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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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22/55

男装聖女はドジを踏む 1


「また何か動きがあれば合図を送る。おやすみ」


 そう言って、ラディスは武器庫裏から寄宿舎の方へと戻っていった。

 誰かに一緒にいるところを見られたらマズイので、いつもこうして時間差で戻るようにしている。

 これまでは私の方が先に戻っていたのだけど、今日はラディスに先に戻ってもらった。


「……」


 そして、残った私はヘナヘナとその場に蹲った。


 ……キス、してしまった。


 ラディスと、キスをしてしまった……!


(うわぁーーっ!)


 まだ火照っている顔に手を当て私は心の中で思いっきり叫んだ。

 ……なぜ今回残ったのか。

 もう少し夜風に当たってこの熱を冷ましたかったからである。


(アイツ、キス魔か!?)


 こちとら初めてだったというのに何度も何度も……!

 そしてまた思い出して私はひとり悶絶した。


(っていうかアイツ、嫉妬深過ぎないか!?)


 この間のイリアスの件といい、今回のキアノス副長の件といい。

 そんなことで!? と思うようなところで不機嫌になられている気がする。

 私も聖女様のことでモヤモヤしていたので人のことは言えないが、それにしてもやっぱり過剰な気がした。

 

(それに、急に甘過ぎなんだよ!)


 ちょっと前まであんなに冷たくて怒ってばかりだったのに、急に人が変わったように甘くなって、振り回されるこっちの身にもなれと言いたい。


 ……別に、キスが嫌だったわけではないのだ。

 好かれているのがわかって嬉しい気持ちは確かにある。

 ただ、恋愛初心者の私にはとにかく刺激が強すぎた。


(だって、つい昨日お互いの気持ちを確かめ合ったばかりだぞ? 次の日もうキスなんて早過ぎるだろ!)


 もう少しゆっくりペースでお願いしたい。切実に。

 今度そう頼んでみようかと考えて、しかし、そこでラディスの言葉が蘇った。


『今日はこのくらいにしておこう』


(……まさかアイツ、これからふたりきりで会う度に何かしてくるつもりか?)


 ボンッとまた一気に顔が熱くなった。


 ……寄宿舎に戻るまで、もう少し時間がかかってしまいそうだ。




(さすがに遅くなっちゃったな)


 結局2時間くらい外出していたかもしれない。

 私は少しの焦りを覚えつつ、寄宿舎の長く暗い廊下をなるべく足音を立てずに進んでいた。

 一応イリアスに気付かれたときの言い訳は色々と考えてあるけれど、それでもやっぱり気が急いた。



 ――このときの私はまだ気付いていなかった。


 キスで動揺し過ぎて、自分がいつもは絶対にしないミスをやらかしていることに。



 自分の部屋まであと少し、というときだった。


「!」


 その何部屋か手前の扉が、ギィと音を立てて開いた。


(誰だ?)


 緊張を覚える。

 暗くてどの部屋の扉かよくわからない。

 が、しかし、こういうときの対応もちゃんと考えてあるので慌てなくて大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせ、私はそのまま平然と廊下を進んだ。

 そして、開いた部屋から出てきた人物は。


「ザフィーリ」

「!?」


 おそらくはトイレにでも起きたのだろう。

 いつもはきちんと整っている銀髪が寝癖で酷いことになっているが、そんなザフィーリの目が私を見て驚きに見開かれた。

 そりゃ、こんな夜中に誰かに会ったらびっくりするよなと思いながら私は苦笑する。


「いやぁ、眠れなくってさ、ちょっと外に出て星を見てたんだ。んじゃ、おやすみ」


 こういうときのために考えていた台詞を言って、私は手を振りながら彼の横を通り過ぎた。

 そしてそのまま一度も振り返らずに自室の扉を開け中に入った。

 パタンと後ろ手に扉を閉めると途端イリアスの大きないびきが聞こえてきて、妙にほっとした。


(というかザフィーリの奴、おやすみの返事もなしかよ)


 相変わらず無愛想な奴だなと思いながら自分のベッドに上がろうとして、私はぴたりと動きを止めた。

 視界の端に、自分の長い髪が見えた気がした。

 

(……え!?)


 私は自分の頭に手をやる。――やっぱり、髪が長いままだ。

 サーっと血の気が引いていくのを感じた。

 勢いよく窓の方を見る。

 そこには案の定、トーラではなく『橘藤花』が映っていた。


(やらかした……!)


 そうだ、空中散歩を終えるといつもならすぐにトーラの姿に変身するのに、今日はすっかりそのことを忘れてしまっていた。


 先ほどのザフィーリの驚いた顔を思い出す。

 知らない女が真夜中に寄宿舎の廊下を歩いていたら、そりゃびっくりもするだろう。


(ど、どうしよう……)


 よりにもよって、あのザフィーリに見られてしまうなんて。

 しかも、この部屋に入るところもばっちり見られたはずだ。


 足を投げ出し気持ちよさそうに爆睡しているイリアスを見つめながら、私はしばらくの間呆然と立ち尽くした。




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