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第四話:剣の残影


夏の陽射しが、俺のアパートの窓からギラギラ差し込んで、カーテンが薄汚れた白をビリビリ照らし出す。扇風機がブーンと唸りながら、熱気をグチャグチャにかき回してるけど、部屋ん中の空気は、明らかにいつもよりなんか重い。


俺、ヨシノブ、21歳、国立大の3年生、こんなクソ田舎で、1400年前の大妖怪とPCの前で並んで座って、国宝の剣をググってるなんて、頭おかしい状況にしか思えねぇ。焔華、10歳のガキみたいな見た目のくせに、ムロマチ時代に国を焼き尽くした大妖狐だっつってんだから、そりゃもう現実感ゼロだ。なのに、コイツが俺のボロいアパートの床に寝っ転がって、毎日冷凍たこ焼きをパクパク食いながら、ノートPCの画面をジロジロ覗いてくるの、マジでシュールすぎる。


「ヨシノブ、のう! この『三明剣』とやらは、ほんに国宝じゃと? ふん、愚かな人間どもが妾の宝物を飾り物にしとるとは、笑止千万じゃ!」


焔華のやかましい口調が、部屋にキンキン響く。銀髪が扇風機の風にサラサラ揺れて、赤い目がPCの画面にギラリと光る。こいつは毎日俺のダボダボTシャツを着て、ソファの上でゴロゴロ転がりながら、たこ焼きにマヨネーズをドロドロかけて美味そうに食ってる。コイツ、1400年封印されてた大妖怪なのに、コンビニ飯にハマりすぎだろ。


「ハッ、お前、三明剣って……マジかよ。国宝らしいぞ? これが、博物館にガチで飾ってあるんだって」


俺、キーボードをカタカタ叩きながら、ネットの検索結果をスクロールする。三明剣。一振は確かに国宝指定されて、どっかの博物館に収蔵されてるらしい。残りの二振は行方不明、ってか、1400年も経ってりゃ錆びて消滅してんじゃねぇの? けど、焔華の話だと、その剣にはコイツの霊力が宿ってるってんだから、ただの鉄の塊じゃねぇんだろうな。


「ふん! 博物館じゃと? 人間どもが妾の剣をありがたがって毎日ガラス越しに眺めておるのか! 許せんのじゃ! ヨシノブ、ほれ、さっさとその剣のありかを突き止めるのじゃ!」


焔華がたこ焼きをパクッと頬張りながら、ちっちゃい指で俺をビシッと指す。マヨネーズが唇の端にちょこっとついて、なんか……いや、ダメだ、可愛いとか思ったら負けだぞ! コイツ、人の頭ん中が読めるんだぞ。ヤバい、ヤバすぎる。


「ちょっと待てよ、焔華。博物館、まあ行くだけ行く前に、お前は、服買わねぇとダメだろ。ずっと俺のTシャツじゃ、ヤバすぎて外歩けねぇよ」


俺は、ネットの通販サイトを開いて、女児用の服をポチポチ検索し始める。けど、なんか……子供服のページスクロールしてると、すげぇ後ろめたい気分になってくる。検索履歴に「女児 ワンピース」「キッズ ハット」なんて並んでたら、完全に通報案件だろ。もうどうにでもなれ。冷や汗が背中をツーッと滑り落ちる。


「ふん! 服など、妾には不要じゃと言っておろう! 夜は風が肌をスースー撫でるのが心地良いのに! だが、まぁ、お主がそんなにビビるなら、仕方なく着てやるぞよ。ほれ、このショッキングピンクのフリフリなやつにしろ!」


