男装聖女は騎士団長に愛される 6
「いつもながら見事だな」
「え?」
声の方を向くとラディスの顔がやっぱり近くて慌てて私は視線を前に戻した。
(近過ぎだって!)
夜空は綺麗なのに、いつものようにそれを楽しむ余裕が無かった。
「この力だ」
「あ、ああ」
「この力を皆に見せてやれたらな」
「え!?」
まさかの台詞に流石にびっくりする。
「そうすれば、あの女が偽物だと皆信じるはずだ」
「あ、ああ。そういうことか」
余程例の聖女様に対して苛ついている様子だ。
「そうだ、訊きたいと思ってたんだ。やっぱりあの聖女様も私みたいな不思議な力を持っているのか?」
「だから、聖女様はお前だろう」
「あ、つい癖で」
苦笑して、そういえばと訊く。
「あの子、名前は?」
「フェリーツィアだ。偽名かもしれんがな」
「フェリーツィア……」
聖女フェリーツィア。
なんて聖女様らしい綺麗な響きの名前だろう。
「お前ほどではないが、奇跡の力は一応持っているようだ。俺は見ていないがな。王はその力を見て聖女に間違いないと」
「へぇ、どんなことをしたんだろう」
「一瞬のうちに花を咲かせたとか」
「へぇ!」
これまたなんて聖女様らしい綺麗な奇跡だろう。
あの子にぴったりだ。
「私も見たかったな」
「お前もそのくらい出来るんじゃないか?」
「え、どうだろう。今度やってみようかな」
花を咲かせるなんて考えたこともなかった。
そして、私は一番気になっていたことを訊くことにした。
「彼女、魔女って可能性はないのか?」
するとラディスは頷いた。
「その可能性は俺も考えている。聖女以外で奇跡の力を持つ者がいるとしたら魔女しかいないからな」
「やっぱり!」
興奮を覚える。
彼女がもし本当に魔女なのだとしたらその力をこの目で見てみたい!
そして俄然、彼女と話してみたくなった。
でもなぜかラディスは呆れ顔だ。
「なんで嬉しそうなんだ」
「だって魔女だろ? 私のいた世界じゃ魔女ってのは、なんというか、女の子の憧れみたいなもんで」
「魔女が憧れ?」
ラディスが眉を寄せ、短く息を吐いた。
「異世界とはこうも違うものか」
「え?」
「この世界で魔女は忌避される存在だ」
「忌避……?」
「そう。恐れられ疎まれている。聖女とは真逆の存在だ」
それを聞いて私はショックを受ける。
でも、よく考えたら向こうの世界でもひと昔前まで「魔女」とはそういう存在だったのだ。
私は昔習った「魔女狩り」という言葉を思い出していた。
「じゃあ、もし彼女が本当に魔女で、魔女だってことがバレたら?」
「処刑だろうな」
「!? な、何もそこまでしなくても!」
「あの女もそのくらい覚悟の上で城内に入り込んでいるのだろう。一体何を企んでいるのか……」
ラディスは城の方を睨むように目を細めた。
確かに、そんなリスクを負ってまで今聖女だと名乗り出てきた理由は気になる。
「……今は、どうしてるんだ?」
「相変わらずだ。与えられた部屋で優雅に過ごしている」
きっと豪華な部屋なんだろうなと想像して、ふと思い出したのはあの夜のことだ。
「……あれから部屋に来たりとかは?」
「ない」
それを聞いてちょっとだけホッとする。
あの夜見てしまった光景を思い出すと、未だに胸がもやもやするのだ。
「俺の態度が気に食わなかったのだろう。最近はキアノスの奴にべったりだ。アイツは誰に対しても優しいからな」
「そこがいいんじゃないか。キアノス副長は」
「は?」
キアノス副長と並ぶフェリーツィアを思い浮かべて、これまた絵になるふたりだなぁと思った。
(でも金髪同士だし、兄妹にも見えるかも?)
「キアノス副長には、彼女が偽物かもって伝えてあるのか?」
「……いや、だが聖女と言えどあまり甘やかすなとは言ってある」
「そっか……」
私の存在を話せないのだから仕方ないが、もどかしい。
ラディスが先ほど私の力を見せられたらと言っていた気持ちがわかる気がした。
「お前は、キアノスが好きなのか?」
「え?」
急にそんな低い声が聞こえて視線を上げると、頗る不機嫌そうな顔があった。
「今言っただろう、キアノスはそこがいいと」
思わずぽかんとその顔を見てしまった。
「言った、けど……」
その眉根が更に寄るのを見て、漸く私は慌てる。
(なんか、妙な誤解をされてる!?)
「いや、好きとかそういう意味じゃなくて! 普通にキアノス副長は優しいとこがいいよなって意味で」
「同じ意味に聞こえるが?」
「や、だから、キアノス副長はいい上司だって意味で」
「俺はいい上司ではないか?」
「そんなこと言ってないだろ!?」
確かに以前はムカつく上司だと思っていたけれど、でも今は――。
「私が好きなのはラディスだけだって!」
勢い付いて言ってしまってから、自分の恥ずかしい台詞に気付いてかぁっと顔が熱くなる。
「うわっ!?」
途端、横抱きのままぎゅうと強く抱きしめられた。
「嬉しい」
本当に嬉しそうな顔がすぐ近くにあって、余りの近さに頭が爆発するかと思った。
そしてそのとき、唇に冷たい感触を覚えた。
――え?
触れ合うほど近くに彼の長いまつ毛が見えた。
小さな音を立てて離れたそれがラディスの唇だとわかって。
(!!!?)
キスだ。
私は今、ラディスからキスをされたのだ。
勿論私にとってはファーストキスで、なのに突然すぎて何もわからなかった。
でも、そんな私を見つめるラディスの目は酷く優しくて。
「藤花」
愛おし気に名を呼ばれて、それだけで金縛りにあったようにその深いグリーンから目を逸らせなくなった。
そんな私に、ラディスはもう一度、二度と続けて啄むようなキスを落とした。
そのたびに身体がびくびくと反応してしまう。
ラディスがふっと笑うのがわかった。
「そんなに緊張するな」
「だって……んっ」
まただ。
今度は少し長めのそれに、私は耐えられずぎゅうと目を瞑った。
どうすればいいのか、こういうときの正解がわからなかった。
ようやく彼の唇が離れていって、ほっとする。
「今日はこのくらいにしておこう」
「え……」
「その様子では、また熱をぶり返しかねんからな」
「~~っ!」
色々限界で咄嗟に何も返せず、せめてもと私はラディスの胸をバシっと叩いていた。




