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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女 1


 それからしばらくは平穏な日々が続いた。

 ラディスは忙しいのか、それとも私のあまり話しかけないで欲しいという言葉を気にしているのだろうか、あれきり会っていなかったし姿を見ることもなかった。

 全く寂しくないと言ったら嘘になるけれど、私は最近始まった乗馬訓練のお陰で毎日ヘトヘトになっていた。

 心配していたお尻の痛みについてはトーラの姿で姿勢を気をつけていれば大分楽だとわかったが、普段使わない筋肉を使うせいか毎朝全身が悲鳴を上げ起き上がるのに一苦労だった。

 それにラディスが言っていた通り、馬への飛び乗りにも大分苦戦していた。

 あのチンピラ風の奴らは、そんな私を見てゲラゲラ笑ったりと相変わらずムカツク態度をとっていたが、この間のようなあからさまな嫌がらせはしてこなくなった。


 そんな、ある夜のことだ。


「キアノス副長が倒れた?」


 私が聞き返すと、向かいに座るイリアスが深刻そうな顔で頷いた。

 今夜のメイン料理は白身魚のムニエルで、久し振りの魚料理に上がったテンションが一気に落ちていくのを感じた。


「な、なんで」

「俺も見たわけじゃないから詳しくはわからねーけど、いきなり倒れたって」


 イリアスがパンを千切りながら続けた。


「確かに最近ちょっと疲れてる感じはあったんだよな。顔色悪くてさ」

「そうだったのか。それは心配だな……」


 キアノス副長の優しい笑顔が頭に浮かんだ。

 ラディスと同じく最近その姿を見ていないけれど、すぐに良くなるものだったらいいと思った。ラディスもきっと心配しているに違いない。

 しかし、そこでイリアスは笑った。


「まぁでも聖女様がいるし、きっとすぐに治してくださるだろ」

「え……」


 私は小さく声を上げた。


(聖女様……?)


 あのふわりとした金髪の彼女が浮かんで、ざわりと胸が嫌な音を立てた。


(……まさか、な)


「トーラ?」

「え? あ、そ、そうだな」


 咄嗟に笑顔を作った、そのときだ。


「トーラ」


 背後から覚えのある低い声に呼ばれたのと、イリアスが手にしていたパンをぽとりと皿に落としたのはほぼ同時だった。

 まさかと振り返り、私は目を剥いた。


「ラっ、だ、団長!?」


 ラディスが怖い顔でこちらを見下ろしていた。


「話がある。ついて来い」

「は、はい!」


 食堂中の視線を感じながら、しかし有無を言わせない圧を感じて私は立ち上がった。

 そしてさっさと先を行くラディスに焦ってついて行く。


 皆の前で呼び出すとか何考えてんだよと文句が出なかったのは、ラディスの切羽詰まったような雰囲気と、先ほどの嫌な予感があったからだ。

 そして案の定、食堂を出てすぐにラディスは口を開いた。


「キアノスが倒れた」

「聞きました。大丈夫なんですか?」


 誰が聞いているかわからないので念の為敬語で訊ねる。

 すると、ラディスは前を向いたまま小さく答えた。


「……あまり大丈夫ではない」

「!?」

「だからお前を呼んだ。おそらく、お前にしか治せない」

「え……?」


 ――私にしか治せない……?


 そして辿り着いたのはキアノス副長の部屋だった。

 ラディスはノックもせずにその部屋の扉を開けると私を招き入れた。

 その暗い部屋はラディスの部屋とほぼ同じ広さで机とソファがあり、奥にベッドが置かれていた。

 瞬間、誰もいないように思えたが、ベッドの枕元に置かれた蝋燭の灯りに照らされ彼の金髪が見えた。


「キアノス副長……?」


 眠っているのか、私たちが部屋に入っても何も反応がない。

 ラディスは扉を閉めるとかちりと鍵をかけた。

 彼の後についてベッドに横になるキアノス副長の姿を間近で見て、私は息を呑んだ。


 顔色は青白く頬はこけ、まるで別人のようにやつれたその姿にショックを受ける。

 イリアスは疲れている様子だったと言っていたけれど、こんな酷い状態だとは思わなかった。

 あまりに静かで一瞬息をしてないのではないかと不安になったが、ゆっくりと胸が上下していて少しほっとする。


「なんで、こんな……」

「倒れたのは今日の夕刻だ。それから急速に悪化している」

「え?」

「おそらく、これは呪いだ」

「呪い?」


 隣に立つラディスが憎々し気に続ける。


「呪いは、『魔女』が最も得意とする術だ」

「!」


 驚くと同時に、やっぱりと思ってしまった。

 先ほど食堂で「聖女様」の名が出て、もしやと考えてしまった。

 だって彼女、フェリーツィアは最近キアノス副長にべったりだと聞いていたから。


「気付けなかった、俺の落ち度だ」


 悔しそうに、ラディスが強く拳を握るのを見た。


「本当なら、こうなっていたのは俺の方だったのかもしれん」

「!」


 ――そうだ。元々彼女は団長であるラディスの傍にいた。

 だからラディスはキアノス副長がこうなったのは自分のせいだと責任を感じているのだ。


 そして、彼は縋るような真剣な目を私に向けた。


「頼む。キアノスを助けてやって欲しい」


 断る理由なんかない。

 私は力強く頷く。


「やってみる」




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