焔華がPCの画面に顔をグイッと近づけて、いかにもな地雷系のフリルワンピを指差す。コイツ、ガキっぽい見た目の割りにヤバめなチョイスだな……って、待て、ショッキングピンク!? 目立ちすぎだろ! つか、コイツの耳、どうすんだよ。画面越しに見ても分かる、狐みたいな長い耳が、ピョコンと頭から生えてる。人間の耳はねぇ。霊体ってやつなんだろ、これが。体温もなんか低くて、触るとヒンヤリしてるのに、たこ焼き食って興奮するとジワッと熱くなるんだよな。妖怪って、いざ本物を前にすると、マジで不思議すぎる。普通には死なないってのも、なんか分かる気がした。


「ヨシノブ、のう! この『ぱそこん』とかいう箱、なかなか面白いじゃろ。人間どもの頭の中を覗くより、こっちのが楽じゃ! ふむ、お主のパスワード、810893だの114514だの、極めて古典的で不用意じゃのう!」


焔華がケラケラ笑いながら、たこ焼きをもう一個パクッ。俺は、心臓がドクンと跳ねて、キーボードから手を離す。


「う、うるせぇな! 覚えやすいのが良いんだよ! お前に会うまでは後ろめたいものも別になかったし! だいたいな、お前のその記憶読みの能力、ズルすぎだろ! つか、頭ん中読めるなら、レンジの使い方くらい自分で覚えろよ! 冷凍たこ焼き、自分でチンしろ!」


「ハハ! 何じゃ、ヨシノブ、では妾に喰い尽くされてもいいと申すのか? 残念じゃのう、その貧相な体、ガブリと一瞬じゃぞ!」


焔華の赤い目がギラリと光って、犬歯がチラッと覗く。ヤバい、ガチで喰われそうな気配がする。俺は、慌てて手を振る。


「い、いいわけねぇだろ! ほら、服選ぶぞ。もうちょっとマシなピンクのワンピと…帽子な。耳、なんとか隠さねぇとヤバいからな」


俺は、通販サイトでピンクのワンピと、耳を隠せそうな大きめのハットをカートにポチポチ放り込む。結構たけえ。下着も……って、子供用のパンツ選ぶの、なんかマジで気まずい。けど、焔華のあのヒンヤリした肌、なんか普通の布じゃ合わねぇ気がする。コイツ、霊体なんだよな。服着てても、なんか透けそうな雰囲気があるぜ。


「ふん、ヨシノブ、お主、妙に真剣じゃのう。妾のこの耳がそんなに気になるか? これ、1400年前は自慢の証じゃったぞ。人間どもの巫女が、妾の耳を撫でながら……ふん、まぁ、昔話じゃ。ほれ、さっさと買うのじゃ!」


焔華の声が、急にちょっと暗くなった。巫女? 裏切ったって話の巫女か? 俺は、気になってチラッと焔華を見た。たこ焼きを食いながら、赤い目がPCの画面にじっと向いてるけど、なんか……遠くを見るみたいな目だ。1400年前、ムロマチの時代、一体どんなヤツがコイツを裏切ったんだ? コイツほどのヤバい妖怪を裏切るなんて、どんな巫女だよ。頭ん中でグルグル考えながら、俺は、ポチッと購入ボタンを押す。


「よし、服と帽子、注文したぞ。明日には届くはず。んで、三明剣の博物館、ちょっと遠いけど……まあ、見に行くだけなら、まぁ、行けなくねぇな」


「うむ! さすが妾の霊使、話が分かるのじゃ! この剣、妾の霊力が宿る宝物じゃ。見つけたら、妾の真の力を取り戻せるぞよ。ハハ、ヨシノブ、お主、楽しみにしてるがよいぞ!」


焔華がニヤリと笑って、たこ焼きをパクッと頬張る。マヨネーズとソースの匂いがムワッと漂って、俺の腹がグウッと鳴る。コイツの「真の力」、前回チラッと見た170cmくらいの妖艶な姿、あれが本気なら……ヤバすぎるだろ。昔、漫画でナントカ人スリーが初めて登場した時には地球が震えてたけど、あんな感じの威圧感があった。近所の奴も流石になんか感じてたかもしれねえ。けど、そんな奴が、あんな剣を、なんでそんな大事なんだ? 巫女の裏切りと何か関係があんのか? 俺は、読まれると分かってても心臓がバクバクうるさくて、冷や汗がダラダラ流れる。


