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第七話:剣の霊脈


博物館の空調がキンキンに冷えた空気を吐き出し、ガラスケースの表面がひんやりと俺の指先に触れる。静かな展示室で、遠くで観光客のヒソヒソ声と足音がカツカツ響く。俺は、こんなとこで心臓バクバクさせて立ってるなんて、普通に考えたらおかしな話だろう。人生、マジで何が起こるか分かんねぇ。隣には、ピンクのフリルワンピに帽子を被った焔華。10歳のガキにしか見えねぇけど、狐耳がハットの穴からピョコンと飛び出して、ピクピク動くのが怪し過ぎる。コイツが、四国の大妖怪、焔華だ。1400年前に伊予国を焼き尽くしたってヤツが、今はガラスケースに顔をベッタリくっつけて、ぶつぶつ言いながら国宝の三明剣をジロジロ睨んでる。


「ふん! 間違いない、これじゃ! 妾の三明剣が一つ、『大通連』! 保存状態は思ったより良いが、妾の大事な剣を人間どものガラス箱に閉じ込めるとは、笑止千万じゃ!」


焔華の高慢な口調が、展示室にチラッと響く。赤い目がギラリと光って、小さい体がガラスケースにグイッと寄りかかる。傍から見たら怪しい。ヤバい、目立つなよ! 周りの観光客がチラチラこっち見て、俺の背中に冷や汗がツーッと滑り落ちる。コイツの肌は、ヒンヤリ冷たいのに、興奮するとジワッと熱くなる。熱を帯びて周囲が暖かくなる霊体の感じ、ほんとヤバい。こいつのワンピの下が、ノーパンなのも心臓に悪い。


「焔華、声がデカい! 静かにしろよ! つか、この剣、なんかすごそうなのは分かるけど、見るだけじゃねぇんだろ? どうすんの、これ?」


俺は、ヒソヒソ声で囁きながら、ガラスケースの中の三明剣をチラッと見る。錆びた刀身、ボロボロなのに、なんか妙な威圧感がある。1400年前の、焔華のヤバい霊力が宿ってるってんだから、ただの鉄じゃねぇんだろう。焔華は、ニヤリと犬歯を見せて、ガラスに顔をグチャッと押し付ける。


「ふん! ヨシノブ、お主は、いちいちビビりすぎじゃ! 要するに、人間どもにはここに剣が残ってさえおればよいのじゃろう? 特別に、ガワだけは残して置いておいてやるわ。ただし! 中身の霊力は妾のものじゃ!」


焔華の声が、なんかゾクッとするように響いた。次の瞬間、コイツの赤い目が紫色にギラッと輝き、狐耳がピクッと動く。ガラスケースの周りに、ドス黒い煙がスーッと漂い始め、硫黄みたいなキツい匂いが鼻を刺す。待て、それはヤバい! 何する気だ!? 俺は、慌てて焔華の腕をガシッと掴むけど、細い体がビリビリ震えて、まるで電撃みたいな熱さが手に走る。


「いででで! 焔華、やめろ! さっき教えたけど、ここは監視カメラだらけだぞ!」


「ハハ! 人間が作ったカラクリなど、所詮、妾の霊気に敵うと思うか? 刮目せい、ヨシノブ!」


焔華がパッと手を振り上げた。次の瞬間、ガラスケースの中で三明剣が一瞬、グニャリと揺らめく。まるで剣そのものが溶けるみたいに、青白い光がチラチラと漏れ出し、焔華の手にスーッと吸い込まれる。ガラスケースはそのまま、剣の形も崩れてねぇのに、なんか……中身がスカスカになった気がする。観光客も、警備員も、誰も気づいてねぇ。こいつ、なんかしたな。焔華は、ニヤリと笑って、満足気に俺をチラッと見る。


「ふん! これで三明剣の霊気、大通連を取り戻したぞよ。ヨシノブ、よくやった! さすが妾の霊使じゃ!」


「霊使って……俺は、別に何もしてねぇよ! つか、こんな大胆なことして、ほんとにバレねぇのか?」


俺は、冷や汗ダラダラ流しながら、周りをキョロキョロ見る。展示室は、静かなままだった。誰も異変に気づいてねぇ。焔華は、ケラケラ笑いながら、ワンピの裾をバサッと揺らして歩き出す。


「ハハ! 人間どもの目は何年経っても節穴じゃ! ほれ、ヨシノブ、さっさと行くぞ! そうじゃ、さっき通ったあの『げえむせんたー』とかいう場所、面白そうじゃのう!」


「ゲームセンター!? 待て、なんで急にそこ!?」


俺は、慌てて焔華の後を追う。コイツ、博物館で国宝の霊気を抜き取った直後に、ゲーセンとか頭おかしいだろ! 次はどうすんだよ。けど、焔華の赤い目は、なんかいつもよりキラキラ輝いてて、子供みたいにウキウキしてる。狐耳が帽子の上でピクピク動いて、ピンクのワンピがヒラヒラ揺れる。マジで10歳のガキにしか見えねぇけど、さっきの霊気奪取の力は、マトモじゃなかった。見た目は変わらねえが、中身は別物になったんだろう。コイツ、ちんちくりんな体にすげぇ力秘めてるんだな。


---


ゲーセンのネオンがチカチカ光り、UFOキャッチャーの電子音がピコピコ響く。あんまり行かないけど、最近のゲーセンはすげえ。外のたこ焼きの屋台から漂うソースの匂いが、ムワッと鼻をくすぐる。焔華は、ゲーム機の前に仁王立ちして、クレーンゲームのぬいぐるみをジロジロ睨んでる。狐耳がピクッと動いて、帽子の穴からヒクヒクと覗く。ヤバい、目立つなよ!


