだ。下手に隠すより協力を仰いだ方がいいかもしれん」
……そうだ。
もしかしたらこれで終わりではないかもしれない。
彼女のターゲットがキアノス副長だけとは限らない。
副長は助かったけれど、緊急事態であることに変わりはないのだ。
「キアノスは信頼できる奴だ」
「……ん。わかった」
私も覚悟を決めしっかりと頷くと、ラディスはこちらに手を差し伸べた。
「立てるか?」
「う、うん」
その手を取ってソファからゆっくりと立ち上がる。
先程のようにふらついたりはしなかった。
「大丈夫みたいだ」
ラディスはほっとした顔をして、そのまま私の手を引いてベッドの方へと向かった。
緊張を覚えながら私はキアノス副長の前に立つ。
身体を起こしていた副長は、私を見て柔らかく微笑んだ。
「話を聞いている限り、君が私を治してくれたみたいだね。ありがとう」
「い、いえ……治って良かったです」
大分ぎこちないだろう笑顔を返す。
するとキアノス副長は隣に立つラディスへと視線を向けた。
「それで彼女は? 君とはどういう関係? 随分仲良さそうだったけど」
「気付かないか?」
「え?」
ラディスの言葉にキアノス副長は小さく声を上げた。
「一応、お前も知っている奴だが」
「え……?」
じっと見つめられて、なんだか顔が熱くなってきた。
「……ごめん、わからないや。どこかで会ったことがあったかな?」
「トーラだ」
「え?」
キアノス副長が目をぱちくりとさせた。
「……トーラって、」
「トーラ・ターナー。騎士見習いのだ。お前も知っているだろう」
「や、彼のことは勿論、知っているけれど……え?」
そりゃ、そんなこと言われたって普通は信じられないだろう。
なんだか申し訳なくなってきて、私は思い切って頭を下げる。
「本当の名前は橘藤花って言います。これまで騙していてすみません!」
しかし当然ながらキアノス副長はまだ理解できないようで、戸惑うように額をおさえた。
「……ごめん、ちょっと、意味が……」
ラディスは息を吐いてこちらを見下ろした。
「見たほうが早いかもしれん。行けるか?」
「た、多分……」
先程変身出来なかったので少し不安だったが、深呼吸ひとつして私はいつものように目を瞑り集中する。
すると、間もなくしてキアノス副長が息を呑むのがわかった。
目を開けて、自分の手や腕が男のそれになっていてほっとする。
「……本当に、トーラだ」
呆然と、キアノス副長が呟くのが聞こえた。
「これでわかっただろう」
ラディスがなんだか得意げに言う。
「トーラは彼女、藤花の変身した姿だ」
すると、キアノス副長はもう一度私の方を見て確認するように訊いた。
「えっと、女性の方の……藤花が本当の姿ってことでいいのかな」
「はい、そうです。騎士になりたくて男の姿でここに入りました。本当にすみません!」
トーラの姿で改めて頭を下げる。
「俺が知っていて許可した」
「――で、でも、変身って。そんなことが出来るなんて」
「聖女の力だ」
ラディスの言葉に、流石のキアノス副長も目を見張った。
「聖女って、」
ぽん、とラディスは私の肩に手を置いた。
「彼女が、本物の聖女だ」




