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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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3/55

男装聖女は騎士見習い 3


 私が聖女の力に気付いたのは、この世界に来て一月ほどが経った頃だ。


 一向に帰れる気配はなく、半ばやけくそ気味に食堂兼宿屋で皿洗いをしている最中、欠けた皿で指を切ってしまった。

 血の溢れてきたその指先を見つめながら、ふと考えたのだ。

 もし本当に私が伝説の聖女なら、もし本当に絶大な力があるというなら、こんな傷すぐに治せるのではないか。


 ダメ元で私は願ってみた。治れ、治れと繰り返し呪文のように念じてみた。

 すると傷の部分がぼんやりと光り出したように見えた。目の錯覚かと思い一度目を瞑り、そしてすぐに目を開け私は驚愕した。

 今さっきまで確かにあった傷が綺麗に塞がっていたからだ。


 まるで魔法だ。本当に私は聖女だったのだと正直興奮を覚えた。

 幼い頃、所謂「魔法少女」に憧れていたことを思い出した。可愛い女の子たちが変身しカッコ良く戦う姿がたまらなく好きだった。


 それから私は隠れて色々試してみた。

 その中で「変身」、姿を変えられることも知ったのだ。

 といっても、誰か別の人物に成りすますことは出来なかった。

 あくまで元の自分の姿がベースとなる。

 だからトーラの姿は、一人っ子の私にもし歳の近い兄か弟がいたらこんな感じだろうなぁという、ごく平凡な男子の風体だ。


(折角なら、もっとイケメンになりたかったけど)


 そう、この聖女の力も万能というわけではなかった。


 まずどんなに強く願っても、何度念じても向こうの世界には帰れなかった。

 それと一度にふたつの奇跡は起こせないようだ。

 例えば男の姿でいるとき治癒の力は使えない。

 怪我をして治したいと思ったら一度元の姿に戻らなくてはならなかった。


 それと所謂「攻撃魔法」は使えない。

 そこはやはり『聖女』。攻撃よりも守備の方に特化した力なのだろうと私は納得した。


(ちょっと使ってみたかったけどな)


 そんな制限の多い聖女の力だが、一番感動したのはこの身一つで空を飛べることだ。

 これは本当に最高だった。まるでピーター・パンになった気分で自由に空を飛び回れるのだ。

 食堂兼宿屋の狭い部屋を抜け出し夜空を散歩することが、私の毎日の楽しみになった。

 空を飛んでいるときだけは、この世界に来て良かったと思えるのだった。


 しかしそれも寄宿舎に入ってからは我慢するようにしている。

 空を飛ぶには一度元の姿に戻らないとならなかったし、同室のイリアスに気づかれでもしたら大変だ。

 それでもごくたま〜に、あまりにもストレスが溜まったときなんかはこっそりと寄宿舎の窓から夜空へと飛び出している。

 ちなみに前回飛んだのは3回目の昇級試験に落ちた日である。


 今のところ、聖女の力についてわかっているのはこのくらいだ。

 絶大というわりに出来ないことが多く、この力でどうやって国を未来永劫繁栄させるというのか私にはさっぱりわからなかった。

 伝説なんていい加減なものだなと思った。


(それにしても、さっきの噂……)


 先ほど聞いたイリアスの話が少し気になった。

 国を挙げて大々的に聖女の捜索が始まってからそろそろ3ヵ月。そんな噂が立っても仕方ないとは思うけれど。


 私のことを知るのはあのラディスだけ。

 寄宿舎に入ることが決まり食堂兼宿屋を去るとき、お世話になった女主人には一応あいつへの伝言を残しておいた。

「もし私のことを訊かれたら、故郷に帰ったと伝えてください」と。

 それを聞けば、あいつなら元いた世界に帰ったと伝わるはずだ。


 といっても、私があの店で働いている間あいつは一度も顔を見せなかった。

 あいつの紹介だったのにだ。普通、たまにでも様子を見にきたりするものではないだろうか。

 私に……聖女に、本気で興味がないのだなと少し腹が立った。


(聖女は姿を隠してる、か。……ま、男になって城内にいるなんて誰も考えないだろうしな)


 そう、私は気にしないことにした。



 ――しかし、それから数日後のことだ。



 その日の鍛錬が終わり、回廊に囲まれた訓練場の端っこで汗を拭きつつ一息ついていたときだ。

 ラディスの奴がこちらにやってくるのが見えた。

 また何か言われるのではと睨みつつ身構えていると、奴はすれ違いざまに低い声で言った。


「今夜、俺の部屋に来い」

「――は?」


 聞き間違えかと思い振り返った時にはもう奴は回廊を歩いていて。


「どうした、トーラ」


 汗だくのイリアスがこちらに歩いてくる。


「いや、あいつが……」

「あいつって、ラディス団長か?」


 私の視線を追ってイリアスは首を傾げた。


「なんか、夜部屋に来いって」

「へぇ……はぁ!?」


 イリアスが一拍遅れてぎょっとした顔をして、私はそんな友人を見上げ眉をひそめた。


「オレ、なんかしたか?」



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