「ヨシノブ、のう! この『くれーんげえむ』とかいう機械、なんじゃ!? あのフサフサした奴、妾の尾に似ておるぞ! 霊力は宿っておらんが、取ってみせい!」


焔華が細い指で、キツネのぬいぐるみをビシッと指す。ああ、なんだっけこれ……。俺は、財布から100円玉をガサゴソ取り出しながら、ため息をつく。


「お前、さっき国宝の霊気はパクったくせに、ぬいぐるみは取れずに欲しがるとか、おかしいだろ……」


「ふん! 人間の童が、妾に指図するとは笑止じゃ! 別に壊してもいいのじゃぞ? 壊されたくなかったら、ほれ、さっさと取るのじゃ! でないと、このカラクリを、妾の炎で焼き尽くすぞよ!」


焔華の赤い目がギラリと光って、犬歯がチラッと覗く。ヤバい、ガチでやりかねねぇ! 冗談じゃねえ、ゲーセンを守るためにヌイグルミを取るしか……。つか、こいつには諦めるという選択肢はないのかよ。俺は、慌てて札を両替機に投入して、クレーンのボタンをガチャガチャ押す。くそ、最近のクレーンは結構たけえ。しかもアームがインチキしてる機種があるらしいからな。クレーンがウィーンと動いて、キツネのぬいぐるみにカチッと引っかかるけど、スルッと落ちる。パワーがおかしいだろ。くそ、難しいな!


「ヨシノブ、お主下手くそじゃな! 妾なら一発じゃぞ! 操作はわかった、ほれ、代わってみせい!」


焔華が俺をグイッと押しのけて、小さい手でボタンをガンガン叩く。クレーンがグイグイ動いて、ぬいぐるみをガシッと掴む。次の瞬間、ぬいぐるみがあっさり吊り上がってポトンと落ちて、出口にドサっと転がる。マジか、コイツ、初挑戦で取った!?


「ハハ! 見たか、ヨシノブ! 妾の力、こうじゃ! このフサフサ、うむ、妾の尾のミニ版じゃな!」


焔華がキツネのぬいぐるみをブンブン振り回して、ケラケラ笑う。ゲーセンのガヤガヤした喧騒の中で、ピンクのワンピと狐耳がヒラヒラピクピク動くの、なんか……可愛い。いや、ダメだ、こんなん思ったら負けだ! コイツは、さっき博物館で国宝から霊気を抜き取った大妖怪だぞ!


「お前、またなんかやっただろ。なぁ、焔華。さっきの剣……霊気抜いたって、あれほんとにバレねぇのか? つか、三明剣、あと二振あるんだろ? 次はどうすんだよ?」


俺の言葉に、焔華がぬいぐるみをギュッと抱きしめて、ニヤリと笑う。赤い目が、まるで炎みたいにギラギラ光る。


「ふん! ヨシノブ、お主はビビりすぎじゃ! 人間どもの目など、妾の霊気でなんとでも誤魔化せる。ガワさえ残っとれば、誰も気づかんよ。クレーンに霊気を纏わせてもな。残りの二振? ハハ、妾の霊力、感じるぞよ。どこかで妾を呼んでおる。慌てんでも、必ず手に入れるのじゃ! ヨシノブ、お主、妾の霊使じゃろ? 当然一緒に探すのじゃ!」


焔華の声が、なんかゾクッとする。俺は、急に心臓がドクドクうるさくなって、冷や汗がダラダラ流れる。やっぱりまだあるのか。三明剣、ノブナガ、巫女の裏切り……コイツの執念は、ただの宝物探しじゃねぇ。なんか、デカい目的があるんだろう。


「ヨシノブ、ぼーっとするな! ほれ、この『げえむせんたー』、まだ何か面白いものがあるじゃろ? 外のたこ焼きも食いたいぞよ!」


焔華がぬいぐるみをブンブン振りながら、たこ焼き屋台をビシッと指す。俺は、ため息つきながら、財布をガサゴソ漁る。博物館で国宝の霊気をパクった後、ゲーセンでぬいぐるみとたこ焼きって……この夏休み、マジでカオスすぎる。けど、焔華のキラキラした目を見てると、なんか……胸がゾクゾクする。この冒険は、どこに転がってくんだろうな。


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