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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女ともう一人の聖女 5


「……ラ、おーい、トーラ?」


 そんな声が聞こえて、私は重い瞼を上げていく。

 こちらを覗くイリアスの顔が見えた。


「イリ、アス……?」


 自分の出した声が、酷く掠れていることに気付く。

 軽く咳をしてから、私は窓の方を見た。

 もう夜は明けているようだが曇っているのか薄暗い。

 それから雨音が耳に入ってきた。


(そうだ、雨。昨日降り出したんだった)


 ――あの後、胸がざわざわと落ち着かなくて、部屋に戻っても眠れる気がしなくて、私はしばらく空中散歩を続けた。

 そうしたら雨がパラパラと降り出して、仕方なく私は部屋に戻り無理やりに眠ったのだ。


「そろそろ起きないとヤバイぞ」

「ん……」


 そうして私はゆっくりとシーツをはいで起き上がった。

 身体が酷くダルい。さすがに夜更かしが過ぎたかもしれない。


「珍しいな、お前がこんなにギリギリまで寝てるの」

「ん……」


 ベッドから足を投げ出したものの立ち上がるのが億劫で、そのまま座っていると。


「トーラ?」

「ん?」


 顔を上げると、急に額に手のひらが当てられた。

 それがひんやりと気持ち良くて目を瞑ると、イリアスが言った。


「やっぱり。お前熱あんじゃねーか」

「……熱?」


 そうか。だから身体がこんなにかったるいのかと納得する。

 熱を出すのなんて何年ぶりだろうか。

 インフルエンザが流行り学級閉鎖になったときだって元気だったのに。

 やはり、昨夜長いこと空を飛んで更に雨に打たれたのがいけなかったのだろうか。


 イリアスが溜息交じりに言う。


「今日は一日寝てるんだな」

「でも、馬の世話が」

「馬よりまず自分の身体だろ。先輩には俺から伝えておくから。食欲はあるか?」

「……あんまりない」

「少しでも食べたほうがいいから、食堂から持ってきてやるよ」

「でも、」

「とりあえず寝ろ」


 強めの口調で言われて、私は再びベッドに横になった。

 満足そうに頷いているイリアスを見上げ、私は言う。


「ありがとう、イリアス」

「こういうときはお互い様だろ?」


 ニカッと笑った友人を見て、やっぱりこいつと同室で良かったと思った。




 イリアスが持ってきてくれたポタージュスープを飲んで、私はもう一度眠りについた。

 熱を出すのは久しぶりだけれど、こういうときに見る夢は大抵悪夢だ。


 得体のしれない何か大きなものが迫ってきて、逃げたいのに足が思うように動かない。

 そんな私の前に死んだはずのお母さんとお父さんが現れて、私の代わりのようにその悍ましい何か大きなものに飲み込まれていく。

 私は必死で叫んで、叫んで、でも何も出来なくて、ついには私まで飲み込まれそうになってもうダメだと思ったそのとき、頬に冷たい感触を覚えて私はハッと目を覚ました。


(夢……?)


 ドクドクと心臓の音が煩い。

 息を止めていたのか苦しくて深呼吸を繰り返していると。


「大丈夫か?」


 そんな声が聞こえた。

 ベッド横に人影があった。だが部屋が暗いせいでよく見えない。

 もう夜になってしまったのだろうか。


「イリアス?」

「……違う」


 その聞き覚えのある低い声とこちらを見下ろす深いグリーンに気付いて、私はガバっと起き上がった。


「ラディっげほっ、ごほっ!」


 急に大きな声を出そうとしたせいで思いっきり咳き込んでしまった。


(なんで、こいつが……っ)


「ほら、飲め」


 目の前に水の入ったコップが差し出されて、私は咳をしながらそれを受け取り喉を潤すようにゆっくりと飲んでいった。冷たい水が胃に落ちていく感覚が心地いい。

 激しい雨音に気付いて窓を見れば朝より更に酷くなっているようで、そのせいで部屋がこんなに暗いのだとわかった。


「ありがとう、ございます」


 水を飲み干して、目は見れずにお礼を言う。


 ……正直、しばらく会いたくなかった。


「お前が寝込んだと聞いてな」


 そうラディスは言った。

 イリアスは先輩騎士に伝えると言っていたが、やはり団長の耳にも入るのだろうか。


「ご心配をお掛けしてすみません」


 頭を下げる。


「寝てれば治るので、大丈夫です」


(だから早く出ていってくれないかな)


 そう心の中で付け足す。

 こいつに情けない姿を見られたくなかった。

 それに、やっぱりうまく顔が見れなかった。

 どうしても、昨夜見たあの光景が頭に浮かんでしまう。


「昨夜はすまなかった」

「!」


 謝罪されて、やはり昨日のあれは私の勘違いではなくちゃんと“合図”だったのだとわかり、私はシーツをぎゅっと握りしめた。


「急用が出来て行くことができなかった。……もしかして、雨の中俺を待っていてくれたのか?」

「んなわけないだろ!」


 思わず、大きな声が出てしまっていた。

 お陰でまた喉に痛みを覚えて、一度咳をしてから私は笑顔を作った。


「そりゃちょっとは待ったけど、勘違いだったかなと思ってすぐに部屋に戻ったから」

「……なら、いいが」

「だから、早く聖女様のとこに戻ってやれって」

「は?」


 呆けたような声が返ってきて、私は握りしめた自分の手を見下ろしながら続ける。


「聖女様をお護りするのが騎士団長の役目だろ。こんなとこにいないで早く行ってやれって。風邪うつしちまうかもしれないし」

「……何を言っている?」


 その声が不機嫌なものに変わって、こちらも少し強い口調で繰り返した。


「だから、聖女様のとこに早く戻れって!」


 とにかく早くこの部屋から出て行って欲しかった。

 でないと、熱のせいで余計なことまで口走ってしまいそうだった。


 ――なのに。


「!?」


 急に立ち上がったラディスが私の両肩を強く掴んだ。


「さっきから何を言っている。聖女はお前だろう、藤花」




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