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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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28/55

男装聖女は尋問される 1


「それで、どういうわけだ?」


 そう問われ、私は一年前まで働いていた宿の一室でダラダラと冷や汗を流していた。


 ――あの後、ラディスは宿に戻りヴィオーラさんに少しの間部屋を借りたいと頼んだ。

 ヴィオーラさんは私たちの表情から只事ではない雰囲気を感じ取ったのだろう。


「別に構いやしないけど……一番奥の部屋が空いてるよ」


 そして2階に上がっていく私たちを心配そうに見送っていた。


 ラディスは奥の部屋に入ると私を化粧台の椅子に座らせ、自分はベッドに腰を下ろした。

 そして先ほどから腕を組み私が話し出すのを待っている。


(どうしよう……)


 私は俯き、どこからどこまで話すべきか迷っていた。

 化粧台の上には例の花束が置かれていた。あの後ラディスが拾い上げ、ここまで持ってきたのだ。

 あのときのザフィーリの青ざめた顔が脳裏に浮かぶ。

 私の話し方次第で、あいつの立場が悪くなってしまうのでは……。そう思うと、なかなか言葉が出てこなかった。


 そんな私に痺れを切らしたのか、ラディスは小さく息を吐いた。


「……あの男、ザフィーリと言ったか?」


 私はコクリと頷く。


「確か、先日騎士になったばかりだったな」

「……そ、そう」

「残念だが、騎士の称号は剥奪だな」

「! ま、待ってくれ!」


 顔を上げ、必死な声を上げていた。

 それは、いくらなんでも酷すぎる。

 そんな私の反応を見て、ラディスの目がスッと冷たくなった。


「お前とあの男との関係は?」

「友人だ」


 はっきりと答える。

 さっきザフィーリもそう言ってくれていたから間違いない。


「それはトーラのか、藤花のか」

「と……トーラの」

「では、お前……藤花との関係は?」

「そ、それは」

「なぜあいつがお前のことを知っている。なぜ花束など贈られていた? そもそも、お前はなぜ今都にいるんだ」


 どんどん語気が強くなっていくのを感じて、私は慌てて両手を前に出した。


「わかった! ……最初からちゃんと説明するから」


 私は一呼吸置いてから、ゆっくりと順を追って話し始めた。


 昨夜、うっかり藤花の姿でザフィーリに会ってしまったこと。

 そしてなぜか一目惚れをされたらしいこと。

 今朝そのことで問い詰められ、仕方なく藤花は妹という設定にしたこと。

 もう一度会いたいと言われ、この宿に泊まっているはずだと言ってしまったこと。

 そして、その辻褄合わせのために女将さんに協力をお願いしようと急いで都に来たこと。


「でもまさかラディスがここにいるとは思わなかったし、ザフィーリもてっきり来るなら夜だと思ってて……」


 そこまで話すと、ラディスは案の定呆れたように大きなため息を吐いた。


「事情はわかった。しかし、なぜ俺に一言相談しなかった」

「だって完全に私のミスだし、忙しいお前に余計な手間をかけさせたくなかったし」


 ラディスがもう一度短く息を吐くのを聞いて、私は続けた。


「ザフィーリは私と一緒で昼休憩の時間を使って都まで来たんだと思うんだ。私が急がせるようなことを言ったから……。だから、騎士の称号の剥奪だけは勘弁してやってほしい。頼む!」


 私は立ち上がって深く頭を下げた。


「……なぜそこまであいつの肩を持つ」

「だって、あいつは同期で、友人だから」


 ザフィーリは誰とも連んだりしない一匹狼タイプだけれど、ひとりでしっかり努力して騎士の称号を手にしたのだ。

 そんな彼のことは誰もがちゃんと認めている。イリアスだって、口では文句ばかりだけれど、その実力はちゃんと認めているはずだ。


「ザフィーリは私たち同期の中でも一番真面目で、一番騎士に向いていると思うんだ」


 それをこんなことでその名を剥奪されてしまったら、きっとショックで立ち直れないんじゃないかと思った。


「だから、」

「その真面目な奴が女にうつつを抜かし、こんな腑抜けたことを考えたわけか」


 ――っ!


 その冷静な言葉に、胸を抉られたような気がした。


「仕方ないだろう!」


 思わず大きな声を出すと、ラディスが目を大きくしてこちらを見上げた。


「好きになったら頭の中その人のことばっかりになるし、ちょっとしたことで馬鹿みたいに浮かれたり不安になったりするし……自分でも抑えがきかないんだ!」


 ――まるで、自分が言われたような気がした。

 以前までの私だったら、ラディスと同じように思っただろう。

 あいつ、馬鹿だなと。

 でも、今はあいつの気持ちがわかるから。


「恋ってそういうもんだろ? お前には、わからないかもしれないけど」


 そう言った途端だった。

 ラディスの顔が怒りに歪むのを見た。


「!」


 ぐいと強く腕を引かれ、気付いたら私はベッドに押し倒されていた。


「――なっ!?」


 両腕をベッドに押さえつけられ、そんな状況にかぁっと顔が熱くなる。

 しかし怒りを孕んだ緑の双眸に見下ろされ私は息を呑んだ。


「俺だって、十分お前に狂わされている」

「え……?」


 その口端がいびつに上がる。


「惚れられて、絆されたか?」

「え?」

「良かったな、相思相愛じゃないか」


 ラディスが何を言っているのかわからない。


「だが、悪いが俺はお前を手放すつもりはない」




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