「なぁ、焔華。その巫女って……どんなヤツだったんだ? お前を裏切るなんて、よっぽどの実力か覚悟がなきゃ無理だろ」


俺の言葉に、焔華の動きがピタッと止まる。たこ焼き持った手がプルプル震えて、赤い目がジロリと俺を射抜く。空気がビリッと張り詰めて、扇風機のブーンって音がやけに遠く聞こえる。


「ふん……つくづくお主は、ほんとに詮索が好きじゃな。あの巫女……名は、ふん、思い出さんでもいいじゃろ。妾を封じた陰陽師どもの手先となって、妾の耳を撫でたその手で、妾を裏切ったのじゃ。剣を握りしめて、泣きながらな……ハハ、愚かな人間め!」


焔華の声は、なんか震えてる。赤い目が、チラッと濡れたみたいに光る。待て、泣いてんのか? いや、まさか、この大妖怪がな……。俺は、ゴクリと唾を飲んで、なんとか言葉を絞り出す。


「その剣……元はその巫女のものだったんだろ? だから、お前にとってそんな大事な…」


「黙れ、ヨシノブ! お主、妾の心を抉る気か!? その剣は妾の霊力の欠片じゃ! それを取り戻せば、妾は……ふん、まぁ、いいじゃろ。ほれ、チャーハンも持ってくるのじゃ! 妾の腹がグウグウ鳴っとるぞよ!」


焔華がグイッと俺の腕を引っ張る。俺は、よろめきながらいつものようにキッチンに駆け込んだ。冷凍庫からチャーハンのパックをガサゴソ取り出して、レンジに放り込む。チンって音が響く中、頭ん中で焔華のことを考える。巫女、裏切り、三明剣……コイツは、ただの宝物探しじゃねぇ。なんか、すげぇ深い執着が隠れてる気がする。


「ヨシノブ、遅いぞよ! 妾の霊力を貯めるには、もっと食わねばならんのじゃ!」


焔華の声に、俺は、慌ててチャーハンを皿にぶちまける。熱々の米粒が湯気を上げて、ネギとチャーシューの匂いがムワッと鼻をくすぐる。焔華、ソファから飛び降りて、テーブルにガバッと乗り出した。いつものように銀髪がバサッと揺れて、赤い目がチャーハンに釘付けになる。


「うむ! このチャーハン、やはり最高じゃ! ヨシノブ、お主、妾の霊使としてますます気に入ったぞよ!」


焔華がスプーン持ってチャーハンをガツガツ食い始める。マヨネーズまみれのたこ焼きと一緒に、めっちゃ幸せそうな顔だ。俺は、呆れながらも、なんかホッとする。コイツ、ガチでヤバい妖怪なのに、こんなんで満足してるなんて……いや、ダメだ、ほんとはいい奴とか思うなよ!


「なぁ、焔華。博物館、行くのはいいけど……その剣、ガラス越しに見るだけじゃ意味ねぇよな? お前、なんか企んでんだろ?」


俺の言葉に、焔華がニヤリと犬歯を見せる。赤い目が、まるで炎みたいにギラギラ光る。


「ふん! ヨシノブ、お主、なかなか鋭いのう。見るだけ? ハハ、当然そんなわけなかろ! その剣、妾の手で取り戻すのじゃ。妾のものじゃからな。そしたら、妾の真の力を……ハハ、楽しみにしておれよ!」


焔華の笑い声が部屋に響いて、俺の心臓がドクドクうるさい。この夏休み、ただの博物館デートじゃ済まねぇ。国宝の剣、1400年前の裏切り、焔華の執念……俺、なんかとんでもねぇ冒険に巻き込まれちまった気がするぜ。


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