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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女は騎士団長に愛される 3


「復活!」


 雨上がりのキラキラとした朝日を浴びながら両手を上げ、私はそのままぐーっと伸びをした。

 まだ怠さは多少残っているが、これはきっと昨日ずっと寝ていたせいだろう。

 身体を動かせばすっきりするはずだ。


 隣のベッドではまだイリアスが寝息を立てていて、私はいつものように声を掛けた。


「イリアス朝だぞ! 起きろー!」


 すると「んあ?」とか変な声を出してイリアスは半分目を開けこちらを見上げた。


「トーラ? もう平気なのか?」

「ああ、もうすっかりな!」


 言って両腕を振り上げて見せる。


「昨日は色々ありがとな」

「なら良かった。ふあ~~」


 イリアスは大欠伸をしながら起き上がり、そうだと思い出したようにこちらを見た。


「昨日お前寝てたから言えなかったんだけどさ、俺も聖女様のお姿見れたんだ」

「えっ」

「やぁ〜噂通り綺麗な方だった。でも俺もお前の言う通りどっちかっていうと可愛らしい人だと思ったな」

「そ、そうだったのか。良かったな」


 嬉しそうに話すイリアスを見ながら、私は昨日のラディスの話を思い出していた。


 ――あれは偽者だ。


 ――戦を早めたい誰かが送り込んだという可能性も……。


 イリアスにも教えたいけれど、でも今のところラディスがそう言っているだけで確証はない。

 それに、なんでそんなことわかるんだよと問われたら私には答えようがない。


(私が聖女だから、とは言えないもんな……)


 また、イリアスに隠し事が出来てしまったことになる。

 胸のざわざわはなくなったけれど、罪悪感でまた胸が痛んだ。




 食堂に行くと、よく話す皆が私の姿を見つけ声を掛けてきてくれた。


「トーラ! もう大丈夫なのか?」

「あぁ。もう、すっかり。ありがとな」

「そりゃ良かった。……昨日イリアスの奴が寂しそうだったからよ」


 そう大きく耳打ちされて、トレーを持って前を歩いていたイリアスが半眼で振り向いた。


「おい、聞こえてんぞ。寂しかったんじゃなくて心配してたんだっつーの」


 はいはいと笑いながらそいつは自分の席へと行ってしまった。


「ったく……」


 そんなイリアスの後ろ姿を見ながら、私はにーっと笑いながら言った。


「今度お前が体調崩したら、オレがしっかり看病してやるからな!」

「なんだよそれ」


 そうして、私たちはいつもの席に着いた。

 今日の朝食はミルク粥だ。胃に優しそうで回復したばかりの身体には有難かった。

 早速食べ始めながらイリアスが言った。


「そういや、聖女様の力で昨日みたいな風邪も治せたりするんかな」

「え?」

「なんか、できそうじゃね?」


 それを聞いて私はミルク粥を口に運ぼうとしていた手を止め、ぽかんとしてしまった。

 ……そうだ。昨日は全く思いつかなかったけれど。


(傷が治せるんだから、風邪も治せたんじゃないのか?)


「まあでも聖女様に風邪を治してください、なんてお願いできるわけねーよな!」

「そ、そうだよな!」


 イリアスと一緒に笑いながら、私は心の中で昨日試してみればよかったーと悔やんでいた。

 でもその後でふと気付く。


(そういえばあの子、聖女の力は使えるのかな)


 私が今この時も使っているこの聖女の力が、自分が聖女だという一番の証拠になる気がする。

 それがあるから、皆彼女が聖女様だと信じたのではないだろうか。

 ラディスは皆疑っていないと言っていた。いきなり「私が聖女です」と名乗り出てきて、ただ美人だからという理由だけで城の皆が信じたとは思えない。

 だとしたら、彼女も何か特別な力を持っているのではないか。


 この世界には聖女のほかにも不思議な力を持った者、所謂『魔法使い』や『魔女』と呼ばれる人たちが存在すると前働いていた宿で聞いたことがある。

 でもとても珍しく、大抵はどこか秘境でひっそりと暮らしているものらしい。


(もしラディスの言う通り彼女が聖女じゃないとしたら、魔女って可能性もあるのか)


 ――魔女。

 なんて心惹かれる言葉なのだろう。

 聖女の力に気付いた時と同じように、子供心がうずいてしまった。


(その辺の話も、今度ラディスに会えたら訊いてみよう)




 2日ぶりの馬の世話はやっぱり楽しかった。

 先日と同じ作業に加え、今日は馬のブラッシングをすることができた。

 気持ちよさそうな馬を見て、こちらも嬉しくなって丹念にブラッシングしてやった。


 そんなときだ。


「もう、身体はいいのか?」

「へ?」


 振り向くと、ラディスがいた。


「なっ! なんで、こ、こちらに?」


 他の奴の目を気にしながら慌てて訊くと、彼はラディス団長の顔で答えた。


「イェラーキの様子を見に来た」

「あ、ああ」


 イェラーキ。確かラディスの愛馬の名だ。

 こことは別の場所にいるとは聞いているけれど。


「それで、身体は」

「あ、もう大丈夫です! ご心配おかけしました!」


 そう言ってガバッと頭を下げる。


「それならよし」


 そう言って背を向けたラディスに、私は思い切って声を掛けた。


「あ、あの!」

「なんだ」

「……イェラーキ、オレも見てもいいですか?」


 ラディスはちょっと眉を寄せたけれど、再び背を向けながら小さく言った。


「……ついて来い」

「あ、ありがとうございます!」


 あのとき乗ったカッコイイ馬にまた会える。

 私の心は踊った。




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