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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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16/55

男装聖女は騎士団長に愛される 1


「離せ!」


 ドンっと、私はその胸を突き飛ばした。

 結構力を入れたつもりだったが、ラディスは私から手を離しベッドに腰を下ろしただけだった。

 でもその目は驚きに見開かれていて。


「――な、なんだよお前、聖女なら誰でもいいのかよ!」


 そんな言葉が口を突いて出ていた。

 ラディスが眉をひそめる。


「なにを、」

「知ってんだからな! お前昨日、聖女様と部屋で……っ」


 そこまで言ってしまってから、しまったと口を噤む。

 溜息を吐いて彼は言った。


「見ていたのか」

「……」


 また目が見れなくなってしまった。

 でも、彼は否定しなかった。

 そのことにまた胸がざわついて、私はせめてもと小さく弁解する。


「覗いたわけじゃないからな。戻ろうとしたときに偶然、窓から見えちまっただけで」

「あの女が、眠れないからと勝手に部屋に入ってきたんだ」


 ラディスの口から出たその言葉を聞いて、さすがにぎょっとする。


「あの女って……聖女様だろ?」

「あの女は聖女などではない」

「……は!?」


 サラッと言われた言葉に、一拍置いてから驚き私は顔を上げた。

 不機嫌そうにラディスは続ける。


「他の者は疑ってもいないようだがな」

「な、な、」

「あれは偽者だ」

「……な、なんで」

「昨日、お前とその話をしようと思っていたのに、あの女の意味のない長話のせいで」

「なんで偽者だって、わかんだよ……」


 思わず声が大きくなっていたことに気付いて尻すぼみになりながら訊くと、ラディスはさも当然のように言った。


「何度も言っているが、お前が聖女だからだ」

「っ、」


 不覚にもどきりと胸が鳴った。


「でも、私は……」


 視線を落として、ぎゅっと拳を握る。


 あの聖女様があまりにも理想の聖女様で。

 誰がどう見たって、彼女の方が聖女の名に相応しくて。

 それに比べて私は、ただ異世界からやって来て、ちょっと特別な力が使えるだけのガサツな女で。


「私の方が、偽者かもしれないだろ……」

「橘藤花」


 もう一度本当の名を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げるとやけに優しい瞳があった。


「お前は間違いなく、伝説の聖女だ」


 微塵も疑いのない確信に満ちたその言葉にぐっと喉の奥が苦しくなって、その途端だった。


「――あ、あれ?」


 身体が淡く輝き出したかと思うと、元の女の姿に戻ってしまった。

 戻れと願ってなんていないのに。


「な、なんで……」


 無意識に戻りたいと願ったのか、それともやはり熱のせいでこの力もおかしくなっているのだろうか。

 どちらにせよ、今誰か、イリアスでも部屋に入って来たら大変だ。

 早くトーラの姿に戻らなければと慌てて集中しようと目を瞑って。


「そのままでいい」

「!」


 彼が私の両手を握っていた。

 手なんてもう何度も繋いでいるのに、胸がドキドキした。

 真剣な瞳とぶつかって、でも咄嗟にまた逸らしてしまった。


「……なぜ、目を合わせようとしない」

「べ、別に……」

「昨日もだ。俺の合図から目を逸らしただろう」


 やっぱり気付かれていた。


「……」


 バツが悪くて答えられないでいると、ラディスは言った。


「俺が、好意を伝えたからか」


 私は下を向きながら目を見開いた。


 ――好意?


「自分でも、いささか急過ぎたとは思っている。もし迷惑だったのなら、はっきり言って欲しい」


 珍しく歯切れの悪い、弱気な声を聞きながら私は目線を上げていく。


「好いた女に避けられるのは、存外キツい」


 眉を下げ、なんだか情けない顔をしているラディスに、私は呟くように言った。


「……好いた女って?」


 すると、ラディスは凄くへんてこな顔をした。


「……先日、伝えたはずだが?」

「……ほかの奴に触れさせるなとは聞いたけど」

「……」

「……」


 少しの沈黙の後、はあ、とラディスはめちゃくちゃデカい溜息を吐いた。


「まさか、伝わっていなかったとは……」


 脱力したように俯いてしまったラディスを見て、急に恥ずかしくなってきた。


「だ、だって、好きとは言われてないし、騎士は聖女を護るもんだってイリアスから聞いて、だからてっきりそういう意味なんだと思って」


 それで勝手に落ち込んで、うまく目を見れなくなっていたなんて、恥ずかし過ぎて言えるわけがない。


(じゃあ、ラディスは本当に私のことが……)


 と、ラディスは急にぴくりと眉を上げ低い声を出した。


「またあいつか……」

「え?」

「いや。……確かに、騎士には聖女を護るという役目があるが」


 私の両手を握る手に、力がこもった。


「俺は騎士ではなく、ひとりの男としてお前に惚れたんだ」




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